トップオーケストラの音楽家たちはいったいどんな話をしているのだろう? 「ぶらあぼONLINE」特別企画としてスタートした「オーケストラの楽屋から」、今回は東京フィルハーモニー交響楽団の登場です。
創立112年目と、日本で最も古い歴史あるオーケストラ。現在約160名が在籍している団員の中から、22年暮れにお集まりいただいたのは、テューバの大塚哲也さんと荻野晋さん、ホルンの田場英子さんと豊田万紀さん、トロンボーンの辻姫子さんの5名。2人のテューバ奏者が在籍する楽団も珍しく、そこに近年増えてきた「女性金管楽器奏者」メンバーも加わっての仲良しクロストーク。
第九、紅白歌合戦、東急ジルベスターコンサート、ニューイヤーコンサートなど年末年始に東京フィルの演奏を耳にした方も多いはず。今回はまさに、東京フィルあるある「年末年始はお仕事」や、2023年新シーズンのお話をお届けします。
オーケストラの楽屋から
普段なかなか見ることのできないアーティストの素顔や生の声、意外な一面などを紹介していきます。音楽家としてだけでなく、“人”としての魅力をクローズアップし、クラシック音楽をより身近に、そして深く楽しんでもらいたい、そんな思いを込めたコーナーです。
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Vol.1 年末年始はフル稼働!
———まずは近況から。年末年始はお忙しいですか?
田場 年末年始はいつも忙しいですよね。東京フィルにこの質問は愚問だね。
一同 (笑)
田場 みなさん何に乗ってますか? 私は『第九』。
豊田 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』。
辻 東京フィルのニューイヤーコンサート。
大塚 新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』。
荻野 僕はね、東京フィルのニューイヤーコンサート。
田場 何かしら働いてるということですよね。
大塚 年末年始休みはない、ないです。
田場 でも世の中からお休みずれているからちょっと助かりますよね。
大塚 まあ、好きなことをやっているから仕方ないです。僕が前にいたオーケストラは今ごろ(12月中旬頃)冬休みだったんですよね。
田場 えっ、もう仕事納め?
大塚 はい、第九の編成にテューバはないですから。
一同 (笑)
大塚 年末年始の休みを凝縮してエンジョイするの、たぶん東京フィルのメンバーは上手ですよね。
田場・豊田 そうかも。
大塚 元旦の休みの日にやりたいこと全部やるとか、初詣の日をずらすとか・・・。
一同 (笑)
田場 みなさん、新シーズンのプログラムで好きな作曲家は誰ですか? 近々だと1月定期(チョン・ミョンフン指揮)のブルックナーですかね。
大塚 我々は(荻野さんに向けて)ベルリオーズ「幻想交響曲」(クロエ・デュフレーヌ指揮・10月定期)がありますからね。
辻 数少ない、テューバお二人が活躍する作品。
荻野 「幻想」・・・僕、9月誕生日だから定年した後だけど。
大塚 いやいや、まだまだ・・・
ラフマニノフの交響曲第1番(尾高忠明指揮・6月定期)もテューバありましたよね。
荻野 尾高先生、ラフマニノフ好きなんだよね。
田場 よくやってらっしゃいますよね。5月定期のプレトニョフさんもラフマニノフですよ。
辻 シンフォニックダンス!
荻野 おぉ。
田場 意外な演目!
ラインナップのなかで金管ならではの好きな作曲家はいますか?
豊田 やっぱりチャイコフスキーはホルンがきれいなメロディーで、誰もがパッと浮かぶ、知っているメロディーが多いなという気がしますね。
田場 ブルックナーは?
豊田 ブルックナーも楽しみです。ワーグナーテューバを吹くのが結構好きなんです。
田場 え、吹くの好きなの? 代わろうか?(笑)
一同 (笑)
豊田 いやいやいや、そういう意味じゃないです。聴いているのが・・・
ホルンの人数が多いし、楽しみです。
田場 ワーグナーテューバは抵抗がまるで違うから、そればっかり吹いていると戻るのが大変なんですよね。まず音程が悪いから、調整しだすと普通のホルンに戻った時にちょっと難しくなっちゃう。ほどほどに付き合わないといけない。でも東京フィルのワーグナーテューバはいい方かも。以前にレヒナーというドイツのものを4本セットで買ったんだけど、すごく良くて。N響と東京フィルしか持ってない。
辻 へえ!でも、ワグテュー(※ワーグナーテューバ)使う仕事は意外と少ないですか?
