ガンバレ!吹奏楽部!ぶらあぼブラス!vol.16
北海道札幌国際情報高校 吹奏楽部

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●vol.3 日本航空高等学校 吹奏楽団
●vol.4 東海大学菅生高等学校 吹奏楽部
●vol.5 尼崎市立尼崎双星高等学校 吹奏楽部
●vol.6 秋田県立秋田南高等学校 吹奏楽部
●vol.7 千葉県立国府台高等学校 吹奏楽部
●vol.8 高校生による夢の吹奏楽コンサート
●vol.9 和歌山県立星林高等学校吹奏楽部
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●vol.19 第51回マーチングバンド全国大会
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●vol.21 京都橘高等学校吹奏楽部
●vol.22 洛南高等学校 吹奏楽部
●vol.23 スペシャル対談 上野耕平&児玉隼人
●vol.24 沖縄県立小禄高等学校 吹奏楽部
●vol.25 佐賀学園高等学校 吹奏楽部
●vol.26 中村明夫(長崎短期大学保育学科准教授)
●vol.27 石川県立金沢桜丘高等学校 吹奏楽部
●vol.28 第72回全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部レポート

コンクールで競わなくても部員130人以上!
「ダンプレ」は青春だ!

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

 初めてその演奏を目にした人はきっと面食らうに違いない。

 名称は北海道札幌国際情報高校吹奏楽部。確かに、ずらっと並んだ部員たちが演奏しているのはフルート、サックス、トランペット、チューバ……といった吹奏楽で使われる管楽器だ。

 しかし、どうも「普通」の吹奏楽部とは違う。演奏する場には、譜面台も椅子もない。部員たちは立ったままだ。しかも、ほとんどじっとしていることはなく、楽器を奏でながら足でステップを踏み、クルッと回転し、飛び跳ねる。演奏しながら行進やパフォーマンスをするマーチングともまったく違う動き。まるで激しいダンスを踊っているようだ。よく見ると、吹奏楽ではほとんど使われないエレキギターも演奏に参加している。曲によっては部員がマイクを手に取り、歌い始める。

 部員たちは誰を見ても笑顔、笑顔、笑顔……。
 踊って、奏でて、歌って——これは本当に吹奏楽部?

 いや、これこそが札幌国際情報高校吹奏楽部、通称「SITバンド」。そして、部員たちが披露しているのは、北海道のテレビや新聞などで頻繁に取り上げられる話題の「ダンプレ」なのだ。

 ダンプレとは、「ダンシング&プレイング」の略。ダンスしながら演奏するスタイルを意味する言葉だ。

 一般的な吹奏楽部でも立ち上がって体を揺らしたり、楽器を上下左右に振ったりしながら演奏することはある。しかし、SITバンドではその域を超え、完全に「ダンス」になっている。本番も「コンサート」ではなく、「ライブ」と呼ばれる。

 現在、SITバンドは3年生が引退し、2年生が最高学年。その中でサブキャプテンを務めるホルン担当の髙石梨桜(りお)は、中学時代に初めてSITバンドを目にしたときの衝撃をこう語る。

「友達と初めて札幌国際情報高校の定期演奏会を見にいったときは、『なんで踊ってるの!?』とびっくりすると同時に、吹奏楽の常識や固定観念が一気に壊れました。私たちは4階席だったんですけど、そんな離れたところまで伝わってくる笑顔や動きが本当に素敵すぎて。『やばい! 私が進むべき道はここだ!』と運命を感じました」

ダンプレ!

 中学校や高校の吹奏楽部というと、その活動で大きなウエイトを占めるのは吹奏楽コンクールだ。

 全国大会や上位大会に出場するために部員たちは青春をかけている、コンクールを大きな目標にして頑張っているという学校が圧倒的に多い。コンクールという明確な目標を設定することで、演奏技術が向上し、音楽への理解が深まり、人間関係でも多くを学べる、といった利点がある。好成績を上げている名門校は人気や知名度が高く、部員も多く集まる傾向にある。

