ガンバレ!吹奏楽部!ぶらあぼブラス!vol.24
沖縄県立小禄高等学校 吹奏楽部

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限界を越えていけ! 小禄高校38人の夢の道

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

「それじゃあ、やってみるよ。せーの!」

 顎髭を蓄えた顧問の富田亮先生が指をパチンパチンと鳴らしてカウントを取り、指揮棒を振る。目の前に座った38人の部員たちが楽器を奏で始め、音楽室に吹奏楽の響きが広がった。

 演奏されたのは、有名な沖縄民謡のひとつ、《てぃんさぐぬ花》だ。「てぃんさぐぬ花」とはホウセンカのことで、優しく美しいメロディは県外でも愛されている。

 沖縄県那覇市にある沖縄県立小禄高校。吹奏楽部は昨年11月に行われた沖縄県高等学校総合文化祭で県代表に選ばれ、8月上旬に岐阜県で開催される第48回全国高等学校総合文化祭(総文祭)に出場することが決まっている。

 披露するのは、真島俊夫作曲の2つの作品、《ベイブリーズ》と《五つの沖縄民謡による組曲》だ。

《五つの沖縄民謡による組曲》には、《てぃんさぐぬ花》のほかに《いったーあんまーまーかいがー》《芭蕉布(ばしょうふ)》《安里屋(あさとや)ゆんた》《谷茶前(たんちゃめ)》という民謡が登場する。沖縄ならではの音階やリズムを吹奏楽の演奏で奏でる曲だ。

 富田先生は選曲の理由をこう語る。

「せっかく島を出て内地に行くので、沖縄の高校らしく沖縄の音楽を入れられたらと思い、選曲しました。民謡の演奏は簡単ではないですが、やはり自然と体に染みついているところもあるところもあると思います」

 その言葉どおり、部員たちの演奏する《てぃんさぐぬ花》は沖縄ならではの情感をにじませながら音楽室から校舎の外へ——美しい島の風景、広々とした空と海へ向かって響きだしていった。

左より:榊結已さん、富田亮先生、渡久地七海さん

 富田先生は2023年度から小禄高校吹奏楽部を指導。今年度が2年目だ。

 ホルン担当で副部長の3年生、「ナナミー」こと渡久地七海(とぐちななみ)は言う。

「亮先生は第一印象は怖そうだったけど、実際はめっちゃ優しい人でした。うちの部活は自分に自信がない子が多いんですけど、先生が個人やパートを丁寧に指導してくれたり、楽しく合奏をしてくれたりしたおかげで、だんだんみんなの間に自信が芽生えてきました。先生と合奏をするたびに上達するのが感じられて嬉しかったし、総文祭出場が決まったときは信じられない気持ちでした」

 フルート担当で部長の3年生、「ユイー」こと榊結已(さかきゆい)も富田先生の指導によってバンドの力が大きく伸びたと考えている。

「亮先生は音楽の楽しさを教えてくれながら、私たち自身で音楽をつくるように促してくれるんです。自主性を育んでくれる先生です」

 ナナミーやユイーたちはいま総文祭に向けて練習を続けている。費用や時間の関係で、沖縄の吹奏楽部が県外に出ていくことは簡単ではない。総文祭はまたとないチャンスだ。

 ユイーは言う。

「県外の吹奏楽部の演奏を一度も聴いたことがないんです。総文祭では全国から集まってくるレベルの高いバンドの音楽づくりや響きをたくさん聴いて、吸収したい。その上で、沖縄に帰って自分たちなりのサウンドをつくっていきたいです」
 もちろん、ただ他校から学ぶだけでなく、自分たちの演奏でもインパクトを与えたい。その点、沖縄独自の豊かな音楽文化を伝えることができる《五つの沖縄民謡による組曲》はうってつけだ。

 ユイーは沖縄の伝統楽器・三線(さんしん)を弾いて民謡を歌うことができる。

「おじいちゃんが三線の先生だったんです。私と違って部員の中には三線に触れたことがない子も多いですが、民謡は自然と体に染みついているものなので、それを吹奏楽で表現していけたらいいなと思っています」

 ただ、総文祭の前、7月下旬には吹奏楽コンクールの県大会もある。自由曲として選んだのは、難曲として知られるジェフリー・ローレンス作曲《エルフゲンの叫び》。かつて、「吹奏楽の神様」と称された沖縄出身の名指導者・屋比久勲先生が福岡工業大学附属城東高校と鹿児島情報高校を率いて演奏し、全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞したこともある曲だ。

 ナナミーやユイーたちが目標として掲げているのは、県大会を突破し、九州大会で金賞を獲得すること。しかし、それは簡単なことではない。沖縄県代表は2枠しかなく、小禄高校の前には那覇高校やコザ高校、宮古高校など県内の強豪が立ちはだかっている。もし九州大会に出られたとしても、全国トップレベルのバンドが待ち構えている。

 だが、ナナミーは目を輝かせながらこう言った。

「中学時代から私は『九州大会に行きたい』と言っていましたが、心のどこかで『どうせ無理だろう』と思っていました。自分の限界を決めてしまっていたんです。でも、亮先生がそれを変えてくれました。もともと性格的にチャレンジすることが苦手でしたが、自分たちでつくり上げた音楽を沖縄だけでなく、九州の人たちにも聴いてもらいたい。そのためにも本当に九州大会に進みたいです。もっともっと自分自身を変え、チャレンジ精神を身につけ、自分たちなりの音楽を表現して、高い目標の実現に挑みたいです。もちろん、できることなら全国大会にも行きたいとめっちゃ思います!」

 コンクール(大編成)は最大55人まで出られるが、小禄高校は1年生もすべて合わせて38人と不利だ。しかし、ユイーはそれをはねのけていけると意気込みを語ってくれた。

「大人数のバンドに比べて、人数が少ない小禄高校はピッチやハーモニー、響きを揃えやすいところがあります。みんなの音がぴったり合えば、ホール全体が楽器になったかのように鳴ってくれると思います。少ないからこそできることがいろいろあると思うので、デメリットをメリットに変えて頑張りたいです」

 公立校ゆえに練習時間は限られ、週2日は休み。朝練は自主練習となっている。

 また、楽器も古びている。ナナミーが使っている学校のホルンも年代物で、ほとんど表面のラッカーが剥がれ、小さなくぼみが各所にある。これは日本全国の多くの公立校に共通する課題である。

 だが、工夫によってデメリットをメリットに変換し、自分たちの限界を越えていこうとする若者たちの可能性は無限大だ。

 ナナミーやユイーたちの視線は、真っ青な沖縄の海のずっと先にある輝かしいステージへと向かっている。


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