ガンバレ!吹奏楽部!ぶらあぼブラス!vol.11
日本ウェルネス高等学校 吹奏楽部

コロナ禍も3年が過ぎ、ぶらあぼ編集部では多くの音楽家から吹奏楽部の苦難の状況を耳にしてきました。そこで吹奏楽と言えばこの方、吹奏楽作家のオザワ部長が吹奏楽部を応援するこのシリーズ。音楽へひたむきな情熱を燃やす若者の姿は、見ている私たちも元気にしてくれます。

「広域通信制高校」の吹奏楽部で伝説をつくる!

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

 朝、マイクロバスの車内はいつも吹奏楽部員たちのおしゃべりや笑い声で賑やかだ。駅から学校まで、吹奏楽部の指揮者である木村達也先生が送迎をしてくれる。バスはのどかな田園風景の中を走る。道の左右には茨城県笠間市の名産である笠間焼の窯元がいくつも並んでいる。

 そして、バスは小高い丘の上に立つ校舎に到着する。日本ウェルネス高等学校。2022年4月に開校したばかりの新しい学校だ。

「じゃあまた、部活のときにね!」
 部員たちはバスを降りると、それぞれの教室へと向かう。

 日本ウェルネス高等学校は「広域通信制・普通科」という形式の学校だ。通信制というと自宅で課題やレポートをこなすイメージがあるが、日本ウェルネス高校にはインターネットコースと通学コースがあり、インターネットコースは自宅での映像学習とレポートが中心。通学コースは週5日・週2日のいずれかを選択できる。つまり、週5日を選べば、全日制の高校生と同じように毎日通学し、学校で勉強ができるのだ。

 週5日でも授業は午前中3コマだけなので、午後は部活動や自分のやりたいことに使える。特に、部活動を頑張りたい高校生たちにとっては絶好の環境で、女子バレーボール部が全国大会に出場するなど、早くも運動部が結果を出し始めている。

 吹奏楽部も、毎年のように東関東大会まで進出していた水戸女子高校吹奏楽部から木村先生と鈴木歩先生を招聘。活躍を期待されている。

上田なつみさん

 今年度の部長は、3年生でトロンボーン担当の上田なつみ。木村先生から「人見知りしない猫のよう」と評されるとおり、いつも笑顔で、誰とでも親しくなれるのが取り柄だ。

 実は、なつみは昨年の日本ウェルネス高校の開校と吹奏楽部の創部に際し、同じ茨城県の水戸女子高校から転校してきたのだった。

 吹奏楽の虜になったのは幼稚園のとき。6つ上の姉が小学校の金管バンドや中学校の吹奏楽部で活躍するのを目にし、「私も楽器がやりたい!」と姉の後を追いかけて演奏に熱中した。そして、心奪われたのが、姉が入った水戸女子高校吹奏楽部だった。コンクールやイベントまで追いかけて演奏を聞くうち、その明るくて美しい演奏の核にいるのは指揮者の木村先生だと気づいた。

「木村先生の指揮で演奏すること」
 それがなつみの夢になり、なつみ自身も水戸女子高校に進学した。木村先生が日本ウェルネス高校に移るのに合わせて転校したのは自然な流れだった。

木村達也先生

 1年目の日本ウェルネス高校吹奏楽部はわずか8名だった。しかし、木村先生は積極的に外部での演奏予定を組み、年間70ステージを経験することができた。木村先生のつてで集まった大人たちを交えて、日本ウェルネスウィンドオーケストラとしても活動した。

 吹奏楽コンクールでは高校の部への出場が認められず、職場・一般の部への出場となった。結果、茨城県大会で銀賞を受賞した。

 2年目となる今年度、1年生がなんと12人も入ってきてくれた。部員数は17人になった。

 吹奏楽部の練習は、平日は13時15分から16時55分。練習時間はしっかり取れている上、終了時間は比較的早い。部活が終わると、部員たちは木村先生が運転するバスで駅まで送ってもらう。手を振って去っていく部員たちは、家に帰って家事を手伝ったり、塾へ通ったり、友達と遊びにいったり、バイトにいったりする。部長に就任したなつみも、週3で飲食店でアルバイトをしている。

「バイトもできるし、学校でスマホも使えるし、寄り道や買い食いもできる。思い切り部活をやりながらこんなに『JK』できるなんて、ほかにはなかなかないんじゃないかな」

車内は笑顔が絶えない

 通学コースを選んでいる生徒は、まだそれほど多いわけではない。いまのなつみのクラスは生徒8人で、なつみ以外はすべて女子バレーボール部員。バレー部の試合や遠征があると、教室にひとりだけで授業を受けることもある。

 それでも、なつみはいまのの環境が気に入っている。ライフスタイルや考え方の多様化が進むいま、通信制で学びたい、部活を満喫したい、部活以外のこともしたい……と考える学生は少なくないのではないだろうか。

 それに、日本ウェルネス高校のある笠間市ののどかな環境もいい。音楽室からは山や川、田畑の風景、空を流れていく雲の様子がよく見える。四季の移り変わりを間近に感じられる。そんな自然の織りなす芸術のような美しさは、きっとなつみや部員たちの心を豊かにし、より良い演奏につながることだろう。

 今後、日本ウェルネス高校吹奏楽部の部員はもっと増えていくかもしれない。そうなってほしいとなつみは思っている。通信制でもこんなに本気で吹奏楽ができるんだ、部活が楽しめるんだということをもっと多くの人に知ってほしい。

 なつみには夢がある。
 それは、「日本ウェルネス高校吹奏楽部の伝説の部長」になること。
 何年経っても、「2代目の上田なつみ部長は偉大な人だったんだよ」と語り継がれるようになりたい。

 今年の吹奏楽コンクールでは、日本ウェルネス高校は昨年認められなかった高等学校の部での参加が認められた。出場部門は小編成(B部門)。本来の最上位大会は東日本学校吹奏楽大会(北海道・東北・東関東・西関東・東京・北陸の6支部が参加)だが、認められたのはその手前の東関東大会まで。それでも通信制高校にとっては大きな前進だ。

 地区大会、県大会で代表に選ばれ、東関東大会に出場する。最高賞の金賞を受賞する。それも大きな目標だが、コンクールでもイベントでも目の覚めるような演奏を披露して、多くの人を驚かせたい。「通信制の学校ってこんなにすごい演奏をするんだ!」と聴衆の記憶に日本ウェルネス高校吹奏楽部の名と音を刻みつけたい。

 もしそうできたら、伝説の代をつくり、伝説の部長になるというなつみの夢も叶えられるだろう。それは、日本ウェルネス高校だけではなく、通信制高校全体が認められることにもつながり、ほかの通信制高校にも大きな刺激になることだろう。

 なつみや部員たちの前には、広域通信制高校の持つ大きな可能性が広がっている。


『空とラッパと小倉トースト』
オザワ部長 著
学研プラス 音楽事業室 ¥1694

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