ガンバレ!吹奏楽部!ぶらあぼブラス!vol.23
スペシャル対談 上野耕平&児玉隼人

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●vol.3 日本航空高等学校 吹奏楽団
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●vol.7 千葉県立国府台高等学校 吹奏楽部
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●vol.19 第51回マーチングバンド全国大会
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●vol.23 スペシャル対談 上野耕平&児玉隼人
●vol.24 沖縄県立小禄高等学校 吹奏楽部
●vol.25 佐賀学園高等学校 吹奏楽部
●vol.26 中村明夫(長崎短期大学保育学科准教授)
●vol.27 石川県立金沢桜丘高等学校 吹奏楽部
●vol.28 第72回全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部レポート

ふたりの天才管楽器プレイヤーの邂逅
その共通点は「吹奏楽」だった

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

 若手プロ吹奏楽団「ぱんだウインドオーケストラ」のコンサートマスターでサクソフォン奏者の上野耕平さんと、「14歳のスーパートランペッター」として国内外で注目される児玉隼人さん。

 若くして音楽の才能を開花させたふたりの天才プレイヤーがいよいよ共演を果たす。

 6月30日、東京・めぐろパーシモンホールで開催されるぱんだウインドオーケストラの公演に、ソリストとして児玉さんが出演することになったのだ。

 そこで、本番に先駆けてWインタビューをおこなったところ、ふたりとも意外なほど吹奏楽に関わりが深いことが判明した。

「僕がサックスを始めたのは茨城県の小学校の吹奏楽部に入ってから。小2の秋でした。それまでピアノも何もやったことがなく、楽譜も読めませんでした。吹奏楽部でコンクールに出たりしていたんですけど、小4のときに地元東海村で開かれた須川展也先生のリサイタルを聴いて景色が変わりましたね。『サックスでこんな音が出せるのか、こんな面白いことができるのか』と。思い返せば、その出会いが大きかったです。小6からはプロを目指すようになりました」

 上野耕平さんはそう語る。

 上野さんは小学生のときから注目の存在だったが、それは児玉さんも同じだ。

「僕が楽器を始めたのは5歳のとき。クリスマスの朝、目が覚めたら枕元にサンタさんからのプレゼントでコルネットが置かれていたんです。それからチューバ奏者だった父に教えてもらったり、音源やネットの動画の真似をしたりしながら練習してきました。小学校に入る前、アンドレ・アンリさんの演奏を生まれ育った釧路で聴いて『この人と一緒の仕事をしたい。トランペットが仕事になったらいいな』と思ったのが、プロを目指したきっかけです」

 小学校入学前にプロ志願という早熟ぶり。上野さんも「それはすごい!」と驚いていた。

 上野さんは小学校と中学校で吹奏楽部に所属していたが、ソロプレイヤーの印象が強い児玉さんも小学校で金管バンドに入り、釧路の中学校では吹奏楽部に所属して吹奏楽コンクールにも出場したのだという。

「小6で初めてソロリサイタルをやってからいろいろなコンサートに出演してきて、全部思い出に残っているんですけど、いちばん印象深いのは中1の吹奏楽コンクールです。結果は地区大会を抜けられなかったんですけど、《展覧会の絵》のソロを何ヵ月も練習して本番に臨んだことが忘れられません」

 現在は釧路から関東に拠点を移している児玉さんだが、通っている公立中学校でも吹奏楽部に所属しているそうだ。

吹奏楽部で演奏する児玉さん

 児玉さんは、10歳以降に出場したすべてのソロコンクールで第1位や最高賞を受賞し、一躍話題の存在に。これまで群馬交響楽団、東京佼成ウインドオーケストラ、東京フィルハーモニー交響楽団など数多くのプロ楽団と共演してきている。

 また、SNSで毎日のように練習動画をアップしており、それが国内外で話題になっているのだが、実は上野さんも児玉さんの動画をチェックしていたのだという。

「音を聴いてぶったまげました。『こんな子が出てきたんだ!』と。ただ楽器がうまいだけの子じゃない。歌いたい子なんだ、すごく素敵だなと思いましたね。僕は常々、もっと管楽器界のスターになるようなソリストが出てきてほしいと思っているんですけど、児玉君は間違いなくスターだと動画を見て感じました」

 それを聞いた児玉さんは、「まさか動画を上野さんに見てもらえてるなんて思ってなかったです。めちゃくちゃ嬉しいです」と感激していた。現在、児玉さんが所属している事務所は上野さんと同じだが、それも上野さんからの強い勧めで事務所が動いた結果だという。

 インタビュー当日、ふたりからは卓越した才能と才能が自然と引かれ合う運命の流れのようなものが感じられた。そして、その流れの先にあるのがぱんだウインドオーケストラの公演「ブラスで輝け、未来に羽ばたけ!」だ。

 この公演で、児玉さんはぱんだをバックに人気作曲家フィリップ・スパークの《トランペットと吹奏楽のための「マンハッタン」》を演奏することになっている。

 児玉さんはこう語る。

「《マンハッタン》はリズミカルなところがあったり、歌うところもあったり、吹奏楽と一緒に演奏することで輝く曲だと思います。憧れていたぱんだの皆さんと一緒にやれるのが本当に楽しみです」

 児玉さんと同様に、上野さんも初共演に期待を膨らませている。

「《マンハッタン》は僕らにとっても初めての曲。児玉君と一緒にやることでどんな景色が見えるのか楽しみですし、新しい自分の音に出会えるかもしれない、とワクワクしています」

