オーケストラの楽屋から 〜日本フィル編〜 vol.2

 トップオーケストラの音楽家たちはいったいどんな話をしているのだろう? 「ぶらあぼONLINE」特別企画としてスタートした「オーケストラの楽屋から」、今回は日本フィルハーモニー交響楽団の登場です。
 今回お集まりいただいたのは、オーボエ首席の杉原由希子さん、クラリネット副首席の楠木慶さん、ファゴット副首席の田吉佑久子さん、そしてホルン首席の信末碩才さんの4名。
 第2弾のトークテーマは、日本フィルの“いま”について。若手奏者が続々と入団し、変革の時期を迎えるなか、“今の日本フィル”について、ざっくばらんにお話ししていただきました!

オーケストラの楽屋から
普段なかなか見ることのできないアーティストの素顔や生の声、意外な一面などを紹介していきます。音楽家としてだけでなく、“人”としての魅力をクローズアップし、クラシック音楽をより身近に、そして深く楽しんでもらいたい、そんな思いを込めたコーナーです。
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左より:楠木慶さん、杉原由希子さん、田吉佑久子さん、信末碩才さん

Vol.2 若手がアツい!日本フィルの“いま”

――入団して皆さんは何年目ですか?

楠木 僕は2014年の1月入団です。

田吉 もうそんなに経ったんだ!最年少で入ってきたよね、たしか。

楠木 はい、22歳でした。

田吉 それでほどなくして、クラリネットに照沼くん(照沼夢輝さん)が入ってきて…

楠木 そう、速攻で最年少記録を塗り替えられて(笑)

杉原 え、てるちゃんは何歳で入団したんだっけ?

楠木 20歳とかで入ってきた。それまで「22歳?若いね!」だったのが一瞬にして…(笑)

信末 お二人、そんなに近い時期だったんですね。

楠木 うん、1年違いだった。信末くんは今何歳?

信末 僕は26です。

杉原 罪な26歳なんです…!演奏もうまくて、頭も良くて。

楠木 本当ですよね。26歳なのにすごいベテラン感漂ってて。

信末 ベテラン感については本当にすみません(笑) 出そうと思っているわけじゃないんですけど、にじみ出てしまうと言いますか…

田吉 そりゃそうよね(笑)

信末 でも僕が思ってる26歳ってこんな感じのイメージで生きてるんですよ。ちょっと大人というか、おじさんになりすぎたかなというのはありますけど(笑)
で、僕はもうすぐ5年目です。

杉原 早いね~。

信末 コロナ禍でなかなか舞台に立てなかった期間も挟んでるので、ちょっとタイムマシンに乗った感じはあるんですけど。

杉原 田吉さんは2009年入団ですか?

田吉 試用期間が始まったのは2009年の11月だけど、入団が決まったのは2010年かな。杉ちゃんはその直後に入って…って感じなんだっけ。

杉原 はい、10年入団です!

田吉 今は14年目かな。あっという間だよね。

信末 もう気付いたらベテランって呼ばれる感じになるんでしょうね。

杉原 そう、私も最近“中堅”って言われるから「え!?」ってなる。まだ気持ちは新人の方なのに…

田吉 わかる、それ(笑)

信末 僕は自分のことは中堅だと思ってますよ!

杉原 すごい馴染むの早かったよね。

楠木 確かに、新人感は2ヵ月くらいしかなかったね。

一同 (笑)

杉原 弦楽器は今20代がけっこう多いよね。

楠木 管楽器の最年少は誰でしたっけ?

信末 トロンボーンの笠間(笠間勇登さん)です。今24歳だったかな?

杉原 なんか新しい風が吹いてますね、いろんな意味で。ちょうど私たちが入った時もそんな感じでしたよね。

田吉 そう。一気に若手が入ってきていたね。

――若い楽団員さんが増えて、変わったなと感じたことはありますか?

楠木 ちょっと寂しさもありますよね。ベテランの方々の楽しい楽屋トークが聞けなくなった。

杉原 “名物おじさん”がいなくなってきちゃって…

楠木 すごい個性的だったじゃないですか、最近退団された方々って。

杉原 うん、すごかった。本当に唯一無二の存在だった。

信末 楽屋が静かだったことないですもん。男性楽屋では絶対に誰かが喋ってる。だいたい橋本さん(橋本洋さん・2021年退団)とかが必ず話してた。今はわりと静かです。

楠木 でも橋本さんみたいな鋭いツッコミがいないから、中里さん(中里州宏さん)のボケがなんかこう…

信末 宙ぶらりんですよね(笑)

――大曲を演奏するときにはやっぱり体力が必要だと思いますが、若い人たちが入ってきてオケの馬力は増しましたか?

信末 それでいうと、僕は逆だと思います。
昔の方が、特に金管なんかは「いけいけGOGO!」っていうスタイルの人が多かったのに対して、最近はいかに効率良く、響きを大切にして吹くかとか、そういう視点を持って大学で学んできた人たちが多い印象を個人的には感じています。もちろん、どちらが良い悪いという話ではないです。トレンドの話なので。

杉原 そう、確かにね。だからサウンドもちょっとずつ変わってきたよね。

――他のオケもそういうトレンドですか?それとも日本フィルだけ?

