INTERVIEW マーク=アンソニー・ターネジ

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 2024年のコンポージアムは、イギリスで最もよく演奏されている作曲家の一人、マーク=アンソニー・ターネジ(1960-  )をフィーチャー。サイモン・ラトルがバーミンガム市響時代からターネジの作品をたびたび取り上げ、その名が広く知られるようになりました。オリヴァー・ナッセンやガンサー・シュラーらのもとで学んだ彼は、クラシックとジャズのイディオムを融合したスタイルで、シンフォニック・ジャズの系譜を引き継ぐ代表的な存在となっています。
 めったに取材を受けないアーティストですが、今回、5月の来日を前にインタビューが実現! 自身の音楽やタケミツとの出会いなどについて語ってくれました。

聞き手:後藤菜穂子(音楽ライター)
2024年3月 ロンドンにて

——ターネジさんはこれまで作曲コンクールの審査は行ってこられましたか?

ターネジ: 作曲コンクールの審査は基本的に引き受けてこなかったのですが、武満徹作曲賞については始まったときから存在を知っていましたし、私の師オリヴァー・ナッセンが武満徹や東京オペラシティ文化財団と強い結びつきをもっていたこともあり、お引き受けすることにしました。ナッセンは折に触れて、同作曲賞はとてもやりがいのある企画だと話していましたし、ジョージ・ベンジャミンなど、過去に審査員を務めた仲間たちからも話をきいていました。私と作風の違う直前の審査員などからの推薦があったことも光栄に思っています。実際に応募作102作を自分一人の責任で事前に譜面審査するのは想像以上にたいへんなことでしたけれど。

——武満氏との思い出は?

ターネジ:私が最初に生で聴いた武満作品はアメリカのオーケストラが演奏した「グリーン」だったと記憶していますが、1970年代末からナッセンを通じて武満のさまざまな作品に親しんでいましたし、のちに私が勉強したタングルウッドでも小澤征爾とのつながりから彼の音楽はよく演奏されていました。

その後、1987年にスコットランドのグラスゴーで開かれたムジカ・ノーヴァ現代音楽フェスティバルで、武満と私とジェイムズ・ディロンの3人が特集され、ご一緒させていただいたのは良い思い出です。ある晩、ふたりでホテルのバーで飲みながらかなりつっこんだ話をしたことを覚えています。彼が亡くなったときは悲しくて、すぐに「Tune for Toru」という小品を作曲したのでした。

——コンポージアムのオーケストラ公演(5/22)の選曲についてお聞かせください。

ターネジ:いろんなつながりのあるプログラムだと言えます。オーケストラのための「ラスト・ソング・フォー・オリー Last Song for Olly」は、パンデミックの最中の2020年9月にサイモン・ラトルとロンドン交響楽団(LSO)によって初演されました。核となっているのはナッセンが亡くなったときに私が作曲した追悼のピアノ曲で、本作の最後のセクションはこの曲に基づいていて、その他のセクションにもナッセンのいくつかの作品からの引用——隠された引用も——があります。

一方、「リメンバリング Remembering」もラトルとLSOが初演してくれた作品ですが、こちらは若くして亡くなった、ジャズ・ギターのジョン・スコフィールドのご子息への思い出として書いた曲です。偶然ですが、この終楽章も彼が亡くなったときに作曲したピアノ曲に基づいています。実際、友人や知人が亡くなったときに、自分の思いを曲に込めることが多いですね。先日ある方から、あなたの作品には「喪失」についての曲が多いですね、と言われたのですが、私にとっては作曲することが悲しみの気持ちを整理する方法なのだと思います。

——ご自身の作品に加えて、ストラヴィンスキーとシベリウスの曲を組んだ理由は?

ターネジ:私はストラヴィンスキーが大好きなので、コンサートの選曲を任せられたらいつも彼の曲を入れます。自分の曲は1曲であとは全部ストラヴィンスキーでもよいぐらいです(笑)——三大バレエはよく取り上げられますが、演奏機会の少ない曲もけっこうありますから。

今回選んだ「管楽器のサンフォニー」(1920年版)は、彼の作品の中でも「春の祭典」、「結婚」と並んで、きわめて独創的で革新的な曲と考えています。構成もきわめてユニークで、つねに予想を裏切る展開に驚かされますし、とりわけひとつの場面から次の場面に移るときに突然方向転換する手法は他のどの作曲家にもない特色だと思います。

またストラヴィンスキーつながりで、彼が編曲したシベリウスの「カンツォネッタ」を選びましたが、この曲の存在を教えてくれたのもナッセンでした。

——指揮者のサイモン・ラトルとは、バーミンガム市響(CBSO)の音楽監督時代から緊密な関係を築いてきました。彼からはどんなアドバイスを得てきましたか?

ターネジ:私の管弦楽曲「3人の叫ぶ教皇 Three Screaming Popes」を彼がCBSOと初演してくれたのは、私が29歳のときでした。それを機にCBSOのコンポーザー・イン・アソシエーションとなり[1989~93]、その間にほかにもいくつかの曲を初演していただきましたし、ワークショップなどを通じて具体的な指摘やアドバイスをくれました。たとえばあるとき、君のヴィオラ・パートはあまりおもしろくないから、ニールセンの交響曲を勉強してみては、と言われたことがありましたね。

話は飛びますが、今回演奏される「リメンバリング」はヴァイオリン・パートがなくてヴィオラ・パートが活躍しますが、これはブラームスの「セレナーデ」と組み合わせるので、同じ編成を用い、ヴィオラ・パートが映える曲を書いてほしいというラトルからのリクエストによるものです。振り返ればバーミンガム時代のアドバイスから数十年、ようやくおもしろいヴィオラ・パートが書けたと思えるようになりました。彼は私の作風を知り尽くしていて、どうすればオーケストラからベストの演奏を引き出せるかを心得ているので、彼とのコラボレーションはいつも楽しみです。

——ジャズの要素を取り入れた作品を多く書いていらっしゃいますが、ジャズとの出会いは?

ターネジ:私がジャズにのめりこんだのは17~18歳のころで、音大時代はほとんどクラシックを聴かず、ジャズばかり聴いていました。最初に書いたジャズの要素のある曲は「夜の踊り Night Dances」(1981)で、中間楽章がマイルス・デイヴィスへのトリビュートでした。その後、1996年に初めてジョン・スコフィールドとピーター・アースキンというアメリカのジャズの名手たちとのコラボレーションが実現、それをきっかけに「ブラッド・オン・ザ・フロア Blood on the Floor」(1993~96)などジャズ奏者を起用した作品が増えていきました。今では、ジャズが自分の語法の一部になっていて、直接ジャズの要素を用いていないオーケストラ曲でもジャズっぽくなりますね。

——一方、《アンナ・ニコル》など、ターネジさんのオペラの多くは今日的な主題に基づいていますね。

ターネジ:たしかに《グリーク Greek》にせよ《アンナ・ニコル Anna Nicole》にせよ、現代的な題材を意識的に選んでいるところはあると思います。私としては、自分の人生に関わりのある題材でないと書けないのです。来年(2025年)、ロイヤル・オペラで新しいオペラを発表しますが、それはデンマークの映画『セレブレーション』(原題:Festen)に基づいたもので、児童虐待や人種差別という重たいテーマを扱ったオペラです。

ただ、オペラは挑戦しがいはありますが、歌手のために作曲するのは難しいと今でも感じていて、何度も書き直します。きっと管弦楽曲や器楽曲を書くほうが自分に合っているんですね。とにかく昔からオーケストラのサウンドが好きで、特にリハーサルで自分の曲が最初に音になるときのワクワク感は何ものにも代え難いです。昨年(2023年)、私のオーケストラ曲「タイム・フライズ Time Flies」が大野和士指揮による東京都交響楽団によって演奏されたときは、最初のリハーサルからすばらしい出来で、コメントすることがないほど曲のスタイルを自分たちのものにしていて感激しました。