 コンサートでは特別企画として、ぱんだウインドオーケストラが目黒区の区立中学校の吹奏楽部とアルフレッド・リード《音楽祭のプレリュード》など2曲で共演する。児玉さんにとっては、まさに同世代が同じステージに乗るのだ。

「同じ中学生の演奏を見るのも楽しみですし、僕自身もトランペットの演奏で吹奏楽部の皆さんをびっくりさせられたらいいなと思っています」

 児玉さんが「お客さんにはいまの初々しい自分が奏でる音、音色の多さ、トランペットという楽器の魅力などに注目してもらいたいです」と言うと、上野さんが「僕も常に初々しいつもりでいますよ」と冗談めかし、ふたりは笑い合った。優れたプレイヤー同士、会話の中で共鳴が始まっているのが感じられた。

 せっかくなので、ふたりにいくつか質問を投げかけてみた。
 1つ目の質問は「本番のときに緊張するか」。

 児玉さんはこう答えた。
「緊張します。ステージに出ると集中し、世界に入って楽しく演奏できるんですけど、舞台裏では緊張でお腹が痛くなったりします」

 一方、上野さんもかつては緊張していたものの、いまはもう克服できているという。

「だんだん緊張するような状況を楽しめるようになってきて、自然体でできるようになりました。『ここは家のリビングかな?』と思うときもあるくらい(笑)。きっと児玉くんも本番を重ねれば重ねるほど慣れて、変わっていくんじゃないかな」

 2つ目の質問は「自分にとって楽器はどんな存在か」。
 これには上野さんが先に答えてくれた。

「体の一部ですね。10年くらい前は自分と楽器が別々でしたけど、だんだん楽器を飲み込んで吹くことができるようになってきました。その結果、歌うように、しゃべるように、怒鳴るように吹くこともできてきました」

 児玉さんも上野さんの言葉に共感してこう語った。

「僕もまったく同じです。楽器は体の一部。音が出る通過点のようなものでもあるし、自分の歌を輝かせてくれる存在でもあります」

 優れたプレイヤーはいかに楽器を自分のものにして、自分の中にある音楽を豊かに表現する(=「表」に「現」す)かが大切だということだろう。

小学校6年生、デビューリサイタルでの児玉さん


 最後に、ふたりに日々部活動で頑張っている吹奏楽部員にアドバイスやメッセージをもらった。

 上野さんはこう語った。

「みんなうまくなりたいと思うんですけど、なぜうまくなりたいのかと考えてみると、そこにヒントがあるかもしれません。『この曲をこういうふうに吹きたい。だから、自分はうまくなりたいんだ』とわかったら、きっと視界がクリアになると思います。僕だって練習でうまく演奏できずにめげそうになったことはありました。そのとき、闇雲に練習を続けるのではなく、一歩立ち止まって『自分はこう吹きたい。なぜできないのか』と考えていくのが効果的な練習となります」

 上野さんは以前からプロの優れた演奏をたくさん聴くことが上達の近道になると訴えている。

「いい音を聴けば聴くほど自分の理想が高まり、目指すものがはっきり見えてくるんです。何を目指しているのかわからない状態で練習するのは苦行ですけど、理想に向かって練習するのは幸せです。特に、若いうちにたくさんインプットすることは演奏が上達するだけでなく、一生の心の財産になると思います」

 児玉さんも「僕もたくさん聴くことで育ってきたようなものなので」と上野さんの言葉に賛同しつつ、こう語ってくれた。

「演奏する予定の曲があるとしたら、僕だったら音源をすべて聴いて、それぞれのアーティストの表現の違いを感じながら自分なりに解釈し、『僕はこう演奏するのが好きだな』というのを考えます。演奏にはテクニックも大事だけど、音のほうがさらに大事。自分の中の理想をつくって、常に向上心を持ってやっていくのがめちゃくちゃ大切なことだと思います」

 インタビューが進むと、上野さんと児玉さんの言葉はさらに共鳴し、よりシンクロ率が上がっていった。6月30日の本番では、ぱんだウインドオーケストラの奏者も含めて楽器と楽器、音と音の美しい響き合いが聴けることだろう。

 吹奏楽や管楽器の魅力と可能性をさらに広げていくふたりの若き天才プレイヤー。今後の活躍に大いに期待したい。

ぱんだウインドオーケストラ
ブラスで輝け、未来に羽ばたけ!

2024.6/30(日)15:00 めぐろパーシモンホール

出演
水戸博之(指揮)
ソリスト:児玉隼人(トランペット)
ぱんだウインドオーケストラ、上野耕平(コンサートマスター/サクソフォン)
特別共演:目黒区立中学校吹奏楽部

曲目
前久保諒:Welcome to PANDA!
ホルスト:ハマースミス 吹奏楽のための前奏曲とスケルツォ op.52
アイルランド民謡(芳賀傑 編曲):ダニー・ボーイ
スパーク:トランペットと吹奏楽のための「マンハッタン」(Tp. 児玉隼人)
リード:音楽祭のプレリュード
宮川彬良:僕らのインベンション
リード:エル・カミーノ・レアル
アラルコン:ドゥエンデ 吹奏楽のための4つの前奏曲

目黒区立中学校吹奏楽部 共演曲

問:めぐろパーシモンホールチケットセンター03-5701-2904
https://www.persimmon.or.jp


『空とラッパと小倉トースト』
オザワ部長 著
学研プラス 音楽事業室 ¥1694

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