トッパンホールが開館25周年ラインナップを発表〜2025/26シーズンをもって解散のハーゲン・クァルテットが2度にわたり登場!

 トッパンホールが2025年10月に開館25周年を迎える。3月21日に行われた会見では笹野浩樹ホール支配人、西巻正史プログラミング・ディレクターらが登壇し、記念イヤーとなる2025/26シーズン主催公演の概要と、「TOPPANのブランディング戦略に伴い」4月よりホール名を「TOPPANホール」に表記変更することを発表した。

 凸版印刷株式会社(当時)の創業100周年事業として、社会文化貢献活動の一環で2000年10月1日にオープン。開館まもなくして着任した西巻は、今日までの歩みを次のように振り返りながら、周年シーズンのプログラムを紹介した。

西巻正史プログラミング・ディレクター

「都心のホールが飽和状態だったなかの後発組で、さらに駅からも遠いというハンデを背負って出発し、それをいかにプラスに変換して独自の路線を貫いていくかが私に課せられた使命でした。他館とは一線を画す企画を考え、からだ中から音楽を発信、伝えたいと思っているアーティストを並べてラインナップを創る。『人と違うことをするのがプロデューサーである』という信念のもと、地味に地道に、室内楽のホールを広めたいと、じっくり腰を据えて音楽と向き合うアーティストと一緒に歩んできました。
 来シーズンは、25周年を節目として奇を衒うのではなく、しかし絶対にありきたりな演奏会ではないというコンセプトのもと、チャレンジ、問題提起、発展をテーマに考えました。東京、日本にトッパンホールあり、ということを声高ではなく静かに唱えながら、活動の姿を世界に示していきたい」

ハーゲンQ、ペヌティエの最後の日本公演

 新シーズンはこれまでと同様、室内楽の殿堂たる充実のラインナップが並んだ。そのうち核となる公演は三つだ。

 まず幕開けを飾る、フォーレ四重奏団とアンサンブルの名手たちが集う室内楽フェスティバルだ(25年10月)。トッパンホールを象徴するフォーレもまた、結成30周年と節目を迎える。今回はメンバーそれぞれの妙技も堪能してほしいと、さまざまな編成で5日間のプログラムが組まれた。最後の第5夜はフォーレからの提案で「音楽と愛」をテーマにプログラミングされた、「ホールとお客さまへのプレゼント」公演だという。会見ではその日の朝に届いたという、フォーレ四重奏団と共演者の一人であるニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ)のメッセージも披露された。

 続いて、2025/26シーズンをもって解散するハーゲン・クァルテットも大きな話題となりそうだ。トッパンホールとは2013年以来数多くのコンサートを手掛け、フォーレと同様にホールの“顔”というべきアーティストだ。

 「ハーゲン プロジェクト フィナーレ」と題して行われる全5回の公演は、25年11月と26年7月初旬の2回にわけて開催される。秋の3夜にわたる公演では「引退が決まる前に組んだプログラムだが、後になって思うとそれを感じさせる彼らが得意とするレパートリー」が並ぶ。また第3夜では、イェルク・ヴィトマンのクラリネット五重奏曲(2017)を日本初演。この曲は、2015年に同ホールでハーゲンと共演した際の会話から、〈“TOPPAN” – Staccato〉という記号が楽譜冒頭より書かれていて、ヴィトマンが「“TOPPAN”という音楽記号を作ったんだ。可能な限り小さな音で弾く、僕の中ではスペシャルなこと」と語っていたという。

 さらに、ホールのアニバーサリーシーズンを締めくくる26年7月に行われる2公演は、彼らにとっても引退シーズンの掉尾を飾るもので、「世界ナンバーワンのクァルテットなので何が起こるか分かりませんが、TOPPANホール公演をもって活動を終えたい」との意向があるという。プログラム前半の内容は調整中だが、1日目はシューベルトの第13番「ロザムンデ」、2日目はシューマンの第3番が演奏される。

