
創立50周年に入った東京シティ・フィルは、4月に元コンサートマスター大谷康子と再会の共演を果たすのに続き、6月には楽団の成長期から支え続けてきた現コンサートマスター戸澤哲夫がソリストとして登場する。戸澤は東京藝術大学大学院在籍時からこのポストに就任し、今年在任30周年を迎える。ひとつの楽団で30年以上同職を務めるのは偉業であり、その節目を祝う場に自ら望んだ作品はベートーヴェン。長く苦労と喜びを共有してきた楽団を背に、戸澤の美しい演奏姿と持ち前の美音で奏でられるヴァイオリン協奏曲の超名曲。感慨深い時間になるはず。
感動的な音楽は後半にも。ヴォーン・ウィリアムズ「我らに平和を与えたまえ」。1936年、世界が再び戦争の予感に包まれ始めた時期に作られた、ソプラノとバリトン独唱に合唱団も加わる大作。曲名のラテン語“Dona Nobis Pacem(ドナ・ノービス・パーチェム)”が幾度も現れ、平和を希求するメッセージが、美しくも真に迫る音楽で展開される。イギリス音楽を重要な柱として、この作曲家の名演を重ねてきた藤岡幸夫たっての希望による選曲で、彼と度々共演するソプラノ安川みく、バリトン大西宇宙という人気歌手が集い、温かくも清澄な声で深い思いを伝える。東京シティ・フィル・コーアは、2月の藤岡指揮の伊福部昭「釈迦」で見事な合唱を聴かせたばかりで、続けて20世紀の対照的な傑作に挑む。本作のメッセージがますます必要となる今、ソプラノの“Pacem(平和)”が虚空に消えゆく結尾の余韻やいかに。大切な体験となる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年4月号より)
藤岡幸夫(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
第379回 定期演奏会
2025.6/6(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
https://www.cityphil.jp