 ところが、SITバンドは「競わずに全力で楽しむ」ことを主眼としており、現在はコンクールに参加していない。

 北海道池田高校吹奏楽部を指導していた2008年に部員たちとともにダンプレを考案し、現在はSITバンドの監督である小出學先生はその理由をこう説明する。

小出學先生

「コンクールは尊いし、時間をじっくりかけて細かい部分まで音楽を突き詰めていくのはスリリングで面白い。でも、部活動の時間が削減されて、活動内容の選択が必要になったとき、コンクールに取り組むよりも多くのライブを行うほうが吹奏楽の本質だろうということで、コンクールに出ないことにしました」

 コンクール不参加にもかかわらず、今年度の部員数は引退した3年生も含めて134名! 全校生徒の約15パーセントが部員という多さだ。サブキャプテンの梨桜のように、中学時代にSITバンドのダンプレに心をつかまれた者がたくさんいたということだ。

 チーフステージマネージャーでフルート担当の2年生、佐藤花奏(はな)はこう語る。
「中学時代のコンクールはつらい思い出が多く、楽器を触りたくないと思ってしまうときもありました。いまは毎日部活をするだけで笑顔になれるし、毎週のようにいろんなところでライブをして、たくさんのお客さんの笑顔が見られて幸せです」

左より:佐藤花奏さん、髙石梨桜さん、飯田華菜さん、髙橋琉那さん

 中学での吹奏楽経験者を引きつける一方、部員の4分の1は未経験者で、吹奏楽をやったことがない者たちにも「ダンプレをやってみたい!」と思わせる魅力がSITバンドにはある。なお、激しい踊りやパフォーマンスを披露してはいるが、9割はダンス初心者。半年ほどかけて演奏しながらの踊りを習得している。2年生にもなればすっかりダンプレが板につき、「逆に、座って演奏するほうが難しい」という状態になるという。

 SITバンドでは、誰もが自分の希望する楽器を担当することができる。「編成が偏ってもかまわない。やりたい楽器をやるのがいちばん」というのが小出先生の方針だ。

 ただし、ただ演奏しながら踊っていればいいかというと、そうではない。やはりしっかりと音楽として成立していること。その上で、ダンスも人を楽しませるだけのクオリティがあること。その点に妥協はない。

 SITバンドは部員たちの自主運営・自主企画で運営されている点も大きな特徴だ。練習、選曲、音楽の編曲、振り付け、宣伝、コンサートホールなど外部との交渉などほとんどを部員たちで行っている。裏を返せば、一人ひとりが大切な役割を持ち、やりがいを感じながら活動できる体制になっていると言えるだろう。

 独特なダンプレの誕生にはちょっとしたストーリーがある。

 小出學先生は学生時代から「吹奏楽大好き人間」で、北海道教育大学を卒業した後、当時の全日本吹奏楽コンクールで金賞常連だった奈良の天理高校吹奏楽部の指導を学ぶため、奈良教育大学の大学院に進んだほどだった。

 高校の教員になり、北海道南東部に位置する池田高校に赴任した。吹奏楽部で全国大会を目指すものの、なかなか結果が出ない。部員たちの表情も沈んでいる。果たして、全国大会出場を追求することは正しいのだろうか……。

 思い悩んだ小出先生は部員たちに、本心ではどうしたいのかと尋ねてみた。すると、思いもしない返事が返ってきた。

「私たちは、有名になりたいです!」

 そのひと言が、小出先生の考え方にコペルニクス的転回をうながした。生徒たちは全国大会に出たいのではなく、有名になりたかったのだ! 

 だとしたら、コンサートホールで演奏会をしても一般の人には気づいてもらえない。外へ出よう。小出先生は地元のスーパーなどに掛け合って、駐車場などの空いたスペースで演奏をさせてもらった。

 そこでも発見があった。外では立ったまま演奏するから、椅子は不要だ。譜面台も風で倒れるから不要。せっかく立っているのだから、少し体を動かしてみたほうが楽しい。中途半端に動いてもカッコ悪いから、学校にいるダンスの先生に振付を指導してもらおう。先生が指揮しているとビジュアル的にいまひとつだから、ほとんど部員だけで演奏する形にしよう……。

