オペラ×人形浄瑠璃!?箕面市立メイプルホールが世に問う、超個性的なプロダクション

ファリャ作曲のオペラ《ペドロ親方の人形芝居》が大阪・箕面で上演

2025年2月、ピッコロシアター(兵庫県尼崎市)の公演より

 大阪・箕面の箕面市立メイプルホールで珍しいオペラが上演される。スペインの作曲家マヌエル・デ・ファリャが人形劇のために書いた《ペドロ親方の人形芝居》(1923年初演)。これは『ドン・キホーテ』続編第26章の一部を原作とした物語で、騎士道物語の読み過ぎで現実と物語の区別がつかなくなった男が、自ら騎士ドン・キホーテを名乗って遍歴に出かけるというお話である。劇とそのなかで行われる劇中劇という入れ子構造から成る本作だが、今回の箕面での上演では劇中劇が人形浄瑠璃として上演される。今回の公演の企画総括を務める大阪大学大学院教授で音楽学者の伊東信宏と、演出を務めるマイム俳優のいいむろなおきに話を聞いた。

INTERVIEW 伊東信宏(企画)&いいむろなおき(演出)

伊東「このオペラは、調性ははっきりしているのですが、常にどこか調子はずれですっとんきょうです。しかし、とても美しい音楽も出てくる。僕にとってこの世で最も好きな旋律も出てきます。両方の要素があるのが素敵ですね」

 もともと小編成のオーケストラのために書かれた楽曲を、今回の公演ではピアノ、クラリネット、オーボエ、トランペット、アコーディオン、打楽器から成るアンサンブルによって演奏する。弦楽器はひとりもいない。

伊東「大編成オーケストラが過去のものになりつつあり、『月に憑かれたピエロ』や『兵士の物語』などが登場して小さな編成がトレンドになっていた時代の作品です。編曲の丸山和範さん、コレペティートルの三ツ石潤司さんと3人で相談して、大道芸的な色合いが残るよう考えてこの編成に決めました」

 演奏を担うのは基本的にプロの音楽家たちだが、今回の出演者はプロのアーティストだけではない。大阪大学による社会人向けアート人材育成プログラム「中之島に鼬を放つ」の集大成として2月に兵庫県尼崎市のピッコロシアターで行われた公演、それに続く本公演では、いいむろなおきマイムカンパニーのメンバーに加えて、このプログラムの受講生たちも参加している。演劇経験のある人からまったくの初心者まで、老若男女が集まった。
 しかし、お話からして一筋縄でいかない作品。演出も簡単ではないはずだ。なぜ今、《ペドロ親方の人形芝居》なのだろうか。

「窮屈で息苦しい時代」だからこそ

伊東「ドン・キホーテは顰蹙(ひんしゅく)を買う存在です。最後には人形をぶち壊して勇ましく去っていきます。こういった『顰蹙を買う』ことは、近年難しくなっているでしょう。かつては顰蹙を買ったとしてもそれが一面の真実であるとしてやり過ごしてもらえたのが、今は泣いて謝るまで許してもらえないような、窮屈で息苦しい時代です。ここに、今この作品を採り上げる意味があるのではないでしょうか」

 本作はもともと人形劇として上演された。関西で上演するということを踏まえて、伊東はマイム俳優であり演出家のいいむろへ「今回の作品を人形浄瑠璃としてやりたい」とオファーしたそうだ。

いいむろ「僕はマイムというものの既成概念にとらわれない表現をしてきました。人形に関しては専門ではないのですが、自分の作品のなかで人形を使ったこともありますし、実は僕の父(飯室康一/糸あやつり人形の名人)が人形劇をやっているということもあって、人形に対してはもとから親しみがありました」

 劇の方は実際の人間が演じ、劇中劇は人形を用いて上演するという形になった。本来人形浄瑠璃において、それを動かす人間の身体はないものとして考えられる。ここでも最初はそうなのだけれども、この境界は話が進むなかで曖昧になっていき、人形の感情が拡張されるかのように、人形を動かす身体もまた見られる身体になっていく。こういった構造があるから、あえて人形浄瑠璃の専門家ではなく、越境的な表現活動をしているいいむろへ頼んだのだろう。

いいむろ「上演はスペイン語ですが、人形浄瑠璃は日本のもの。そして演奏もあって歌もある。ある意味でバラバラなものをどのようにひとつにするかということでとても悩みました。現実と非現実を往復すること、そして作品のメタ構造ゆえ、お客さまもパーツのひとつであるということが演出のポイントです。劇中劇を見ていたはずのドン・キホーテがどんどん舞台に近づいていってしまう危うさがあるからこそ、視野や空間が広がっていきます」

 今回の上演は舞台美術もたいへんに凝っている。ファリャの音楽は伊東が言うように「すっとんきょう」であるが、それは「軽薄」な音楽だと言い換えることもできるかもしれない。そういった要素は美術にも反映されているのだ。

いいむろ「舞台美術は田中秀彦さんです。お願いする際に『舞台上ではあまりかたいものは使いたくない、可能ならほぼすべて布でできないか』と伝えました。結果的に和と洋をぐちゃぐちゃに混ぜたようもの、そのあいだを取り持ってくれるようなものを作ってもらいました」

 筆者は2月のピッコロシアターで行われた上演を観たが、その後数日間は考えさせられるような、非常に印象深い上演だった。興味深く、そして独特で強烈な時間だった。

いいむろ「現実と非現実が曖昧になっているところがある舞台です。それを繋げるのが想像力だと僕は思っています」

伊東「ぜんぶイリュージョンなんです。ぜんぜん矛盾するものが舞台のうえに並んでいるけれども、なんとなく納得できる、そういう瞬間ができたらいいなと思っています」

取材・文:布施砂丘彦
写真提供:箕面市メイプル文化財団

「身近なホールのクラシック」
ファリャ:オペラ《ペドロ親方の人形芝居》
『ドン・キホーテ』に基づくオペラを浄瑠璃人形と共に上演する

(スペイン語上演/日本語字幕付き)
2025.4/26(土)14:00 箕面市立メイプルホール


企画:伊東信宏
演出:いいむろなおき

出演
ドン・キホーテ:西尾岳史(バリトン)
ペドロ親方:加藤ヒロユキ(テノール)
少年:加藤理子(ソプラノ)
丸山和範(編曲・ピアノ)、飯森理信(クラリネット/オーボエ)、早坂宏明(トランペット)、大田智美(アコーディオン)、畑中明香(打楽器)
大阪大学「中之島に鼬を放つ」受講生
いいむろなおきマイムカンパニー(いいむろなおき、田中啓介、谷啓吾、羽田兎桃、川島由衣、さゆ~る)

問:箕面市メイプル文化財団072-721-2123
https://minoh-bunka.com