2025/26シーズン出演アーティスト

 3つ目は「日本での最後の公演」となるだろう、フランスの至宝ジャン=クロード・ペヌティエ(ピアノ)の登場だ。24年4月に予定されていた同ホールでのリサイタルは怪我のためキャンセルとなったが、「彼が頑張ってもう1度と、すごい気力でリハビリに励み」、83歳での公演が25年12月に実現する。予定されているプログラムは、シューマンの「主題と変奏 変ホ長調 ―最後の楽想による幻覚の変奏曲」、ブラームスの6つの小品、ベートーヴェン最後のピアノ・ソナタ第32番、いずれも作曲家晩年の作品に、ショパンのノクターンが入る「彼の気持ちがそのまま伝わってくるプログラム」だ。

 そのほか、コロナ禍で中止となった2公演ーーキリル・ゲルシュタインと藤田真央の師弟のピアノ・デュオ(25年12月)、「日本でいうなら昭和の味を残した盟友三人」のトリオ・ヴァンダラー(26年6月)が登場。「長年出演交渉をしてきた」チェロのニコラ・アルトシュテット(26年5月)や、ゴーティエ・カプソンと初登場となるフランク・ブラレイ(ピアノ)によるベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲(26年3月)、昨年12月に鮮烈な印象を残したジョヴァンニ・アントニーニ指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(26年4月)などが並ぶ。

 また若手育成にも力を入れている同ホールだが、新シーズンでは北村陽(チェロ、26年3月)や、初登場となるレオンコロ弦楽四重奏団(26年5月)が登場。30分から1時間程度でほぼ無料で開催している「ランチタイムコンサート」は、「出演交渉をギリギリに行なっているため」アーティストは未定としたが、6回を予定している。

スタインウェイ2台に新たにに加わる1909年製ベーゼンドルファー

ベーゼンドルファー・ジャパンより貸与された1909年製のModel250

 会見後半では、ベーゼンドルファー・ジャパンより貸与された、1909年製のModel250もお披露目された。「TOPPANホールの主催公演でさまざまな企画に使っていただきたい」とベーゼンドルファー・ジャパンからの申し出によるもので、譜面台や脚などに独特の装飾が施されているのが特徴だ。来歴は戦争で消失しておりわかっていないが、「ウィーン国立歌劇場のステージ裏の空気をいっぱい吸って」2012年に日本にやってきた。
 
 これまでこの楽器を演奏会や試演で何度も弾いてきた、川口成彦とベーゼンドルファー・アーティーストの兼重稔宏が、ショパンやブラームスなどそれぞれソロで2曲、さらに笹沼樹(チェロ)と兼重でベートーヴェンのチェロ・ソナタ第3番(抜粋)を演奏し、それぞれコメントした。

川口成彦 
©藤本史昭 提供:トッパンホール
兼重稔宏 
©藤本史昭 提供:トッパンホール

「繊細な部分までチャレンジできる、表現に貪欲になれる楽器です。ショパンが意図的に書いたと思われる、ペダルを踏みながらスタッカートをする、という旋律は、現代のピアノだとぼやけてしまう場合もあるなか、この楽器はその表情がすごくでます。これは一例ですが、このような表現も追求でき、また古楽器奏者としては、古楽器でアプローチする表現の模索もできる楽器です」

兼重「インスピレーションをもらえるピアノです。弦楽器との相性はよいだろうと、最初の頃より感じていました。弦楽四重奏を弾いているような感覚もあり、フォルテピアノとも違ういろんな可能性が拡げられる楽器だと思っています」

笹沼「数日前にホールに置かれているのをみて、風格があるピアノだと思いました。また二人の演奏をきいて、倍音が鳴っていてボウイングがイメージできるかのような音も聴こえてきて、楽器のポテンシャルと相まってすごい空間だったのを覚えています。響きの作り方などは弦楽器とも似ています。
 トッパンホールではさまざまプロジェクトに参加させていただきましたが、半年以上前からリハーサルを重ねてじっくり準備ができる、響きを知りながら曲を勉強できるのが、このホールの特徴です」

笹沼樹(手前) ©藤本史昭 提供:トッパンホール

 Model250は新シーズンで、川口、兼重が出演する「TOPPANホール ニューイヤーコンサート 2026」、「ランチタイムコンサート」での使用を予定しており、この楽器を主役に据えた企画が練られていく。

 世界のトップアーティストから次代を担う注目の若手まで、彼らの濃密で研ぎ澄まされた音色が408席という贅沢な空間に拡がる。周年シーズンの先も独自の路線を貫くTOPPANホールのさらなる歩みに期待したい。

TOPPANホール
https://www.toppanhall.com