 こうして2008年にでき上がったのがダンプレだった。

 当初は地元の人にしか知られていなかったが、ちょうど10年前、部員が誤ってYouTubeに全体公開してしまったももいろクローバーZの《サラバ、愛しき悲しみたちよ》の練習動画を、ももクロファンが発見して拡散。ダンプレの存在が一気に広まった。

 小出先生が札幌国際情報高校に異動になると、部員たちから「私たちもダンプレをやりたい」と要望され、現在の形ができ上がってきた。10年の間にコンクール出場をやめ、道内での知名度はさらに上がり、パフォーマンスも進化してきた。

 SITバンドがライブで演奏するのは、サザンオールスターズの《勝手にシンドバッド》や昭和のテレビ番組のテーマ曲《ゲバゲバ90分》、オレンジレンジの《イケナイ太陽》など、一般的な吹奏楽部とは一味違った曲が多い。

 総務長でアルトサックス担当の2年生、髙橋琉那(るな)は「コンクールとは違う吹奏楽の魅力を知ったから、もう戻りたくない」と言う。

「学校の向かいにある老人ホームで演奏したとき、一人のおばあちゃんに『毎日、学校から聞こえてくる練習の音を楽しみにしているよ』『またここに演奏しにきてね。それまで長生きしたい』と言ってもらえました。自分たちの活動に改めてやりがいを感じた瞬間でした」

 毎週ライブで息つく暇もないほど忙しいこともあるが、「アドレナリンが出て疲れを感じず、大変というよりはひたすらに楽しいです」と琉那は笑みを浮かべた。

 サブリーダーでクラリネット担当の2年生、飯田華菜(はな)にも琉那と似た思い出がある。

「ライブをしていたら客席前列でずっと泣いている女の子がいました。声をかけてみると、『すごくカッコよくて泣いちゃった』って。自分たちはそんなにも人の心を動かせる活動をしているんだと実感できました」

 華菜はSITバンドやダンプレへの思いが人一倍強い部員だ。

「中学時代、スーパーの駐車場で演奏しているSITバンドを見て衝撃でした。私たちは小編成の最上位大会で金賞をとるような部活だったんですけど、文化祭で演奏しても全然笑顔になってもらえませんでした。だけど、SITバンドはコンクールに出てなくても、たくさんの人を笑顔にしていたんです。『私もここに入って全力で部活したい!』と思いました。実際に入部してからは、体力的にきつくて帰宅したら即寝落ち……ということもありました(笑)。でも、ライブをするとお客さんがみんな笑顔になってくれるから、『しんどいこと』が『楽しいこと』に書き換えられていくんです。SITバンドは世界でいちばん青春できる場所じゃないかと思います!」

 道内では引っ張りだこで、年間約80ステージをこなす。YouTubeでは500本以上の動画を公開し、若者に人気のTikTokで動画をバズらせている。

 今後の目標を尋ねてみると、梨桜は瞳を輝かせながらこう言った。

「道外進出です! 北海道以外でライブをやって、各地の人たちと触れ合いたいです。できることなら国境も超えてみたいですね」

 ダンプレを通じて観客を笑顔にし、涙が出るほどの感動を与え、自分たちも日々青春を実感できる札幌国際情報高校吹奏楽部、SITバンド。

 そこにはコンクールに燃えるのとはまた違う、幸福感に満ちあふれた吹奏楽部の姿があった。


編集長’s voice  – 取材に立ち会って感じたこと –
取材場所は、札幌市内のスタジオ。当日案内に従ってオザワ部長と扉を開けると盛大なウェルカムパフォーマンスがスタート!これが噂のダンプレか!想像を上まわる演奏とダンスの大迫力。そしてどの方向を見てもみんな笑顔笑顔。吹奏楽というジャンルを遥かに超えて、音楽することが楽しくて仕方がないという気持ちに溢れている。どうぞ動画をご覧ください。iPhoneでの撮影のため近距離の楽器の音が強調されてしまっているのが残念。。本物の迫力はこんなレベルではありません、ぜひ彼らのライブに触れていただきたい!


『空とラッパと小倉トースト』
オザワ部長 著
学研プラス 音楽事業室 ¥1694

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