バッハの「無伴奏チェロ組曲」はフルート、リコーダー、ヴィオラ・ダ・ガンバ、サクソフォンなどさまざまな楽器に編曲される。しかし一番「必然性」を感じさせるのは鍵盤楽器や撥弦楽器への編曲だろう。低音弦楽器がひとりで旋律も和声も表現することがこの曲の命題のひとつであり、ならば「書かれざる音」を実体化するにふさわしいのはこれらの楽器だ。バッハ自身、第5番をリュート用に編曲したが、名手・今村泰典は低い音域のテオルボを選んだ。厚みのある低音はチェロを思わせるし、必然性のある音を加えた編曲は演奏の説得力もあってもはやオリジナル作品の趣。ぜひ残りの3曲も。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年4月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲集 第1集(テオルボ編)/今村泰典』
J.S.バッハ(今村泰典編):無伴奏チェロ組曲第1番、同第5番、同第4番
今村泰典(テオルボ)
ナクソス・ジャパン
NYCX-10511 ¥2530(税込)