ガンバレ!吹奏楽部!ぶらあぼブラス!vol.22
洛南高等学校 吹奏楽部

ユニークな伝統を持つ京都屈指の進学校
目指すは全国大会への復活!

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

 新幹線や近鉄線が京都駅付近を走るときに、車窓から五重塔が見える。平安京が開かれた際に建立された、1200年以上の歴史を持つ東寺だ。

 洛南高校は、その東寺の境内に位置している。

 偏差値70を優に超える京都府内で屈指の進学校として知られ、地元の京都大学をはじめ、東京大学・大阪大学・神戸大学・同志社大学・立命館大学などの難関大学に多数合格している。

 勉強だけでなく部活動も盛んだ。吹奏楽部は全日本吹奏楽コンクールに14回出場、金賞4回受賞という名門。実は、京都府内の高校で全国大会に出場したことがあるのは洛南だけ。もちろん、ほかの高校もがんばっているとはいえ、洛南は京都を代表するバンドであり、また、燦然と輝く星のような存在でもある。

 卒業生の中には、NHK交響楽団の首席トランペット奏者・菊本和昭、元オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラのトランペット奏者の田中弘などプロ奏者もいる。現顧問の池内毅彦先生も同部のOBだ。

 洛南は現在も毎年関西大会に進出している。2006年には共学化され、いまは部員の半数以上が女子になっている。
 ただ、全国大会からは17年間遠ざかっている。

池内毅彦先生

 2024年度、洛南高校吹奏楽部の部長に選ばれたのは3年生でフルート担当の内藤絢子だ。絢子は第61代の部長になるが、女子の部長は初となる。

「中学の先輩が洛南にいて、定期演奏会を見にいったのが洛南を目指すようになったきっかけです。難関校なので雲の上の存在やと思っていたんですけど、吹奏楽部に入りたいという気持ちで勉強を頑張りました」

 絢子は1年生のころ、洛南高校ならではの珍しい伝統に驚いたという。

 部活は毎朝のラジオ体操から始まる。それが終わると、名物の「洛南ファイト」をやる。部長を中心に、肩を組んで輪になり、「洛南ファイト! ファイト! ファイト!」と声を上げるのだ。「洛南ファイト」はコンサートやコンクールの本番前にも気合を入れるために行われる儀式でもある。

洛南高校名物「洛南ファイト」

 定期演奏会の最後に全員が整列してやる「ピ応」もある。「ピッ」というホイッスルの音に合わせて「応!」と声を出しながら素早く脚を動かす、たとえるなら応援団の演舞のようなもので、楽器は一切使わない。

 真言宗系の学校ならではの風習もある。ミーティングのたびに東寺に向かって合掌したり、東寺の献米法要では「いろは歌」に基づいた曲を演奏をしながら境内を行進したりするのだ。

 また、吹奏楽部でありながら、琴や篠笛、尺八など和楽器の演奏にも取り組んでいる。

「ピ応」

 2年前にそんなユニークな吹奏楽部に入った絢子は、これまで関西代表への返り咲き——すなわち、全国大会出場を目指して部活を続けてきた。

「去年は関西大会銀賞ですごく悔しかったです。他校に比べると洛南は例年部員数が少なく、今年度も44名。そのせいか、演奏の迫力が足りないと言われることもあります。でも、“根性論”になってしまうかもしれませんが、全員が全国大会出場を強く願う気持ちがあれば、それが音に反映されて迫力にもつながるかなと思っています」

 悪しき根性論ではなく、人の心を揺さぶる音楽のための「良き根性論」。「精神力、メンタルの強さ、意志の力」と言い換えることもできるが、それは吹奏楽のみならず、勉強にも、社会を生き抜く上でも重要なものだ。

 厳しい受験を勝ち抜いて洛南に入学してきた部員たちは、すでにある程度「良き根性論」を身につけているのが強みでもある。

 そして、部員たちが持っている高い知性も大きな武器だ。

「普段の練習で『こうやって演奏してみたら?』と提案したとき、予想もしない角度から別の意見がどんどん出てくるんです。『あぁ、みんな賢いな』と思いますね。手ごわさと頼もしさを感じます」

 絢子はそう言いながら笑顔を見せた。

左より:部長の内藤絢子さん、渡會美羽さん、加地春樹さん、2年生でトランペットの古沢玲衣さん

「関西大会を勝ち抜くためには、タテ(音の出だし)を揃えるのはもちろん、やっぱり音量も必要だと思っています。人数の少ない洛南が、55人(コンクールの参加上限人数)で出場してくるライバル校に対抗するために、一人ひとりの音量やそれを可能にするスタミナ、全体の響きの豊かさを強化したいと思っています」

 そう語るのは3年生のコンサートマスターでオーボエ担当の渡會(わたらい)美羽だ。

 コンサートマスター(洛南では「ミストレス」という名称は使っていない)は「音楽面のリーダー」。顧問の先生がいないときなどに練習を主導していく立場だが、実は美羽は「人前でしゃべるのが苦手」なのだという。

「コンサートマスターになってしまいましたが、いまでも苦手で……。練習のときにはダメ出しもしなければいけないのですが、いつも心苦しさを感じながら指摘をしています。ときには、プレッシャーに負けて、優しい言い方をしてしまうこともあります。ただ、全国大会出場という目標を達成するためには、そこは私自身が克服しなければいけない課題だと思っています」

