ガンバレ!吹奏楽部!ぶらあぼブラス!vol.17
駒澤大学附属苫小牧高等学校 吹奏楽局

コンクールに、マーチングに、ポップスに……
苫小牧を熱く燃え上がらせるSheltiesを見よ!

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

 会場に流れ始めたビートに合わせ、白地に赤のデザインが入った衣装を着た75人の高校生たちがステージ上で体を左右に揺らしてリズムに乗る。

 指揮台には白ジャケットを羽織ったひとりの男が客席に背を向け、仁王立ちになっている。手にはマイク。男は長い脚をトントンと動かしてリズムをとっていたかと思うと、まるでロックスターのように両手を広げて一瞬しゃがみ込み、マイクを使って声を上げる。

「カモン!」

 それを合図に管楽器が爆発的な音を響かせ、低音が床を震わせ、パーカッションが弾ける。曲は布袋寅泰作曲の《ビー・マイ・ベイビー》。男は指揮をするわけでもなく、生徒たちの演奏に合わせてセンターで踊り、「イェイ、イェイ、イェーイ!」「フゥッ!」と叫ぶ。音圧が観客の体を揺さぶり、北海道の港町・苫小牧が熱気に溢れる——。

 それが駒澤大学附属苫小牧高校吹奏楽局Shelties(シェルティーズ)、そして、センターで踊っている男こそが顧問の内本健吾先生だ。

 「マー君」ことプロ野球の田中将大投手の母校としても知られる駒大苫小牧。吹奏楽局(北海道では「部」ではなく「局」の学校も少なくない)は、吹奏楽コンクールでは北海道大会に出場し、日本マーチングバンド協会の大会ではマーチングバンド全国大会に17回出場する実力校。前者を前原光先生、後者を内本健吾先生が主に指導している。お二人とも社会科の先生だ。

 そんな駒大苫小牧の名物ともなっているのは、なんと言っても弾けまくるポップス演奏だ。

 演奏するのは、布袋寅泰の《バンビーナ》やアース・ウインド・アンド・ファイアの《セプテンバー》、パフィーの《アジアの純真》、北島三郎の《まつり》など。局員たちは笑顔をきらめかせながらステージを駆け回り、髪を揺らして踊り、歌う。エレキギターやエレキベース、エアロフォン(電子サックス)など電子楽器も大活躍する。その中心にいるのが、踊り、煽り、叫ぶ内本先生だ。

「コンクールやマーチングは教育の教材としては最高ですが、規律や統一感を求められる。だからこそ、バランスをとる上で、対極にある自由なポップスは大事です。バランスをとるなら、両極は離れていればいるほどいいですよね」

 内本先生はそう語る。

左より:能登大輝さん、内本健吾先生、前原光先生、水野夢羅さん

 両極端なのは先生の性分でもある。中学時代にフュージョンやファンク、ロックに目覚め、吹奏楽でもポップス演奏が大好きだった。駒澤大学吹奏楽部ではキャプテンを務め、米米CLUBのカールスモーキー石井に影響を受けて現在のように先頭に立って踊り、叫び、煽るスタイルを確立した。

 だが、部活以外では寡黙で無表情。ディスコやクラブで踊ったこともない。

 副局長で、オーボエ・ピットパーカッション・シンセサイザーなど多彩な楽器を担当する3年の水野夢羅(ゆら)は笑いながらこう語った。

「中学時代に駒澤のポップスを定期演奏会で見ていたのですが、初めて内本先生にお会いしたときはステージ上とはまったく違う無口な感じで、『本当にあの人だよね!?』と不安になりました」

 局長でパーカッション・バッテリーを担当し、コンガをこよなく愛する3年の能登大輝も、内本先生と初対面のときは「テンションが低くてびっくりしました」と言う。

「でも、ポップスになると別人のように弾けますし、僕自身も気づいたら先生と同じように音楽に乗っていて、すごく楽しかったです」

 Sheltiesはバンドの愛称、チーム名だが、内本先生がこの名前をつけたエピソードもぶっ飛んでいる。

「僕が駒澤大学を卒業して苫小牧に来るとき、たまたま直前に東京のペット屋さんで見かけたのがシェルティー(シェットランド・シープドッグ)だったんです。それが命名の由来。生徒に聞かれてもはぐらかしてきたので、記事を読んだら驚くと思います。人生、すべてノリなんです(笑)。世の中、窮屈なので、そういうノリがあってもいいんじゃないでしょうか」

 内本先生の言う「ノリ」は、「ひらめき」「着想」と言い換えてもいいかもしれない。そのノリこそが、駒大苫小牧の演奏を極めてユニークで、吹奏楽に詳しくない人が見ても即座に楽しめるものにする原動力なのだろう。

「ポップスは内本先生がリズム隊のレッスンをするところから始まるんですけど、それが衝撃でした。楽譜がないんです。先生がひとつひとつの楽器を叩いていくので、私たちはそれを見ながら覚え、レッスンが終わったら急いでメモ帳に書き込むんです。ところが、次のレッスンで先生に言われたとおりに演奏したら、『それは違う』とか言われたりして……(笑)。音楽を理屈ではなく感覚でとらえるやり方を通じて、音楽って楽しいなと改めて思えました」

 夢羅はそう語る。

 コンクールやマーチングとポップスとは、まさに内本先生が語ったとおり、規律と自由の両極だ。駒大苫小牧のメンバーたちは音楽の持つその二面性を学び、成長していくのだ。

 内本先生とともにポップスで観衆を圧倒するステージを披露し、前原先生とコンクールで正統派の音楽を磨いてきた駒大苫小牧は12月10日に大きな目標のひとつ、「マーチングバンド全国大会」に出場した。さいたまスーパーアリーナという巨大な会場で開催されるマーチングの祭典だ。

