超一流のオーケストラが登場するドイツの春の風物詩
文:池田卓夫
復活祭(英語のイースター、ドイツ語のオスター)はキリストが磔刑にされた3日後に復活したのを祝うお祭りで、キリスト教ではクリスマスよりも重要な休日だ。「春分の日を過ぎて最初の満月の後の日曜日」と定義されるので毎年、日程が変わっていく。現代のヨーロッパでは夏休みと並ぶ長期休暇の期間に当たり、各地のオーケストラやオペラハウスが音楽祭をはじめとするスペシャルな公演で華やかさを競い合う。
1955~89年の34年間もベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者兼芸術監督に君臨、ヨーロッパ音楽界の「帝王」と呼ばれたヘルベルト・フォン・カラヤン(1908~89)は故郷ザルツブルクに夏の祝祭(フェストシュピーレ)に匹敵する「復活祭音楽祭」を新設した。ベルリン・フィルが1作のオペラ全曲上演、2つのプログラムのオーケストラ演奏会、もう1つの合唱入りのオーケストラ演奏会を4日間連続で行い、2日間の休日を挟んでもう1回くり返す開催スタイルも、カラヤンのアイディアだった。本拠地ベルリンには3つの歌劇場があり、それぞれ専属のオーケストラを持つのでベルリン・フィルは通常、オペラの舞台上演に出演しない。イースター音楽祭は長く「ベルリン・フィルのオペラ全曲舞台」を楽しめる唯一の場として注目を集めてきた。2013年、ベルリン・フィルはいったんザルツブルクを去り、「黒い森」(シュヴァルツヴァルト)に近いドイツのゴージャスな保養地バーデン・バーデンの祝祭劇場にイースター音楽祭の会場を移した。26年にはザルツブルクへの復帰が決まっており、25年はイースターのバーデン・バーデンでベルリン・フィルを聴ける最後の年になる。
若手スター&カリスマシェフが振るベルリン・フィルを一挙に堪能
郵船トラベルが企画・実施する4月14日出発の10日間ツアーにはバーデン・バーデン イースター音楽祭のベルリン・フィル2公演の鑑賞が予めセットされている。最初は4月19日のオーケストラ演奏会。世界の若手で最も人気のあるフィンランドの俊英、クラウス・マケラ(1996年生まれ)が指揮する。マケラは現在、ノルウェーのオスロ・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、パリ管弦楽団音楽監督を兼務、2027年にはアムステルダムのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団首席指揮者と米国のシカゴ交響楽団音楽監督への就任を予定する。26&27年のバーデン・バーデン イースター音楽祭にはコンセルトヘボウ管とともに出演するスケジュールもすでに発表されており、ベルリン・フィルへの客演は、その豪華な「予告編」でもある。プログラムにはノルウェー出身の大ピアニスト、レイフ・オヴェ・アンスネス(70年生まれ)が若い頃から弾き込んできたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(1909)、壮大な音響スペクタクルが広がるR.シュトラウスの「アルプス交響曲」(1915)と作曲時期を接する近代の2曲を並べた。どちらの作品にも、ベルリン・フィルの首席奏者たちによるソロの妙技を味わえる場面がたっぷりと用意されている。
もう1公演は現首席指揮者・芸術監督のキリル・ペトレンコ(1972年生まれ)が振る4月20日のオペラ。ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場音楽総監督時代からワーグナーやR.シュトラウスなどのドイツ歌劇で絶賛を浴びてきたオペラ指揮者が今回、バーデン・バーデン最終公演に選んだのは何と、日本を舞台にした《蝶々夫人》(1904)だ。作曲者プッチーニはR.シュトラウスの同時代人、華麗で精緻な管弦楽の色彩感は双璧といえ、ペトレンコの深く作り込んだ再現が期待できる。ヒロインにエレオノーラ・ブラット(82年イタリア生まれ)、ピンカートンにジョナサン・テテルマン(88年チリ生まれ)、シャープレスにタシス・クリストヤニス(67年ギリシャ生まれ)と国際色豊かなキャスト。66年トリノ出身のダヴィデ・リヴァーモアが演出を手がける。
もっと聴きたい方にはペトレンコ&ベルリン・フィルの「第九」も!
上記2公演の他に、別途手配で鑑賞できるコンサートも充実。バーデン・バーデンでは、21日の合唱付きプログラム、ベルリン放送合唱団が加わったペトレンコ指揮のベートーヴェンの交響曲第9番が聴ける。ツアーで最初に訪れるのは、バーデン・バーデンから700kmほど東に位置する音楽の都ウィーン! 国立歌劇場(シュターツオーパー)では15日にジョルダーノ《アンドレア・シェニエ》(シェンク演出、モランディ指揮)、16日にR.シュトラウス《アラベラ》(ベヒドルフ演出、ティーレマン指揮)、17日にワーグナー《パルジファル》(セレブレンニコフ演出、コーバー指揮)を鑑賞できる。とりわけ《パルジファル》は「聖金曜日の音楽」が含まれ、イースターにぴったりの演目だ。
観光プログラムも充実のラインナップ
バーデン・バーデンのバーデンはドイツ語で「入浴」を意味、温泉療法と水泳などのスポーツを組み合わせた保養施設「クアハウス」のメッカでもある。水着着用でぬるめのお湯にゆっくりと浸かり、旅の疲れを癒すのも素敵だ。バーデン・バーデンからわずか60km西に位置するストラスブールはフランスのアルザス地域圏の中心地。アルフォンス・ドーデの短編『最後の授業』(1873)をご記憶の方はご存知の通り、アルザスは歴史的にドイツとフランスの間を揺れ動き、第二次世界大戦終結前はドイツ領だった。1439年完成の尖塔を戴くストラスブール大聖堂が象徴するようにドイツ系のカトリック住民が多く住み、現在は仏独の長所を兼ね備えた美食やワインなどが独自の魅力を放つ。アルザスの古都、コルマールのウンターリンデン美術館ではマティアス・グリューネヴァルト作の「イーゼンハイムの祭壇画」をはじめとする中世ドイツ絵画の傑作と出会える。
郵船トラベル
バーデン・バーデンイースター音楽祭&ウィーン 10日間
<2025年4月14日出発>
旅行期間:2025.4/14(月)~4/23(水)
出発地:東京
日数:10日間
問:郵船トラベル 音楽・美術ツアー専用デスク03-6774-7940
https://www.ytk.jp/music/