若き弦楽四重奏団クァルテット・インテグラが北九州市立響ホールに初登場

世界的名手メルニコフとともにピアノ五重奏に挑む

クァルテット・インテグラ
左より:三澤響果、菊野凜太郎、パク・イェウン、山本一輝 ©Abby Mahler

コンクール入賞、メンバー交代…結成10周年を迎えたクァルテットの現在

 今年で結成10周年となるクァルテット・インテグラが7月、室内楽に定評ある北九州市立響ホールに、満を持して初登場する。世界の音楽シーンに欠かせないピアニスト、アレクサンドル・メルニコフも同じく初めての登場だが、この初めての顔合わせでピアノ五重奏にも取り組む。北九州に数日間滞在し、響ホールでじっくりとリハーサルを重ねて初共演に臨むという。
 夏のコンサートに向けて、クァルテット・インテグラの4人にオンラインで話をきいた。第1ヴァイオリンの三澤響果と第2ヴァイオリンの菊野凜太郎、ヴィオラの山本一輝は桐朋学園時代からの創設メンバー。2024年3月にチェロのパク・イェウンが加わって、ほぼ1年が経つ。クァルテットでロサンジェルスに留学、レジデンス・アーティストを務めるコルバーン・スクールで新たなチェリストとの出会いが実り、ともに歩みを進めることになった。

山本 「いまロサンジェルスにきて3年目で、メンバーも替わったり、いろいろあったなと思いますけれど、でも、まだまだこれからという気持ちのほうが強いです」

三澤 「いろいろな人たちとの出会いがあって、その出会いのおかげで、うまくクァルテットが続けられたなと思っています。私たちだけの力では留学もできなかったし、バルトークとミュンヘンの国際コンクールを受けたのも先生たちがきっかけをくださったので」

菊野 「たぶん僕のなかでは、やっていることも、クァルテットとの向き合いかたも、むかしからそんなに変わらない。もう10年経っちゃったし、なんか人生短いなと思って(笑)。できるだけ長生きしたくなってきている。最近は人生100年とか言いますけれど、クァルテットを楽しみ尽くすのには、100年ではちょっと足りないんじゃないかって」

イェウン 「彼らのクァルテットが最初にコルバーンにきたときの演奏が素晴らしくて、それからいつも聴いていたのです。だから、彼らが入ってほしいと言ってくれたとき、こう口にするのは照れくさいですけれど、夢が叶ったような思いがしました(笑)。最初はかなりナーバスになりましたが、ほぼ1年が経ったいまでは、もっと積極的になにかをいっしょに創り出してもよいポジションにきたような気がしています」

©Abby Mahler

全曲演奏が進行中のベートーヴェンにブラームスを組み合わせて

 響ホールでのコンサートは、ベートーヴェン最後の弦楽四重奏曲となったヘ長調op.135で始まる。

三澤 「ベートーヴェンを演奏しているときは、私個人の感想ですけど、自分がいろいろ日常的に思ってること、曲に関係ないことを作品と混じり合わせられるというか、くっつけられる。私の気持ちとかを、ベートーヴェンのほうから引きとってくれる、浄化してくれるというか、気持ちが乗せやすいというか、すごく共感している気持ちに勝手になる。偉大なんだけど、たまにちょっとかわいいところや、ふざけてるところもあるようなのが人間らしいなと思って。すごい遠い存在なんですけど、でも近くにも感じている作曲家です」

山本 「ベートーヴェンをすごく大事に思っていますけれど、万人受けするような作風ではない部分がかなりあるので、そこに気づいてもらえるようなアプローチができたら。あと、ベートーヴェンというと劇的なイメージが強いけれど、でもどこかすごくシャイな感じがすることがいろいろとあって、そこが僕はいちばん共感できるところだなと思っています」

 ベートーヴェンの後はブラームス。アレクサンドル・メルニコフのピアノ独奏で後期の「幻想曲集」op.116をはさみ、30歳前後で作曲されたピアノ五重奏曲op.34を共演する。

菊野 「ちょうど今日、メルニコフさんとカザルス・クァルテットのブラームスの五重奏のレコーディングを聴いたんですけど、最初に感じたのは、彼がすごくインテリジェントというか、ストラクチャーを大事にする人だなということ。5つのパートをすごく対等に扱っていて、“ピアノと弦楽四重奏”というよりほんとうに“五重奏”だという感じがして、こういうコミュニケーションがとれたらとても楽しいだろうな、といま期待でいっぱいです」

イェウン 「ピリオド楽器への関心をもち、どのような音楽環境で作曲されたかということをふまえて、作品自体の性質を保つことに最善を尽くしているピアニストのようですから、ブラームスを共演するのがとても楽しみです」

アレクサンドル・メルニコフ ©MolinaVisuals

「変わりゆく僕たちを楽しんでもらいたい」

 この4人で、これからどんなことを達成したいか、どんなことができるかという未来への期待についてきいた。

山本 「コルバーンで学校という環境に身を置いたことで、“勉強する”という意識を改めて感じています。だから“演奏家”というよりは“学習者”という意識でずっとやっていきたい」

三澤 「やっぱり日本でもっとクァルテットを盛り上げたいし、さらに若い人たちにも室内楽に興味をもってもらえるような意味も込めて活動していきたいです」

イェウン 「3人とはこれまでまったく違う背景をもっていて、私だけ国籍も年齢も違いますが、音楽を通じて繋がることができると感じている。“インテグラ”というのは統合という意味ですし、すでに強みともなっていますが、まったく新しい誰かがやってきて、それを超えた新しくフレッシュななにかを成し遂げることを、私たち4人で目指せるかもしれない」

菊野 「僕らにとっては10年が節目というのはありますけれど、1年1年、と言うより1日1日、僕らの味みたいなものも変わってきていると感じる。なるべく長く続けてこそ、味の変化を、僕らも、聴きにきてくださるかたも楽しめる。そのようにできたらいいと思いますね」

取材・文:青澤隆明

©Abby Mahler

北九州市立響ホール
響シリーズ
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)×クァルテット・インテグラ(弦楽四重奏)
 4/16(水)発売
2025.7/5(土)15:00 北九州市立響ホール

出演
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)
クァルテット・インテグラ/三澤響果、菊野凜太郎(以上ヴァイオリン)、山本一輝(ヴィオラ)、パク・イェウン(チェロ)
プログラム
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番 op.135
ブラームス:7つの幻想曲集 op.116(ピアノ・ソロ)、ピアノ五重奏曲 op.34

響ホールへようこそ! クァルテット・インテグラ(弦楽四重奏) 4/16(水)発売
7/2(水)12:00 北九州市立響ホール

出演
クァルテット・インテグラ/三澤響果、菊野凜太郎(以上ヴァイオリン)、山本一輝(ヴィオラ)、パク・イェウン(チェロ)
プログラム
ベルク:抒情組曲より 第1楽章
シューベルト:弦楽四重奏曲第13番 イ短調 D804「ロザムンデ」
ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番 ホ短調「クロイツェル・ソナタ」

問:響ホール音楽事業課093-663-6661
https://www.hibiki-hall.jp