オーケストラの楽屋から 〜日本フィル編〜 vol.3

 トップオーケストラの音楽家たちはいったいどんな話をしているのだろう? 「ぶらあぼONLINE」特別企画としてスタートした「オーケストラの楽屋から」、今回は日本フィルハーモニー交響楽団の登場です。
 今回お集まりいただいたのは、オーボエ首席の杉原由希子さん、クラリネット副首席の楠木慶さん、ファゴット副首席の田吉佑久子さん、そしてホルン首席の信末碩才さんの4名。
 第3弾のトークテーマは、9月から日本フィルの首席指揮者に就任したカーチュン・ウォンについて。奏者から見た印象、楽しみなプログラム、そしてカーチュンとともに創り上げていくこれからの日本フィルについて語っていただきました。

左より:楠木慶さん、杉原由希子さん、田吉佑久子さん、信末碩才さん

Vol.3 新首席・カーチュンとのこれから

信末 (カーチュンの出演する日本フィルの演奏会の一覧を見て)こんなにたくさん登壇されるんですね!

――カーチュンが指揮をした時の日本フィルの演奏は、いつもと違うように聴こえます。
楽団員の皆さんからみたカーチュンの特徴は?

杉原 幅広い作品を取り上げてくれますよね。

田吉 本当に色々だよね。ブラームスをやればショスタコもやる。

信末 来年1月のフレンチ・プロが意外ですよね。ドビュッシーの「海」とか。プーランクの2台のピアノのための協奏曲はあまり知らなかったです。

――ともに博覧会でガムラン音楽を聴き、影響を受けた作曲家の作品という、いわば“アジアつながり”で選曲されたそうです。

田吉 そんなつながりで作ってたんだ!

田吉 この間、カーチュンと「展覧会の絵」をやったんですけど、今までやったことのないアプローチがたくさんあって。「確かにそういう風にも見える楽譜ではあるけれど、そういう発想は自分になかった」とか、「こんなに表情豊かな曲だったんだ」っていう発見がありました。すごく楽しかったし、「本番までにカーチュンが言っているイメージを、私も持てるかな」と思ったけど、最後にぐわーっとどういう感じかを出してくれて。一体になるというか、お互いが思ってることを表現し合う、という“会話”もできて面白かったです。

楠木 ありがちな演奏は絶対にしないですよね。

田吉 そうそう、だから発見がたくさんある。

楠木 本当に細かいところまで突き詰めている感じですよね。

田吉 でもそれが破茶滅茶とか、わかりにくい、ということはないから、すごく納得がいきます。スッキリするというか。

杉原 「展覧会の絵」に関しては演奏機会が多い曲なだけに、オーソドックスにやる人が多い中で…

田吉 そうそう、「なんとなく」って感じでね。「なんとなく吹いてたところがいっぱいあったって気づいたよね」と杉ちゃんと話をしました。貰うばっかりじゃなくて、自分たちでもっと考えたり、読み取れるものってあるなって、あの演奏会の後に思ったね。

信末 カーチュンはもともとトランペット吹きじゃないですか。

杉原 え、知らなかった!

信末 そう、だから金管に優しい。

一同 (笑)

楠木 厳しいんじゃなくて、優しいんだ。

信末 音楽の要求的にはハイレベルなものが来ます。ただ、ゲネプロで、金管が大変な箇所は、他の指揮者の方は「セーブしてください」っておっしゃるんですけど、カーチュンはそもそもあまりやらないんです。前日までにちゃんとまとめて形にしておいて、本番直前はそういった箇所をほとんどやらないでくれる。目に見えて気を遣ってくれてるというのがわかります。

田吉 それ、すごくいいね。

信末 金管奏者からすると、すごく好感度が高い。本番で一番、自分が出せる。疲れていると余計なことに頭がいくじゃないですか。ホルン奏者にとっては口の疲れとか。そこへの気遣いが、感覚としてすごく備わっていらっしゃると個人的に感じています。