田吉 個人的には、世界的に見て、オーケストラ全体が変化していく入口に入ってきたような感じじゃないかなぁって。

信末 指揮者の性質も変わってきてるじゃないですか。それもだいぶありますよね。

田吉 現代のオーケストラで演奏される楽器も、“こういう音色が好まれた時代があって、それで楽器が改良されて…”という流れがありますよね。
例えばマーラーのような大編成のオーケストラだと、ファゴットも音量が足りないわけですよね。必死に吹いても他の楽器に負けてしまうところで、よりパワフルで太く、客席まで通り抜ける音が出せるよう楽器も少しずつ改良されていっている。
楽器だけじゃなくて、それを奏でる人間もまた変わってきてると思います。色んなことが新しい方向に転換し始めている。ここ10年ですごく変わったと思うし、まだこれからも変わるだろうなって。それは良いとか悪いじゃなくて。

信末 間違いないですね。

田吉 だからそういう風に見たら、日本フィルも新陳代謝があって、色んなものが変わってきている。
これからどういう風になっていくのかな、ということも考えます。14年前の入ったときとは、みんながどういう音色を想像してるのかも全然違うので。変化を楽しみながら、自分を貫いて、という感じですかね。

信末 本当ですね、社会も変わってますから。これが絶対的に正しい! みたいな価値観って、いまはもうあまりないじゃないですか。それがオケにも作用してると思います。

――皆さん自身が考える「日本フィル」の特色は? お客様からはよく「日本フィルはアツい!」と言われますが…

杉原 個人の意識としても、“熱い気持ち”でやっていますよね。

信末 ソロが上手く吹けなかったらステージを降りるまで我慢できずに涙を流す、ぐらいの勢いなんですよ(笑)

杉原 私の印象としては、日本フィルは「泥臭く頑張る」。みんなが人間味をもって、パッションをもって演奏に臨んでいる、と入団した時に感じ、それに感化されました。誰かが「こうしたい!」っていうのを発した時にも、みんながついてきてくれる感じですね。

信末 孤独感を感じることはないですね。

――信末さんは来年6月の定期でソリストとしても出演されますね。

信末 そうです。R.シュトラウスの2番を吹かせていただきます。

――楽団員がソリストを務める時のオケは、いつも以上に温かく感じます。

杉原 私もそう思います。後ろから「頑張れ~!」と言われているような感じというか。だからなおのこと、頑張れました!

信末 僕もカーチュン(首席指揮者カーチュン・ウォン)と、杉原さんがソロのR.シュトラウスをやった時、同じことを感じました。自分も気合が入るというか。

田吉 楽団員がソリストの時は、オケのみんなも温かい気持ちで吹いていると思いますよ。

(vol.3へつづく)


信末さんがソリストを務める演奏会

第761回 東京定期演奏会
2024.6/7(金)19:00、6/8(土)14:00 サントリーホール

〈出演〉
指揮:秋山和慶
ホルン:信末碩才(日本フィル首席奏者)

〈曲目〉
ベルク:管弦楽のための3つの小品 op.6
R.シュトラウス:ホルン協奏曲第2番 変ホ長調 AV132
ドヴォルジャーク:交響曲第7番 ニ短調 op.70 B.141

問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp



杉原由希子  Yukiko Sugihara

神奈川県横浜市出身。愛知県立芸術大学音楽学部卒業。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。第99回高校生国際コンクールにて第3位入賞。第76回日本音楽コンクール入選。
2015年、2020年にはモーツァルト(‪小林研一郎指揮)、2021年にはR.シュトラウス(カーチュン・ウォン指揮)のオーボエ協奏曲を日本フィルハーモニー交響楽団と共演。2016年アフィニス文化財団の海外研修員として、ドイツのマンハイム音楽大学へ留学。エマニュエル・アビュール氏のもと、ソロ、室内楽、オーケストラを学ぶ。また室内楽では木管五重奏団『アミューズクインテット』メンバーとして日本各地に赴き演奏活動を行っている。
現在、日本フィルハーモニー交響楽団首席オーボエ奏者、ビュッフェ•クランポン•ジャパン登録講師。これまでにオーボエを和久井仁、古部賢一、浦丈彦、小畑善昭、青山聖樹、エマニュエル・アビュールの各氏に師事。

楠木慶 Kei Kusunoki

広島県出身。2013年東京藝術大学卒業。2014年日本フィルハーモニー交響楽団に入団、現在、副首席奏者を務める。
第33回日本管打楽器コンクール第2位。クラリネットを武安宏子、堀川千影、山本正治、三界秀実、ティモシー・カーターの各氏に、室内楽を三ツ石潤司氏に師事。ビュッフェ・クランポン・ジャパン専属講師。


田吉佑久子 Yukuko Tayoshi

京都市立芸術大学およびケルン音楽大学(ドイツ)卒業。宇治原明、光永武夫、岡崎耕治、Georg Kluetsch、Ole Kristian Dahl の各氏に師事。
2003年津山ダブルリードコンクール第4位を受賞。
WDRケルン放送管弦楽団、ケルン市立歌劇場、バスク国立オーケストラ(スペイン)などに客演。
ドイツ・エッセンフィルハーモニー契約団員を経て、2010年3月日本フィルハーモニー交響楽団入団、現在、副首席奏者を務める。


信末碩才 Sekitoshi Nobusue

栃木県出身。12歳よりホルンを始める。春日部共栄高等学校を経て、東京藝術大学を卒業。
第86回日本音楽コンクールホルン部門入選。第35回日本管打楽器コンクールホルン部門第3位。ホルンを飯笹浩二、日髙剛の各氏に師事。
現在、日本フィルハーモニー交響楽団首席ホルン奏者。Horsh、ALEXANDER HORN ENSEMBLE JAPANの各メンバー。ドルチェ・ミュージック・アカデミー東京講師。
2024年6月の第761回東京定期演奏会でR.シュトラウス:ホルン協奏曲第2番のソリストを務める。

(C)吉田タカユキ

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