田場 前はね、しょっちゅうあったのよ。新国立劇場のオペラでもワーグナーテューバ使って、すごい稼働率だったの。
大塚 よく僕も混ぜてもらってパート練習しました。
田場 (辻)姫子ちゃんの好きな作曲家は?
辻 ちょっとトロンボーンらしくないのですが・・・私はベートーヴェンが好きで、オーケストラを好きになったきっかけも「運命」だったので。ただ新シーズンのベートーヴェンにはトロンボーンがないのですが・・・ご期待ください!という感じです。
田場 へぇ、意外!
辻 意外ですよね。トロンボーンでそんな人あんまりいないと思うんですけど、かっこいいってなったのが「運命」。
田場 え、何歳くらい?
辻 大学3年生とかですね。ちゃんと演奏を聴いて、その年にたまたますることが多くて、なんてかっこいい曲なんだと。
田場 1番トロンボーン?
辻 そうですね、その時アルトトロンボーンも初めて吹いて。1楽章から3楽章まで暇なのに、聴いててずっと楽しいというのが初めての経験だったので、いい曲だなぁと思って。ですが、今回ないので・・・(笑)
一同 (笑)
辻 それでいくと1月定期のブルックナーは楽しみです。東京フィルでたぶんここ10年くらいやっていなくて・・・。
荻野 前はしょっちゅうやってたよ。
田場 マエストロチョンで7番も8番も。
辻 本当ですか? じゃあ、私それ以後に入団したのか。いろんな人に東京フィルはブルックナーやらないですよね、って喋ってたらついに来たので。
一同 (笑)
田場 大塚くんは?
大塚 ブルックナーはもちろんやりがいがあるんですけど、すごい先の公演となると我々のパートも実際どっちが出るかまだわからないのですが。この7月定期の《オテロ》(チョン・ミョンフン指揮、オペラ演奏会形式)、これは荻野さんが出るんですけど・・・。
田場・辻 決まってるんだ(笑)
荻野 はい、覚えていますよ(笑)
大塚 テューバではなくて、チンバッソっていう楽器でいくと思うんですけど、すごくドラマティックな曲で。この間の《ファルスタッフ》(22年10月定期)とはまた全然違う要素があって楽しいですよね。
荻野 うんうん。
大塚 チャイコフスキーだったら4、5、6番じゃなくて「マンフレッド」(ミハイル・プレトニョフ指揮・2月定期)だったり、ラフマニノフも2番じゃなくて1番(尾高忠明指揮・6月定期)だったり、我々もあんまりやらない変化球な曲があるのが面白いかなって思っています。
辻 確かに。
大塚 あと個人的にいつも気をつけているんですけど、マエストロ・バッティストーニの本番で、まだ僕が勉強してないだけなんですけど、聴いたことのない曲が入ってくるじゃないですか。こういうのがね、結構大変なことが多いんですよ。
辻 そう、めっちゃ難しかったりする。
大塚 で、これ嫌な(笑)予感がする、このカゼッラの狂詩曲『イタリア』(3月定期)。
一同 (笑)
大塚 マエストロ・バッティストーニの、この“聴いたことない”シリーズは、演奏する方も聴く方も要注意!
辻・豊田 どこから見つけてくるんだろう・・・
田場 楽しみではあるけど。
大塚 2023シーズンは22年とガラッと雰囲気が変わって、面白いかなと思います。
荻野 僕ねぇ、好きな作曲家はだいたいテューバが入ってない曲なんだよね・・・。シューベルトとベートーヴェンかな、「皇帝」は2楽章がすごく好きで。ちょっと前に「皇帝」の2楽章が僕の中でブームで、そればっかりいろいろな人のでずーっと聴いて。で、何がそんなに好きなのか気づいたの、自分の好きな湯加減の風呂に浸かっている感じで「ふわぁ〜」って。ただぼーっと聴いているだけで、それがすごく気持ちいいなって。
田場 2月の「皇帝」のソリスト、イム・ユンチャンさんってすごく騒がれてません?
