予選初日を前に…演奏順抽選会とオープニングガラコンサート

2023 高坂はる香のピアノコンクール追っかけ日記 from テルアビブ 2

text & photos:高坂はる香

 3月15日から始まるルービンシュタイン国際ピアノコンクール1次予選に先立ち、14日の朝10時から演奏順の抽選会がテルアビブ美術館のアジアホールで行われました。アリエ・ヴァルディ審査委員長も登壇。相変わらずすごくお元気そうで、トークもキレキレです。初めて見た15年以上前からずっとお変わりない感じ。

 このコンクールは、最初に引いたくじ引きの番号順に、自分の弾きたい日時を選ぶというスタイル。アルファベット順や、演奏順をそのままくじで引くという、運任せのスタイルとは少し違います。誰もルールがわからないまま、いつの間にか演奏順が決められていた、先のロン=ティボーとも違います(何度も引き合いに出してすみませんが、けっこうびっくりしたので…)。運に加えて自分の判断が必要で、どんどん枠が埋まっていくなか、自分にとっていい時間帯や日程を選びます。前後に誰が弾くかを気に掛ける人もいるかもしれません。迷って決められない人もいれば、パッと選ぶ人もいます。あとスクリーンに映る字が見えなさすぎて、その面でもみんな枠を選ぶのが大変そうでした…。

 しかも今回、名前と希望枠をマイクで宣言するスタイルだったので、ここで既に各コンテスタントのキャラクターが出ておもしろかったです。「この枠が良かったけど、〇〇さんが選んじゃったので、こっちにします」とか、いらんこと言う人もいたりして、おもしろいですね。こういうキャラクター、きっと演奏にも出るのでしょう。日本から出場のお二人、古海行子さんと黒木雪音さんも、中盤くらいで選ぶことができていて、安心したご様子でした。

左:古海行子 右:黒木雪音

 選ぶのが最後になると、みんなが避けたがる初日一番手になることが多いですが、今回は最後から2番目に選んだMikdad Aidanさんが一番手を選んであげていました。とはいえ、聞くところによると(資料にあたって確認していませんが)、第1回のこのコンクールで優勝したのは一番手で弾いたコンテスタントだったそうです。そのピアニストとは、エマニュエル・アックス。なので、もちろん結果がどうなるかはわかりません。

 演奏順決定後は、前回優勝者のJuan Perez Floristanさんがゲストとして登壇してトークがありました。Juanさん、ピアノ以外に最近はアマチュア俳優としても活動しているらしく「ピアノなしでステージに立つ経験は、おもしろいですよ。音楽や楽器の後ろに隠れることができないから」と話していたのが印象的でした。演技と演奏、どちらのほうがその人の素、そのままが出るアートなのか??というのはちょっと興味深いトピックスです。

 ところで今回のコンクールには新しい試みとして、「Jury feedback」が行われるというアナウンスもありました。次に進めなかったコンテスタントへの審査員によるアドバイスはどのコンクールでもありますが、これを公開で行うそうです。それは、「君はここがダメだった!」と指摘する会ではなく、こうするとより良くなるのではないかとマスタークラス的にアドバイスをする会とのこと。目的はあくまで「一般聴衆に、審査員が演奏のどんな部分を聞き、何を大切にしているかを知ってもらうため」「このコンクールは聴衆のためにやっている部分もあるから」なのだそうです。ただ、ヴァルディ先生から「参加は任意。心地よいと思わなければ参加する必要はまったくありません」と付け加えられました。

 そして抽選会の最後は、ヴァルディ先生による「前回はパンデミックの影響でファイナルしかここで開催できなかった。今回は演奏で自由の喜びを表現してください。私たちはそれを全ての音から聴くことになるでしょう。幸運を祈ります!」という言葉で締めくくられました。

 そして夜はオープニングガラコンサート。ラフマニノフ生誕150年/没後80年を記念した「ラフマニノフ・マラソン」として、ピアノ協奏曲5曲が演奏されました。共演はPaweł Przytocki指揮、エルサレム交響楽団。

 前回の入賞者からは、第3位の Cunmo Yin さんが「パガニーニの主題による狂詩曲」、第1位の Juan Perez Floristan さんがピアノ協奏曲第2番を演奏、また1995年の優勝者 Alexander Korsantia さんはピアノ協奏曲第3番を演奏しました。そして日本からのお二人もこのガラコンサートの舞台を飾りました。

小川典子

 審査員の小川典子さんは、ピアノ協奏曲第1番を演奏。赤いドレスに身を包んだ小川さんが奏でる音にはエネルギーとパワーが満ちています。どんどん深く音楽に入っていく集中力が伝わるステージでした。前回第2位の桑原志織さんは、ピアノ協奏曲第4番です。やわらかいけれど力のある無理のない音が通り、たっぷり歌って、生演奏を聴く機会の少ない4番の魅力を存分に伝えてくれました。

 会場には、若い入賞者たちのカムバックを歓迎するムードとともに、ラフマニノフの濃密なピアノの音に満たされた熱い空気があふれていました。

桑原志織

第17回アルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール
The 17th Arthur Rubinstein International Piano Master Competition

2023.3/14(火)

ガラコンサート(The Cameri Theatre of Tel Aviv, Cameri 1)
3/15(水)〜3/20(月)
1次予選(Tel Aviv Museum of Art, Recanati Auditorium)
3/21(火)〜3/23(木)
2次予選(Tel Aviv Museum of Art, Recanati Auditorium)
3/24(金)〜3/30(木)
ファイナル(Tel Aviv Museum of Art, Recanati Auditorium / Charles Bronfman Auditorium, Lowy Concert Hall)
3/31(金)
表彰式&入賞者披露演奏会(Charles Bronfman Auditorium, Lowy Concert Hall)
(日付は現地時間)
https://arims.org.il

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/