 全国大会出場は最大の目標。しかし、洛南の部員たちにとっては、部活だけでなく、勉強も大事だ。

 美羽は、「場所によって、勉強と部活のスイッチを切り替える」方法を使っているという。

「学校は部活をする場所、と決めています。部活を終え、学校を出てから行く自習室が勉強をする場所です。家はご飯を食べて寝る場所です(笑)」

 クラリネット担当の3年生、加地春樹は滋賀県から通学しながら国公立大学の医学部を志望しているが、美羽と同様、場所によってメリハリをつけていると語る。

「部室にいるときは部活に集中しますが、教室にいるときは勉強モード。できる限り授業中に知識を吸収するようにしています。僕は数学が苦手なので、自宅にいるときは数学を集中的に勉強しています」

 教室では、受験勉強に専念しているクラスメイトの姿を目にして焦りを感じることもある、と春樹は語る。

「でも、吹奏楽部の先輩たちが部活を一生懸命やりながら、京大や阪大に進学したのを知っているので、部活と勉強は充分両立できると思っています」

 部長の絢子はこう語る。

「吹奏楽を頑張るからといって勉強がおろそかになったり、その逆になったりするのはイヤやなと思っています。どちらにも全力を注ぐ吹奏楽部でありたいですし、その上で今年こそは絶対に全国大会に出場したいです」

 前述したとおり、洛南はプロの奏者も輩出しているが、現在も音楽の道を志して練習に励んでいる部員がいる。

 2年生の古沢玲衣は、小学4年生で吹奏楽部に入り、コルネットやトランペットを吹きはじめた。

 小学校時代は、全日本小学生バンドフェスティバル(全国大会)で金賞、日本管楽合奏コンテストで最優秀賞などを受賞。中学時代は、中2のときに全日本アンサンブルコンテストに金管五重奏で出場し、京都の中学校としては16年ぶりとなる金賞を受賞した。

 またソロでも、中3のときに日本ジュニア管打楽器コンクール(トランペット・中学生コース)で金賞。日本一に輝いた。

 洛南に入ってからも、今冬の日本ジュニア管打楽器コンクール(トランペット・高校生コース)で銅賞を獲得した。当時の玲衣は高1で、上位の2人はいずれも東京藝術大学の附属高校生だったので、充分健闘したといえる。

 もともと玲衣は4人姉妹の末っ子だった。

「3人の姉のうち2人が洛南の吹奏楽部でした。定期演奏会をよく見にきていて、自然と『私も洛南で吹奏楽をやりたいな』と思うようになったんです」

 高校入学時には音大進学を考えていなかった。

「高1の夏に池内先生に『音大を目指してみたら』と言っていただいてから考えるようになりました。私は、音楽しかやらない高校生活はイヤなんですけど、勉強をしながらN響の菊本先生やレッスンの先生の指導を受けられる洛南はいい環境やなと思います。勉強はあまり好きではないんですけど(笑)」

 真剣に部活をしながら、好きではない勉強で洛南に入れるのだからすごいとしか言いようがない。

 洛南では1年生のときからトランペットの首席(トップ)奏者を務めている。今年度は3年生がおらず、2年は玲衣を含めて2人だけ。トランペットは吹奏楽の花形パートだけに、責任重大だ。

「洛南高校吹奏楽部として全国大会に出てみたいです。うまい人が揃ったから全国大会に行けるわけではなく、まずみんなが同じ目標を持つことが必要やと思います」

 その考えは部長の絢子と同じだ。

「将来の目標ははっきり決めてはいないですが、大先輩の菊本先生のようなトランペット奏者になれたら……という思いはあります」

 玲衣の視線は音楽の高みに向けられている。

 自分の弱さを克服する、受験で医学部に合格する、音楽の道に進む……。

 それぞれに目標を持ちながらも、洛南の部員たちが共通して目指しているのは全日本吹奏楽コンクール出場だ。

 関西支部は、昨年代表となった大阪桐蔭高校、明浄学院高校、東海大学付属大阪仰星高校のほか、淀川工科高校、近畿大学附属高校、滝川第二高校、尼崎双星高校など強豪校がひしめき合っている。

 その中から、10月20日に宇都宮市文化会館で開催される全国大会に出場できるのはわずか3校のみだ。

 磨き上げた演奏と「洛南ファイト!」の声を再び全国大会のステージで響かせるために——。「良き根性論」を持って練習を続ける部員たちを、五重塔が静かに見守っている。

編集長’s voice  – 取材に立ち会って感じたこと –
「せっかくだから・・・」とオザワ部長と東寺の境内を通って洛南高校へ。五重塔や立体曼荼羅がおさめられている講堂など多くの国宝が居並ぶ敷地を進んだところに校舎はあります。関西地方きっての進学校ということで、どんな生徒さんたちだろうと想像しながら練習所へ。まず感じたのは集中力の高さ。池内先生の指示に機敏に反応していきます。そして取材を始め話を聞いていくと共通していたのは、「物静かでありながら強い芯を持っている」ということ。特に「切り替え」ということを皆さん口にしていました。部活と勉強の両立には欠かせないことですね。しかしこんなすごい立地で青春時代を過ごせるというのは、なんとも羨ましいことです。


『空とラッパと小倉トースト』
オザワ部長 著
学研プラス 音楽事業室 ¥1694

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