緻密に編まれながらもダイナミックに呼吸する室内楽曲を聴けば、桑原ゆうが第一級の作曲技術の持ち主であることは瞭然だ。特に淡座のメンバーとして長くコラボする本條秀慈郎の三味線は実に活き活きとしていて、楽器のポテンシャルが存分に発揮されている。しかしそれ以上にユニークなのは、創造を支える美学が日本古来の聲明や謡、さらには落語といった伝統芸能や日本語の音と深く結びついている点だ。これは独奏曲のほうによりピュアな形で表れている。日本を西洋とつなぐ試みは開国以来、様々に行われてきたが、桑原の創作はそれが新しい段階に入ったことを実感させてくれる。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年2月号より)
【information】
CD『桑原ゆう:音の声、声の音/マルコ・フージ&本條秀慈郎&淡座』
桑原ゆう:唄と陀羅尼、水の声、やがて 逢魔が時になろうとする、逢魔時の浪打際へ、三つの聲、はすのうてな、影も溜らず、柄と地 絵と余白 あるいは表と裏
マルコ・フージ(ヴァイオリン/ヴィオラ・ダモーレ)
本條秀慈郎(三味線)
淡座(あわいざ、クリエイショングループ) 他
KAIROS/東京エムプラス
0022202 KAIS(2枚組) ¥オープン価格