オーケストラの楽屋から 〜東京フィル編〜 vol.2

 トップオーケストラの音楽家たちはいったいどんな話をしているのだろう? 「ぶらあぼONLINE」特別企画としてスタートした「オーケストラの楽屋から」、今回は東京フィルハーモニー交響楽団の登場です。
 お集まりいただいたのは、テューバの大塚哲也さんと荻野晋さん、ホルンの田場英子さんと豊田万紀さん、トロンボーンの辻姫子さんの5名。その第2話は、様々公演で演奏を行う東京フィルならではの対応、チームワークなどについてお届けします。

左より:大塚哲也さん、田場英子さん、豊田万紀さん、辻姫子さん、荻野晋さん

Vol.2 東京フィルの楽団員はみな“職人”

田場 テューバが2人いるオーケストラも珍しいですよね。

大塚 吹奏楽団はいる場合がありますけど、それも減ってきちゃったけどね。

荻野 僕はもう大塚くんがいてくれて本当よかった。

一同 (笑)

大塚 日本のオーケストラの場合、例外的に引き継ぎで2人いるなんていうのはたまにあるんですけど、常時2人は世界的にもそんなにないですよね。

田場 外国も?

大塚 大きいオペラハウスとかじゃないと。

荻野 うん。

大塚 普通のサイズのオーケストラだとテューバもそうだし、ハープとかバストロンボーンとは一匹狼パートで・・・。自分のことも全部自分で決めちゃえばいいみたいなところがあるんですけど、よそのオーケストラのテューバの人が絶対にやらないことは出番を決めること。

一同 あ!そうだ。

大塚 どっちが何に出てっていう、これが吹奏楽団だと常に2人なんで、それはユニークかも。

  確かに。そういうことはないから面白い。

大塚 例えば地方のオケにいると、テューバの人と会うってこと自体が珍しい。

  「幻想」やるときにエキストラが入らないっていうのは、東京フィルだけだと思うんですよね。

大塚 僕が出番を決める担当をさせていただいているんですけど、できるだけテューバ2本の曲のときは萩野さんと一緒にやれるようにしてます。ただどちらかに長いオペラが入ってしまうと、そうもいかないこともあるんですけど。今度もできれば一緒にやりたいなと思っています。

田場 オペラも2本ってことはない?

大塚 例外的なのはありますよね、《サムソンとデリラ》とか。

荻野 うん。

大塚 それこそ3月に新宿文化センターでの、バッティストーニ指揮のベルリオーズ「レクイエム」は、最大テューバが10本必要で・・・。

一同 ええええ! 知らなかった。

大塚 よそのオーケストラのテューバの人と話をしても、「これ僕出番」・・・ていうと、「そっか“出番”とかあるの、どうやってんの?」と言われます。

  確かに。テューバが一人だったら、出番は曲の編成にテューバがあるかないかってことですもんね。

大塚 以前、どっちかが間違えて現場で2人で会ったってことあります。

一同 (笑)

  2人ともいないよりはいいですよね。

田場 そういう意味では、東京フィルは忙しいのに、出番を間違えるとか? そういったことがないね。

大塚 奇跡ですよね。

  本当に真面目な方が多いなって思います。すごく上から目線な・・・(笑)。真面目な先輩が多いから後輩たちもちゃんとしなきゃって。こんな忙しくて手配もミスなく、みなさん本当にすごいと思う。

田場 たぶん入り組んでいるスケジュールなだけに、みんなすごく注意して確認して、思い込まない。あと練習が1日とかしかないときもあるのにもう仕上がってることがすごく多くて、特にオペラとか。みんなほぼほぼわかってるっていう。

