トップオーケストラの音楽家たちはいったいどんな話をしているのだろう? 「ぶらあぼONLINE」特別企画としてスタートした「オーケストラの楽屋から」、今回は2度目の登場、NHK交響楽団です。首席チェロ奏者の辻本玲さんの呼びかけに、オーボエ首席の吉村結実さん、トランペット首席の菊本和昭さん、打楽器の黒田英実さんの3人が集まってくれました。世代も近い関西出身4人衆の本音と本気が入り交じる楽しいトークをどうぞ。
ぶらあぼONLINE特別企画:オーケストラの楽屋から
普段なかなか見ることのできないアーティストの素顔や生の声、意外な一面などを紹介していきます。音楽家としてだけでなく、“人”としての魅力をクローズアップし、クラシック音楽をより身近に、そして深く楽しんでもらいたい、そんな思いを込めたコーナーです。
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vol. 2 リードは毎晩削る
辻本 オーボエの人って、ずっとリードを作ってますけど…。オレはめっちゃ手先が不器用で、そういう作業できないなと思って…。そういうことできない人って、オーボエ吹けないの?
吉村 まぁ、器用に越したことはないかもしれないですね。でも、あまり神経質になりすぎても駄目なので、不器用でも吹ければ、全然いいんですけど。
辻本 チェロの場合、調整というと、楽器の中に魂柱っていう棒が立ってて、それを動かして音の感じとか、楽器の張りを変えるんだけど…。
菊本 コンチュウ?
辻本 魂柱。
菊本 カブトムシとかそういうの?
一同 (笑)
辻本 表板と裏板の間に棒が立ってる。チェロを横から見て立ってるの、1本の細い棒が。それが駒から魂柱に伝わって裏板を振動させてる。
黒田 へぇー!!
辻本 楽器屋さんに持っていって、当たり方をちょっと変えてもらったりするんだけど。それって本当は自分でできたら、めっちゃ楽。楽器屋行かんでもいいから。でも、演奏家がそれをできるようになると、もう延々とそれをやってしまうから、絶対にやめた方がいい。
一同 あぁ…。
菊本 あとエンドピンの素材にこだわる人もいるやん。チタンでできてるとか。楽しそうやなぁと思って。
一同 (笑)
辻本 西山健一さん(N響 チェロ次席)は、もう本当にガジェットフリークみたいな感じで。テールピースっていうチェロのいちばん下の、弦がへばりついてるヤツ。普通は木やプラスチックだったりするんやけど、彼は鉄の穴空いてるのを使ってたりとか。いつも違うのを試してる。
菊本 純金とかってことですか。
辻本 いやいや、いやらし過ぎるでしょ(笑)
菊本 僕ら金管の最大の特徴は、水洗いできる。全部分解できて。
吉村 お風呂で、ですよね。
菊本 昔は、(一緒に)お風呂入ってたけど、自分が油だらけになるから(笑)
辻本 油?
菊本 オイルを注してるので…。眼鏡屋さんに行くと、超音波洗浄ってあるじゃないですか。ある楽器屋さんに持っていくと、楽器ごと全部超音波洗浄してもらえる。だから調子悪くなったら持って行くんだけど、何か詰まってて欲しいのよ。
辻本 逆にね(笑)
菊本 自分のせいじゃないって。
吉村 ドロって何か出てきてほしいですね(笑)
菊本 出てきてほしい。もうめっちゃドロドロって出てきてほしいんやけど、「意外と綺麗でした」って言われて、「やっぱ自分かぁ」ってなることもあったりしますね。
辻本 弦楽器の楽器屋さんって、めっちゃ響くの。「すごい調子悪いな」と思って楽器屋に持って行って、「ちょっと弾いてみてください」って言われて弾いたら、ブワーッて鳴ったっていうのが、わりと“あるある”で(笑)
一同 (笑)
辻本 「なんでオレ来たん?」ってなる。どこの楽器屋もそうなんだけど。管楽器もけっこうそんな感じ?
吉村 いや、管楽器はけっこう密室に入れられるから…。
菊本 逆にデッドね。
吉村 そう、響かないところが多いかもしれない。
辻本 そうなんや。すごくわかりにくいから、本当に自分の手元だけを信じている。耳を信じると、家帰ったら「あれ?」ってなる。感覚だけを頼りに調整してもらってる。
吉村 難しいですね。
菊本 ちなみにリードって年間何個ぐらい作るの?
吉村 知りません。数えたくもない(笑)
一同 (笑)
吉村 毎晩削ってます。
菊本 毎晩なんや!
吉村 ほぼ毎晩。本番の日はさすがにしないですけど。うん、毎晩…。
菊本 1本あたり、どれぐらい?
吉村 いや、それがわからないんですよ。工程ごとに分けて作業してるから。
菊本 職人だ!
吉村 今日はこの作業、今日はこの作業、みたいな感じで。だいたい私は毎日、2本ずつ仕上げていくようなイメージ。本番の日はしない。たぶん月50本ぐらい作ってるのかなぁ。
黒田 わぁ、すご!すごいなぁ…。
吉村 そのうち何人が生きてはるんか知らんけど。
黒田 (笑)
辻本 それは当たり外れとか?
