
チェコのドヴォルザークにはよく知られた名曲が多いが、中でも交響曲「新世界より」ほど愛される作品もないだろう。とりわけ、第2楽章は、日本でも「家路」というニックネームで知られるが、そこで聴こえるイングリッシュホルンの鄙びた音色は、田舎の牧歌的な情景をまざまざと連想させるもの。ゆっくりと陽が落ちるかのような音のリリシズムが、初めて聴く人の耳にも自然に染みわたり、心をほぐしてくれるのだ。
来る6月、名指揮者・沼尻竜典が東京都交響楽団との共演で届けるコンサート、東京文化会館主催の《響の森》Vol.56では、この「新世界より」にまずは注目。楽曲の鋭い解釈で光るマエストロ沼尻が、この名作の抒情性をどこまで引き出してくれるか、じっくりと聴き入りたい。
一方、この日の前半では、プッチーニのオペラ3作から人気の名曲集が披露される。歌い手は、輝かしい高音域を凛々と響かせるテノール・宮里直樹と、清流のようにスムーズな歌いぶりで、ドラマティックな音楽もやすやすと声で制覇するソプラノ・迫田美帆の二人。《蝶々夫人》の愛の二重唱、《トゥーランドット》の憐れな女奴隷のアリア〈ご主人様、お聞きください〉や、王子のヒロイックな〈誰も寝てはならぬ〉に加えて、青春のオペラ《ラ・ボエーム》のアリア2曲と二重唱〈愛らしい乙女よ〉など名場面が目白押しである。初夏の爽やかな風に吹かれながら気軽に足を運べる演奏会として、幅広い世代にお勧めしたい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2025年4月号より)
東京文化会館 《響の森》 Vol.56 オペラとシンフォニーへの誘い
2025.6/8(日)14:00 東京文化会館
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp