ガンバレ!吹奏楽部!ぶらあぼブラス!vol.25
佐賀学園高等学校 吹奏楽部

悲願の全国大会初出場に向けて
佐賀学園のsaga(サーガ)は続く

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

 全日本吹奏楽コンクールは日本中の吹奏楽部にとって夢のステージ。九州支部から出場できるのは4校だ。

 佐賀県佐賀市の中心地に位置する佐賀学園高校。吹奏楽部は長年県内トップレベルを維持し、今年も25回目の九州大会出場が決まっている。自由曲は超難曲として知られるベルト・アッペルモント作曲《ブリュッセル・レクイエム》だ。

 だが、佐賀学園はまだ全国大会に出たことはない。佐賀県勢では30年以上前に佐賀商業高校が2回出場したことがあるのみ。佐賀県としても、佐賀学園としても、苦い思いが積み重なっている。

 69人いる部員たちの多くは佐賀学園の演奏に憧れ、あるいは、全国大会出場を目指して入部してきている。

 副部長でクラリネット担当の3年生、上田和佳(わか)は、2年生で出場した昨年の九州大会をこう振り返る。

「出演順で、佐賀学園の前に鹿児島県立松陽高校、活水中学校・高校(長崎)、精華女子高校(福岡)という全国大会常連校が並んでいたんです。特に、直前の精華女子は『聴かないでおこう』と思っても、待機場所にまで響いてくる上手な演奏が耳に入って……」

 審査の結果、その3校と玉名女子高校(熊本)が代表に選ばれた。

左より:江下怜来さん、江﨑里桜さん、上田和佳さん、部長の小林佳希さん

 部長でアルトサックス担当の3年生、小林佳希(かの)は終演後の光景をいまでも鮮明に覚えている。

「ホールを出たら、代表になった学校がキャーッと歓声を上げながら写真を撮っていました。悔しさを噛み締めてその横を通り過ぎました」

 悔しい経験をしてきているだけに、特に3年生は高校生活最後のコンクールでリベンジに燃えている。

 副部長でフルート担当の3年生、江﨑里桜(えさきりお)は言う。

「全国大会は夢の世界すぎて、もし出場できることになったらというのも想像できないくらいです。でも、同期のみんなが大好きなので、みんなと一緒に全国の舞台に立ってみたいです」

南里先生を囲んで

 顧問の南里隆弘先生も、悲願の全国大会出場への思いは部員たちと同じだ。

「うちは私立校ですが、県内在住の生徒しかいません。私には、佐賀だけで全国大会出場を実現し、地元の音楽シーンに貢献したいというこだわりがあります」

 一方で、佐賀ならではの課題も感じている。

「生徒の傾向として、素直だけれどおとなしく、九州大会に行くと他校に圧されて萎縮してしまう、というところがあります。中学時代に全国大会を経験した子もいないので、私としては自信をつけさせ、自発性のある音楽が奏でられるようにしてあげたいと考えています」

 部のモットーは「素直に謙虚にコツコツと」。それはある程度実現できているが、自発性の不足と、大舞台で実力を出せないという課題があると南里先生は指摘した。

 それは昨年の九州大会でも出てしまっていた。

 副部長でコントラバス担当の3年生、江下怜来(れいら)は言う。

「本番に弱いところがあると思います。私は1年のときから紅組(コンクールメンバー)でしたが、1年のときも2年のときも九州大会は硬くなってしまって楽しめませんでした」

 7月26日に行われた佐賀県大会でも、怜来は同じ課題を感じたという。

「本番直前の練習まではうまくできていて、『よし、いける!』という思いでステージに出たんですけど、いざ本番になると演奏が乱れてしまって……」

 部長の佳希は弾けるような元気さとリーダーシップ、演奏技術をみんなに認められている。

「本番では全然緊張しません」
 佳希は笑顔でそう言い切る強心臓の持ち主でもある。

 だが、過去2回経験した九州大会では「ステージに立つと『やばいやばい!』と思ってしまって」思い描いていたような演奏ができなかったという。

「今年こそは九州大会を楽しみたいです。他県の強豪校は少し怖いと思ってしまいますけど、演奏を通じて『九州には佐賀学園もいるから!』という存在感を見せつけて、全国大会に行きたいです」

 怜来もこう語った。
「部のみんなは本当に楽器が上手で、私は心からリスペクトしているので、『私の仲間はこんなにすごいんだよ!』というのを九州や全国の人たちに知らせたいです」

 部員たちが本来持っている実力を余すところなく発揮できれば、8月25日に行われる激戦の九州大会を突破することも不可能ではない。

ソロを吹く小林佳希さん

 もちろん、全国大会に出場することだけが部員たちの目指しているものではない。
 それをもっともよくわかっているのが副部長の和佳だ。

 和佳は中学時代、部長を務めていたが、中2のときに経験したコロナ禍によって部員たちの間に「部活を真剣にやりたい人」「あまりやりたくない人」の溝ができ、ずっと出場し続けていたマーチングコンテストにも不出場となってしまった。

「中学ではやりたいことができなくて悔しかったので、高校では思い切り部活をやりたいと思い、佐賀学園に入りました。全国大会には行きたいですけど、もし行けなかったとしても、最後に『やりきったな、楽しかったな』と思えるような音楽を奏でたいです」

 審査は水ものだ。それよりも大切なのは、まずは自分たちが納得できる最高の演奏をすること。そのためにも南里先生が言う「自発性」が必要だ。部員たちが主体的に部活を運営し、練習をおこない、心の底から湧き上がるような音楽を奏でる、ということだ。

 和佳は言う。
「佐賀学園では基礎合奏をほとんどしません。南里先生はいつも『もし合奏で足りないところやわからないところがあったら、いつでも個人で聞きにおいで』と言っています。もともと自分たちのやりたい音楽を出せていないので、もしすべて先生の指導のとおりにやっていたら、佐賀学園の音楽は南里先生の音楽になってしまいます。でも、先生は自分たちの自主性に任せてくれているので、いつか自分たちらしい音楽を生みだせるんじゃないかと思っています」

 英語で「saga(サーガ)」とは、長大な伝説や叙事的物語のこと。ファンタジー小説やロールプレイングゲームのタイトルにも使われている。

 佐賀学園高校吹奏楽部の「saga」は、「部員たちの自主性から最高の演奏が生まれる」というエンディング、あるいは、「全国大会に悲願の初出場を果たす」というエンディングに向けて続いていく。

編集長’s voice  – 取材に立ち会って感じたこと –
今回、話を聞いたのは4人の3年生。顔を見合わせては笑顔が弾ける仲の良さと、インタビューの質問に素直に答えるまっすぐさが印象的。でも、コンクールの話になると今年にかける意気込みの強さが静かに伝わってきました。南里先生が言う「主役は俺じゃない。個々の自発性が大事なんだよ」というメッセージが浸透してきているんだなと思い、今後の活躍がますます楽しみになりました。


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