吉村 そうですね。オーボエ奏者って常にリードのことを考えていると思います。やっぱり本番中に何が起きるかわからないし、その日の朝いいと思っても夜の本番になったら、また天気が変わって、リードの調子も変わったりするから。
菊本 湿気とか?
辻本 湿気はやばい。すごいよ。チェロの場合、特に毛が伸びてきて。弓のほうの毛は湿気で伸びちゃうから。
吉村 それで弾き心地が変わってくる?
辻本 なんかモサモサして引っ掛からなくなる。舞台袖では良くてもお客さん入ると、やっぱり息とか湿気がブワッと入ってきて、雨の日なんて服が濡れてたりすると、マジで大きな影響がある。やっぱり梅雨のときはあまり弾きたくない。
菊本 やっぱり5月、6月は休止にしてもらえば…。
一同 (笑)
黒田 乾燥はいいんですか? 逆に。
辻本 乾燥もあんまり良くない。
黒田 NHKホールはすっごい乾燥するから、例えばタンバリンとか今こんなベコベコなんですけど、これNHKホールに持って行ったら、パッツーンってなるんですよ。
吉村 へぇー!
辻本 それって音程は変わっちゃう? ティンパニの音程…。
黒田 あ、もう全然変わります。
辻本 弓の毛も、乾燥してるとどんどんパンパンになって気づいたら平行になってるってあるけど、ティンパニも、気ついたら音程上がってるとかって…。
黒田 あります、あります。
辻本 例えば、ティンパニなんかもずっと待ってて気づいたら音程上がってるとか。
黒田 あります。ちょっと休んでいる間にすぐ上がって、ずっと調整してるとか、ありますね。
吉村 床に水撒いたりね。
辻本 あ、してるんだ。
菊本 そう、僕らは吸水シートをコロナ禍以降置いてるけど、木管楽器のところには、それに水を大量に含ませていて。
辻本 へぇ!
菊本 1回間違えて、僕のところビッショビショになってて。
吉村 座れませんね(笑)
菊本 転けそうになったよ。
辻本 トランペットは別に?
菊本 僕らはどっちかっていうと湿気ある方がいい。
一同 へぇー!
菊本 乾燥すると唇の状態が悪くなるから。なかなかね、一緒になれないね。
一同 (笑)
(vol.3へつづく)
辻本玲 Rei Tsujimoto
チェロ (首席)
東京藝術大学音楽学部器楽科を首席で卒業後、シベリウス・アカデミー、ベルン芸術大学に留学。2009年ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール第3位入賞(日本人最高位)。2013年齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。
2019年CD『オブリヴィオン』をリリース(「レコード芸術」誌特選盤)。
使用楽器はNPO法人イエロー・エンジェルより1730年製作のアントニオ・ストラディヴァリウスを貸与されている。
公式サイト http://www.rei-tsujimoto.com
吉村結実 Yumi Yoshimura
オーボエ (首席)
東京音楽大学、パリ地方音楽院卒業。第9回東京音楽コンクール第3位、第82回日本音楽コンクール第1位の他受賞。ソリストとして日本センチュリー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団などと共演の他、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」、東京オペラシティ主催「B→Cリサイタルシリーズ」などに出演。ヤマハ音楽留学奨学生。PMFオーケストラアカデミー修了生。 オーボエを高山郁子、宮本文昭、古部賢一、ノラ・シスモンディの各氏に師事。兵庫芸術文化センター管弦楽団を経て、現在NHK交響楽団首席オーボエ奏者。
菊本和昭 Kazuaki Kikumoto
トランペット (首席)
兵庫県出身。京都立芸術大学首席卒業および同大学院首席修了。フライブルク音楽大学、カールスルーエ音楽大学にて学ぶ。賞歴は第19回日本管打楽器コンクール第1位。第72回日本音楽コンクール第1位および増沢賞。E.スミス国際トランペット・ソロ・コンペティション第2位など。京都市交響楽団を経て、2012年よりNHK交響楽団首席奏者。トランペットを早坂宏明、有馬純昭、A.プログ、R.フリードリヒ、故・Dr.E.H.タール各氏に師事。室内楽を呉信一氏に師事。東京藝術大学非常勤講師。大阪音楽大学客員教授。
黒田英実 Hidemi Kuroda
打楽器
大阪府立岸和田高等学校を経て武蔵野音楽大学器楽学科打楽器専攻卒業、同大大学院音楽研究科器楽(打楽器)専攻修了。福井直秋記念奨学生。 在学中よりオーケストラへの客演奏者としての活動を中心に、室内楽やミュージカル、レコーディングなどの各分野で研鑽を積む。第25回日本管打楽器コンクール第3位(パーカッション部門最高位)入賞。ソリストとして日本フィルハーモニー交響楽団と共演。これまでに打楽器を安藤芳広、安藤淳子、小谷康夫の各氏に師事。 武蔵野音楽大学講師。
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