杉原 そうだね。あと、リハーサルの時間が一瞬で過ぎる印象。本当に無駄がなくて。

信末 あんなにこだわってるのに、淀みなく進んでね。音楽って身振り手振りや表情とか、身体からすごい出るじゃないですか。それをオケの側で抽出して表現しようという、受け入れ態勢が整っていれば、かなりスムーズにいくような感じがします。

杉原 リハの一発目から、彼が指揮台に立つとみんな弾き方が変わる印象があります。振り下ろしからもう空気が変わりますよね。あと、「全然妥協していない、戦っている」というのが伝わってくるから、こっちも生半可な気持ちでいくとやられる。(笑)でもオケ側がやればやっただけ反応がありますよね。ちゃんと応えてくれるし、何か言ってくれる。

楠木 そういう時はなんか嬉しそうな顔しますよね。本番中とかもけっこう表情で訴えますし。

杉原 すごい笑顔で!

田吉 それって演奏する側としては結構違いますよね。心が安定する。

――これからのラインナップで楽しみな演奏会はありますか?

杉原 マーラー!

楠木 9番っていうのがね。

信末 9番…頑張ろう。

杉原 私はマーラーのシンフォニーの中で9番が一番好きで。でもあんまりやらないから。

信末 大変じゃない楽器がないですもんね。マーラーはどれをとっても大変。3番とかけっこうやばいんですよね。ド頭も8本のホルンのユニゾンから始まりますし、ポストホルンのすごいソロがあるじゃないですか。あのソロと、ホルンが絡んだり引き継いだりする動きがかなりあって。本当に限界みたいなことをマーラーが書いてて。こんなことできるか! って。でも、カーチュンとだから気持ちよくできるんじゃないかと思っています。

杉原 カーチュンはシビアなところも吹きやすくしてくれる印象がある。針の穴に糸通すような感じでは振ってこない。

田吉 ないね。本当にない。

信末 「いくぞ、ホルン!」というのは本当にない(笑)。どうぞっていう感じでやってくれる。個人的にはマーラーの3番も9番も難しい曲という印象がすごく強いですが、今回やるときにそれを払拭というか、また違うイメージを僕の体や頭の中に入れてくれるんじゃないかという、そういうイメージはなんとなくできるんですよね。

杉原 慶くんはどう?

楠木 これまでは演奏機会の多くない曲をやることがわりと多かったと思うんですけど、今回は名曲が揃ってるじゃないですか。「悲愴」があって、ショスタコの5番があって、「幻想」があって。さっき話に出ましたけど、彼はありがちな感じでは絶対やらないので、日本フィルでもよく演奏しているレパートリーをどういう風に、どんなアイディアを引き出してくれるのか、すごく楽しみに思っています!

――では最後に、カーチュンはどんな方ですか?

杉原 めちゃくちゃ熱いですね。

信末 うん、エネルギーがすごい。

田吉 やりたいことがいっぱいある感じがするよね。

杉原 これもあれもやりたい、っていうアイディアがあって、それが熱すぎて、私たちがついていけなくてちょっとフラストレーションを感じていらっしゃるかもしれないという節もありつつ…。
だから、私たちも少しずつそれに感化されて、もっと積極的に音楽していけるようになったら、日本フィルも違う方向に変わるんじゃないかって思います。

信末 良くも悪くも、プロオケってブランドイメージとか、オケのカラーみたいなのが出来上がってるじゃないですか。日本フィルだって創設67年目で、長年の積み重ねがある。それを良い意味で壊し、殻を破る起爆剤になってくださろうとしている感覚はすごくあるので、最近入ってきた身としては、すごく良いなと思っています。

杉原 そうだね、新しいね。

信末 ラザレフとは全然カラーが違いますけど、どっちの色も出せたら良いじゃないですか。その価値観が生まれているのは、僕的にはすごく嬉しいきっかけというか、出会いの感じがしています。

〜 End 〜


カーチュン・ウォンが出演する今後の演奏会

指揮:カーチュン・ウォン(首席指揮者)