  初めて入ったときは大変。なんで皆さんそんな曲を完璧にわかった状態でって・・・。

大塚 そういう意味で能力の高い低いだけじゃなくて、向き不向きあるかもしれませんね。すごく優秀でも向いてないって人もいるんじゃないかな。

田場 処理能力に長けている人が多いかなっていう気はします。その現場での対処の早さ。なんかもうその場で、ガッ!て集中してやってみたいな。

豊田 最初入団したときに、予定表の見方から教えてくださって。そうじゃないと何がどうだかってわからなくって。

大塚 新しく入った方とか、よそのオーケストラから来た方にとってすごく新鮮なのは、仕事ごとにメンバーが変わること。1番組終わると、ちょっとメンバーが変わってその化学反応が面白い。

田場 2月3日にホルンセクション10人で演奏会をやるんですけど、この前、ホルン協会報用のインタビューをして、そこでも皆それ言ってた。演目ごとにメンバーがどんどん変わるから楽しいって。

豊田 はい。

田場 東京フィルの現場対処は職人気質じゃないですか? あとやっぱりオペラをやってきたから「合わせる」ことはめちゃくちゃ得意としてるかも。

  確かに合わせることへの執念みたいなのありますよね、なんか意地でもみたいな空気感のときとかあります。

大塚 ここ何年かですごく若くて優秀な金管の人が入ってきてくれて、金管楽器すごく元気なオーケストラじゃないかなって。

田場 うん。確かに。

大塚 すごくやりがいがありますよね、上手な人がいっぱい入ってきてくれて。

田場 新しい方々もみんな対応能力も早いし、対処も早いし、その「合わせる」っていうのに適応するのが本当に早いんですよ。

  (豊田)万紀ちゃんとか本当素晴らしいし、確かに皆さんそうだなって思うんですけど。

田場 必死だろうけど、本人としては。

大塚 どっぷり浸かっちゃってますからね。

  でもやっぱり何か言い方が難しい時期ですけど、昭和っぽいところあると思います。悪い意味じゃなくて。何て言ったらいいんですかね。

田場 根性?

  根性みたいな。

田場 それ悪い意味じゃないの?(笑)

  いやいや悪い意味じゃなく、でもやっぱり必要なときってあるじゃないですか、根性って。たぶん演奏者は特に。それが強いオケかなと思うんですけど。

大塚 それこそ、さっき田場さんが仰ったみたいに、ピットもやってるし、人に合わせる仕事もすごく多い。そういうのに向いている気質の人がいっぱいいて、チームを大切にしてる人が多いかなと。割とキャラクター的にも自分が自分がっていう人よりは・・・。

田場 確かにそうかも。

大塚 ちょっと一歩引ける人がね。東京フィルは塊(かたまり)でやってるみたいな・・・。

  チームワーク強めですよね。そして金管がめちゃくちゃ仲いいですもんね、誰とでも喋りますよね。

田場 確かに。東京フィルのみんなは職人だな。昭和的かもしれないけど。

  だからその職人の兄貴姉貴たちからね、後輩たちは学んでいくという感じで。

大塚 だから勘でできないといけないことが多いですよね、理屈じゃなくて。

  そういうオーケストラになっていったっていう感じなんですかね。

大塚 例えば、最近入られた方から見てどうですか?

豊田 いま大塚さんが仰ったみたいに、協調性のある方が多くて、皆さん優しくしてくださり、いろんなことを教えてくださったりして、「自分で頑張ってね」っていう人がいない。逆にそういう人じゃないとやっていけない・・・。

  そうだね、相性としてね。

豊田 はい。それはすごく感じます。

  万紀ちゃんもたぶんそうですけど、私も入ったときに、先輩方、特に金管の皆さんが本当によくしてくださるから、新しく入った人にもそうしなきゃって、したいなって。それがどんどん連鎖されていけば今後もいいなと思うんですけど。また女子も増えるかもしれないとかね。

田場 メンバーが変わっても、めっちゃ(音が)変わっちゃうとかそんなこともないし、不思議。

大塚 人が変わっても基本的には何も変わらない。

田場 別にこっちが何を変えようってこともなくても普通にいけるからね。

(vol.3へつづく)