 テーマは「カムイタイ 命の宿る樹木」。北海道ならではの、アイヌ文化をもとにしたショーだ。

「小さな木が大木となっていくように、世界中の人たちがともに生きていくことで、コロナや紛争があっても、必ずいつか希望がつかみ取れるというメッセージをマーチングに込めました」

 大輝はそう語る。

 本番を披露をしているときは楽しそうに見えても、練習ではつらいことや悩ましいことがたくさんある。駒大苫小牧のマーチングに憧れて入学した大輝は、高2のときには次期局長と目されていた。だが、個性的なメンバーをまとめるのは難しく、大輝は悩んだ。

「そんなとき、先輩が『星を見にいこうぜ』と海に連れ出してくれて、ギターの弾き語りをしてくれたんです。思わず号泣してしまいましたが、それで気持ちが切り替えられました」

 大切な全国大会の前日にも、パーカッションのコーチに叱られた。

「僕はショーの最初の和太鼓ソロを担当するんですが、コーチからは『ソロをやることへのプライドはあるのか』と言われて。局長であり、ショーの開幕のソロを担当する上で僕にはプライドが欠けていました。それを教えていただき、邪念がなくなって清々しい気持ちで本番に臨むことができました」

圧倒的なグルーヴを生み出すリズムセクション

 大輝だけでなく、駒大苫小牧の75人全員がそれぞれに壁を乗り越え、全国大会に挑んだ。大観衆が見守る中、練習に練習を重ねた「カムイタイ 命の宿る樹木」を披露した。

「僕は和太鼓以外はバッテリー(楽器を体に装着し、移動しながら演奏する打楽器パート)を担当しましたが、ブレイク(演奏がない部分)ではお互いに『いけるぞ!』『最高だ!』と声をかけ合い、励まし合いました。おかげで、後悔がひとつもない、全国大会3回目にして最高の景色をみんなで見ることができました」

 大輝はそう語る。

 一方、ピット(鍵盤打楽器やティンパニなど固定位置で演奏する打楽器パート)担当の夢羅は全国大会でこんな経験をした。

「本番前に入場ゲートで待機しているとき、内本先生から緊張がほぐれるように『内本マジック』をやるように言われました。単に上半身の力を抜いた状態でかかとを上げ下げするだけなんですが、みんなでそれをやっている様子が奇妙で、お互いに笑い合いました。それでリラックスできたので、本当にマジックなのかもしれません(笑)。本番はピットのメンバー同士でタイミングを合わせるためにアイコンタクトしたりするのですが、みんながいつも以上にいきいきしているのがわかりましたし、『まとまってるなぁ。いい演奏ができてるなぁ!』と嬉しくなりました」

 駒大苫小牧は中編成部門のトップバッターという難しい出番だったが、さいたまスーパーアリーナにマーチングで希望の大木を描き出し、大きな拍手を浴びた。

12月10日、さいたまスーパーアリーナで行われたマーチングバンド全国大会での駒大苫小牧

 審査結果は、残念ながら銅賞だった。

「中編成では得点もいちばん下で、結果を知ったときには泣くこともできず、放心状態になりました。でも、冷静に振り返ると、結果よりもみんなで一緒にここまでやれたこと、つらいことなどを乗り越えてきた道のりのほうが大事なんだと思えました。突っ走ってきた道のりは僕にとっていちばんの宝物です」

 大会後、大輝はそう語った。夢羅も同じ気持ちだったようだ。

「最高のショーができたと感じていたので、結果はとても悔しかったし、全国大会金賞という景色をみんなに見せてあげられなかったことにリーダーとして申し訳なく思いました。でも、ミーティングのときに『結果は悔しかったけど、楽しかったね』『いい経験になったよね』という声が聞こえてきて嬉しかったです。私自身、人生でいちばん楽しい大会でした!」

 さいたまスーパーアリーナに北からの爽やかな風を吹かせてくれた駒澤大学附属苫小牧高校吹奏楽局Shelties。2月11、12日には苫小牧市民会館で定期演奏会に臨む。これまでの練習や経験を詰め込み、大輝や夢羅たち3年生は高校生活最後のステージでクラシックで、マーチングで、ポップスで青春の思いを爆発させる。

【追記】
なお、駒澤大学附属苫小牧高校吹奏楽局Sheltiesのポップス演奏やマーチングはYouTubeの公式チャンネルで見ることができる。内本先生の活躍ぶりも含め、ぜひ一度ご覧いただきたい。


編集長’s voice  – 取材に立ち会って感じたこと –
大抵の場合、取材前にYouTubeで映像を見てから現地に向かいます。見たのは地元のお祭りの会場での演奏動画。でも今回は、いつもとちょっと様子が違う。先生のノリが…。実際に学校に行ってお会いしたのは、動画で見ていた人とは別人のいわゆる「学校の先生」。しかも笑顔すらあまり見せない。でも音楽の話になると熱い。印象的な言葉が“groove”。先生との挨拶を終えて練習室に入るとその言葉を実感することに。まるでライブハウスに来たかのような迫力ある重低音が迫ってくる。先生が言っていたのはこのことか。そして、そのサウンドに乗って部員のみんなも本当に楽しそう。お祭りの会場のお客さんの盛り上がりに納得。この感覚を知ってしまうと卒業してもバンド活動したりする人も多いだろうなぁ。


『空とラッパと小倉トースト』
オザワ部長 著
学研プラス 音楽事業室 ¥1694

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