荻野 アイドル的な感じ? もっとすごいの?
大塚 ビジュアル系だね。
田場 ちょっと楽しみ。
大塚 指揮は大御所(ミハイル・プレトニョフ)だしね。10月定期のクロエ・デュフレーヌは初めてですね。
田場 どんな感じなんだろう。
広報 ブザンソンで賞を獲って、いまドゥダメルのアシスタントをされている方です。
大塚 じゃあ躍動系の方なんですかね。
田場 (年間プログラムをみて)写真が躍動してる。
一同 (笑)確かに。
辻 女性指揮者も増えてますよね。
一同 すごく楽しみですね。
(vol.2へつづく)
東京フィルハーモニー交響楽団 今後の公演
第151回 東京オペラシティ定期シリーズ
2023.1/26(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第978回 サントリー定期シリーズ
1/27(金)19:00 サントリーホール
第979回 オーチャード定期演奏会
1/29(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
指揮:チョン・ミョンフン(東京フィル 名誉音楽監督)
シューベルト/交響曲第7番『未完成』
ブルックナー/交響曲第7番(ノヴァーク版)
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
https://www.tpo.or.jp
田場英子 Eiko Taba
1991年東京音楽大学卒。
同年新星日本交響楽団入団。1997年アメリカ・シカゴに留学。現在東京フィルハーモニー交響楽団団員、オイロス・アンサンブル、つの笛集団メンバー。
聖徳大学兼任講師、沖縄県立芸術大学非常勤講師。
豊田万紀 Toyoda Maki
千葉県出身。習志野市立習志野高等学校、東京藝術大学卒業。ホルンを丸山勉、守山光三、日高 剛、五十畑勉、西條貴人、伴野涼介の各氏に、室内楽を岡本正之、伴野涼介、有森博、山本正治の各氏に師事。これまでにエサ・タパニ、デニス・トライオンのマスタークラスを受講。リベルタスブラスクインテットメンバー。現在東京フィルハーモニー交響楽団ホルン奏者。
辻 姫子 Himeko Tsuji
京都市立芸術大学音楽学部管打楽専攻を首席で卒業。同大学大学院修士を課程修了。卒業時及び修了時に京都市長賞、並びに京都音楽協会賞を受賞。現在東京フィルハーモニー交響楽団副首席トロンボーン奏者。関西トロンボーン協会理事。これまでにトロンボーンを小西智、神谷敏、呉信一、岡本哲の各氏に師事。第13回日本トロンボーンコンペティション第2位。第15回松方ホール音楽賞受賞。第10回東京音楽コンクール金管部門第2位(1位なし)。
大塚哲也 Tetsuya Otsuka
1973年千葉県東金市生まれ。11歳よりテューバを始める。東京藝術大学および同大学院を卒業後、1998年仙台フィルハーモニー管弦楽団に入団、2002年アフィニス文化財団の派遣により、アメリカ・シカゴへ留学。帰国後、2007年より東京フィルハーモニー交響楽団団員。
エマーノン・ブラス・クインテットのメンバー。武蔵野音楽大学・東邦音楽大学講師。船橋吹奏楽団音楽監督。日本ユーフォニアム・テューバ協会常任理事。
荻野 晋 Shin Ogino
東京藝術大学卒業。卒業後はミュンヘンにてロバート・トゥッチ、トーマス・ウォルシュの両氏に師事。1989年第6回日本管打楽器コンクールにおいて第1位を受賞、90年新星日本交響楽団に入団。99年、アフィニス文化財団の海外派遣研修員として渡米。2001年、合併により東京フィルハーモニー交響楽団団員。これまでに安元弘行、小倉貞行、小倉利文、アーノルド・ジェイコブス、デイヴィド・グリッデン、ジーン・ポコーニー、レックス・マーティンの各氏に師事。尚美学園大学、東京音楽大学、洗足学園大学非常勤講師。
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