第392回 横浜定期演奏会
2023.11/25(土)17:00 横浜みなとみらいホール
第248回 芸劇シリーズ
2023.11/26(日)14:00 東京芸術劇場
ピアノ:福間洸太朗

第756回 東京定期演奏会
2023.12/8(金)19:00、12/9(土)14:00 サントリーホール
マリンバ:池上英樹

第394回 横浜定期演奏会
2024.1/20(土)17:00 横浜みなとみらいホール
第403回 名曲コンサート
2024.1/21(日)14:00 サントリーホール
ピアノ:上原彩子

第757回 東京定期演奏会
2024.1/26(金)19:00、1/27(土)14:00 サントリーホール
ピアノ:児玉麻里、児玉桃

第760回 東京定期演奏会
2024.5/10(金)19:00、5/11(土)14:00 サントリーホール

特別演奏会
2024.5/25(土)14:00 昭和女子大学 人見記念講堂
第404回 名曲コンサート
2024.5/26(日)14:00 サントリーホール
ピアノ:小菅優

問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp


カーチュン・ウォン 首席指揮者就任披露演奏会
マーラー:交響曲第3番

(1000円で3ヵ月間視聴可、販売期間:2024年4月13日まで)


杉原由希子  Yukiko Sugihara

神奈川県横浜市出身。愛知県立芸術大学音楽学部卒業。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。第99回高校生国際コンクールにて第3位入賞。第76回日本音楽コンクール入選。
2015年、2020年にはモーツァルト(‪小林研一郎指揮)、2021年にはR.シュトラウス(カーチュン・ウォン指揮)のオーボエ協奏曲を日本フィルハーモニー交響楽団と共演。2016年アフィニス文化財団の海外研修員として、ドイツのマンハイム音楽大学へ留学。エマニュエル・アビュール氏のもと、ソロ、室内楽、オーケストラを学ぶ。また室内楽では木管五重奏団『アミューズクインテット』メンバーとして日本各地に赴き演奏活動を行っている。
現在、日本フィルハーモニー交響楽団首席オーボエ奏者、ビュッフェ•クランポン•ジャパン登録講師。これまでにオーボエを和久井仁、古部賢一、浦丈彦、小畑善昭、青山聖樹、エマニュエル・アビュールの各氏に師事。

楠木慶 Kei Kusunoki

広島県出身。2013年東京藝術大学卒業。2014年日本フィルハーモニー交響楽団に入団、現在、副首席奏者を務める。
第33回日本管打楽器コンクール第2位。クラリネットを武安宏子、堀川千影、山本正治、三界秀実、ティモシー・カーターの各氏に、室内楽を三ツ石潤司氏に師事。ビュッフェ・クランポン・ジャパン専属講師。


田吉佑久子 Yukuko Tayoshi

京都市立芸術大学およびケルン音楽大学(ドイツ)卒業。宇治原明、光永武夫、岡崎耕治、Georg Kluetsch、Ole Kristian Dahl の各氏に師事。
2003年津山ダブルリードコンクール第4位を受賞。
WDRケルン放送管弦楽団、ケルン市立歌劇場、バスク国立オーケストラ(スペイン)などに客演。
ドイツ・エッセンフィルハーモニー契約団員を経て、2010年3月日本フィルハーモニー交響楽団入団、現在、副首席奏者を務める。


信末碩才 Sekitoshi Nobusue

栃木県出身。12歳よりホルンを始める。春日部共栄高等学校を経て、東京藝術大学を卒業。
第86回日本音楽コンクールホルン部門入選。第35回日本管打楽器コンクールホルン部門第3位。ホルンを飯笹浩二、日髙剛の各氏に師事。
現在、日本フィルハーモニー交響楽団首席ホルン奏者。Horsh、ALEXANDER HORN ENSEMBLE JAPANの各メンバー。ドルチェ・ミュージック・アカデミー東京講師。
2024年6月の第761回東京定期演奏会でR.シュトラウス:ホルン協奏曲第2番のソリストを務める。

(C)吉田タカユキ

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