——最後に、作曲家を目指す若者たちへのメッセージをお願いします。

ターネジ:とにかく根気よく続けることです。私の学生たちにもよく話すのですが、険しい道なので、全力で打ち込む覚悟がないと作曲家を目指しても仕方がないと思うんです。私自身、子どもの頃から作曲しか頭にありませんでした。もし作曲が自分の天職だと思うのなら、努力し続けることだと思います。

——武満徹作曲賞の本選演奏会からどんな才能が誕生するのか、楽しみにしております。ありがとうございました。

マーク=アンソニー・ターネジ(作曲家/2024年度武満徹作曲賞審査員)
Mark-Anthony Turnage, composer / judge of Toru Takemitsu Composition Award 2024
国際的に活躍する作曲家マーク=アンソニー・ターネジは、ここ30年のイギリス音楽界における最も重要なクリエイターのひとりである。
初のオペラ『グリーク』(1986-88)で、ジャズとクラシックを融合させ、モダニズムと伝統との間に独自の道を切り開いた芸術家という評価を早くも確立させた。続いて1989〜93年にはバーミンガム市交響楽団のコンポーザー・イン・アソシエーションをつとめ、《3人の叫ぶ教皇》(1988-89)をはじめとする重要な作品群が書かれている。
オペラでは、『銀杯 The Silver Tassie』(1997-99)がイングリッシュ・ナショナル・オペラで初演、『アンナ・ニコル』(2008-10)はロイヤル・オペラ・ハウスを満員にし、『コラライン』(2015-17)はロイヤル・オペラによりバービカンシアターで初演後、各国で再演されている。
近作として、《Hibiki》(2014)、《リメンバリング》 (2014-15)、《シンフォニック・ムーブメンツ》(2017)などのオーケストラ曲、《トレスパス》(2011)、《ストラップレス》(2015)などのバレエ曲、マルカンドレ・アムランのための《ピアノ協奏曲》(2013)、ジャズ・ドラマーのピーター・アースキンをフィーチャーした《アースキン》(2013)、ダニエル・ホープとヴァディム・レーピンのための二重協奏曲《Shadow Walker》(2017)などの協奏曲や、弦楽四重奏曲《Contusion》(2013)、《Shroud》(2016)などがある。
デッカ、シャンドス、EMI、ロンドン・フィル・レーベル等に多くの録音があり、ドイツ・グラモフォンからリリースされた《Scorched》(1996-2001)はグラミー賞にノミネートされている。ロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックのフェロー。
2003年までの作品はショット・ミュージックから、以降はブージー&ホークスから出版されている。


【Information】
〈コンポージアム2024〉
マーク=アンソニー・ターネジ トークセッション

2024.5/21(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
出演/マーク=アンソニー・ターネジ、沼野雄司(聞き手)

マーク=アンソニー・ターネジの音楽
5/22(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
出演/ポール・ダニエル(指揮) 東京都交響楽団
ストラヴィンスキー:管楽器のサンフォニー(1920年版)
Stravinsky: Symphonies of Wind Instruments (1920 version)
シベリウス(ストラヴィンスキー編):カンツォネッタ op.62a
Sibelius (arr. Stravinsky): Canzonetta op.62a
ターネジ:ラスト・ソング・フォー・オリー(2018)[日本初演]
Turnage: Last Song for Olly (2018)
ターネジ:ビーコンズ(2023)[日本初演]
Turnage: Beacons (2023)
ターネジ:リメンバリング(2014-15)[日本初演]
Turnage: Remembering (2014-15)

2024年度 武満徹作曲賞 本選演奏会
審査員:マーク=アンソニー・ターネジ
5/26(日)15:00 東京オペラシティ コンサートホール

出演/杉山洋一(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団

問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp