
13歳の天才ヴァイオリニストが世界最高峰のオーケストラにソリストとして登場!
3月20日、ヴァイオリニストのHIMARIがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会に初登場した。わずか13歳でのソリストデビューというのは楽団の歴史を見ても稀で、巨匠ズービン・メータとの共演という話題性もあり、チケットはほぼ完売となった。
直前になって健康上の理由からメータのキャンセルが発表されたが、読響常任指揮者のセバスティアン・ヴァイグレが代役に選ばれたのは嬉しい驚き。ベルリン生まれのヴァイグレは、2000年代初頭までカペルマイスターとしてベルリン国立歌劇場で頻繁に指揮していたが、彼にとっても記念すべきベルリン・フィル・デビューとなった。


初日の公演のためにフィルハーモニーに行くと、日本人の聴衆が普段よりもかなり多いことに気づく。着物姿の人も見かけた。かつてはベルリンでも時々目にした光景だが、コロナ禍を経た後だけに久々に戻ってきたという感を強くする。
ホルンのソロで始まるウェーバー《オベロン》序曲でコンサートへの期待が膨らむと、いよいよヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲第1番へ。ベルリン・フィルが同曲を演奏するのは、1987年に五嶋みどり独奏、レナード・スラットキン指揮以来とのことで、ここにも不思議な日本つながりがあった。

赤いドレスのHIMARIが登場すると、大きな喝采で迎えられる。哀愁に富んだクラリネットによって曲が始まり、やがてチェロがロマンティックな主題を朗々と奏でる。いつものベルリン・フィルのクオリティだ。固唾を吞んで見守る中、HIMARIが最初のソロを力強く奏でる。彼女の実演には初めて接したが、一つひとつの音をくっきりと、しかも濃い音色で聴かせる。ベルリン・フィルの響きの傾向とも合っているように感じた。最初の長いソロが終わると、緊張が少し解けたのか、笑顔がこぼれた。
カデンツァでは深い呼吸とともに、低音域での太い響きも印象的で、もはや10代の少女の演奏を聴いているとは思えなくなった。曲の大半を占める第1楽章が終わると、客席から自然と拍手が湧き起こる。
祈りの雰囲気に満ちた第2楽章でHIMARIは朗々とした歌を聴かせると、リズミカルな終楽章では音色は艶やかさを増し、オーケストラとのやり取りもすでに堂に入ったもの。大喝采に応えて、アンコールにコリリアーノの「レッドヴァイオリン・カプリス」を鮮やかに弾き切ると、この日コンサートマスターを務めたクシシュトフ・ポロネクが、隣の奏者と驚いたというような表情を交わしていた。
堂々たるデビューを飾った13歳は、ベルリン・フィルのメンバーからも音楽の高みを目指す「同僚」として認められたようだった。
取材・文:中村真人(音楽ジャーナリスト/ベルリン在住)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2025.3/20(木)20:00 ベルリン・フィルハーモニー
〇出演
セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)
HIMARI(ヴァイオリン)☆
〇プログラム
ウェーバー:《オベロン》序曲
ヴィエニャフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番 嬰ヘ短調 op.14☆
【Encore】コリリアーノ:「レッドヴァイオリン・カプリス」☆
シューベルト:交響曲第8番 ハ長調 D944「グレート」
デジタル・コンサート・ホールでは後日アーカイブを放送予定