東京フィルハーモニー交響楽団 今後の公演

●2月定期演奏会
第152回 東京オペラシティ定期シリーズ
2023.2/22(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第980回 サントリー定期シリーズ
2/24(金)19:00 サントリーホール
第981回 オーチャード定期演奏会
2/26(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522 
https://www.tpo.or.jp


●響きの森クラシック 小ホール特別編〈第4回〉
東京フィルハーモニー交響楽団メンバーによるホルンアンサンブル
2023.2/3(金)19:00 文京シビックホール(小)
 完売
出演
高橋臣宜、齋藤雄介、磯部保彦、大東 周、木村俊介
田場英子、塚田 聡、豊田万紀、山内研自、山本友宏
https://www.b-academy.jp/hall/play_list/060823.html

●新宿文化センター×東京フィルハーモニー交響楽団
ベルリオーズ「レクイエム」
2023.3/18(土)15:00 新宿文化センター

出演
アンドレア・バッティストーニ(指揮) 宮里直樹(テノール)
東京フィルハーモニー交響楽団 新宿文化センター合唱団
問:新宿文化センター(公益財団法人新宿未来創造財団)03-3350-1141
https://www.regasu-shinjuku.or.jp/bunka-center/shusai/32722/


田場英子 Eiko Taba

1991年東京音楽大学卒。
同年新星日本交響楽団入団。1997年アメリカ・シカゴに留学。現在東京フィルハーモニー交響楽団団員、オイロス・アンサンブル、つの笛集団メンバー。
聖徳大学兼任講師、沖縄県立芸術大学非常勤講師。

(C)三好英輔

豊田万紀 Toyoda Maki

千葉県出身。習志野市立習志野高等学校、東京藝術大学卒業。ホルンを丸山勉、守山光三、日高 剛、五十畑勉、西條貴人、伴野涼介の各氏に、室内楽を岡本正之、伴野涼介、有森博、山本正治の各氏に師事。これまでにエサ・タパニ、デニス・トライオンのマスタークラスを受講。リベルタスブラスクインテットメンバー。現在東京フィルハーモニー交響楽団ホルン奏者。

辻 姫子 Himeko Tsuji

京都市立芸術大学音楽学部管打楽専攻を首席で卒業。同大学大学院修士を課程修了。卒業時及び修了時に京都市長賞、並びに京都音楽協会賞を受賞。現在東京フィルハーモニー交響楽団副首席トロンボーン奏者。関西トロンボーン協会理事。これまでにトロンボーンを小西智、神谷敏、呉信一、岡本哲の各氏に師事。第13回日本トロンボーンコンペティション第2位。第15回松方ホール音楽賞受賞。第10回東京音楽コンクール金管部門第2位(1位なし)。

大塚哲也 Tetsuya Otsuka

1973年千葉県東金市生まれ。11歳よりテューバを始める。東京藝術大学および同大学院を卒業後、1998年仙台フィルハーモニー管弦楽団に入団、2002年アフィニス文化財団の派遣により、アメリカ・シカゴへ留学。帰国後、2007年より東京フィルハーモニー交響楽団団員。
エマーノン・ブラス・クインテットのメンバー。武蔵野音楽大学・東邦音楽大学講師。船橋吹奏楽団音楽監督。日本ユーフォニアム・テューバ協会常任理事。

荻野 晋 Shin Ogino

東京藝術大学卒業。卒業後はミュンヘンにてロバート・トゥッチ、トーマス・ウォルシュの両氏に師事。1989年第6回日本管打楽器コンクールにおいて第1位を受賞、90年新星日本交響楽団に入団。99年、アフィニス文化財団の海外派遣研修員として渡米。2001年、合併により東京フィルハーモニー交響楽団団員。これまでに安元弘行、小倉貞行、小倉利文、アーノルド・ジェイコブス、デイヴィド・グリッデン、ジーン・ポコーニー、レックス・マーティンの各氏に師事。尚美学園大学、東京音楽大学、洗足学園大学非常勤講師。

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