トップオーケストラの音楽家たちはいったいどんな話をしているのだろう? 「ぶらあぼONLINE」特別企画としてスタートした「オーケストラの楽屋から」、今回は東京交響楽団の登場です。ゲストとしてお集まりいただいたのは、コンサートマスターの水谷晃さん、小林壱成さん、ヴィオラの青木篤子さん、クラリネットの近藤千花子さん、ホルンの大野雄太さんの豪華5名。今回はその第2話をお届けします。初回に続いてノット監督の話題。彼の要求に東響メンバーはどのように応えているのか?リアルな姿が垣間見えます。
オーケストラの楽屋から
普段なかなか見ることのできないアーティストの素顔や生の声、意外な一面などを紹介していきます。音楽家としてだけでなく、“人”としての魅力をクローズアップし、クラシック音楽をより身近に、そして深く楽しんでもらいたい、そんな思いを込めたコーナーです。
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vol.2 失敗してもいいからやってみろ!
水谷 (小林に)この前のブラームスの3番が素晴らしくて。ニコ響でしか聞けなかったけど、あんなブラームスの3番、僕初めて。
小林 大変だった。
大野 初めてだし、もう最後にして欲しいくらい。
一同 (笑)
大野 あんなテンポで来るかって。だって、リハであんなテンポで1度もしてないのに。
水谷 そうなの!?
大野 本番だけあんなテンポで。
水谷 マジで!?
大野 だってずっと普通のテンポだったのに、本番だけいきなり、「え、なんでこんなに?」って(笑)、引き伸ばし、引き伸ばし。
小林 最初の2小節だけで、みんな「おかしい!」って(笑)
一同 (笑)
水谷 でも、それだからこそドライブする時、すっごいドラマが生まれてたし。ブラームスの3番ってほんとに弦楽5重奏とか、6重奏とかの延長線上で書いたような感じで。あんな風に交響曲が聴こえるの初めてだったし。ほんとブラームスって、淡い色のなよなよした部分があるのがね。
小林 あのテンポになったことで、作品がちゃんと1つになったっていうか。よく1、2、3、4(楽章)ってぶつぶつに切れがちなところもあるじゃないですか。それが、一貫性を持ったっていうか。1から4まですべて作品、同じ箱に入ってるんだよっていうのが。
水谷 それは、監督いつも考えてるよね。このマーラーだって2楽章の「〜♪」のところが5楽章の「〜♪」で裏と表みたいに。ひとつの、死と生でくっつくんだって、そんなシンメトリーな。
近藤 あとは1番のシンフォニーで、「〜♪」のところも。
水谷 だから、人間ってやっぱりその瞬間だけで生きてるんじゃなくて、常にいろんなものを感じながら多感に生きてて。それがやっぱりマーラーの作品をああいう風にしているわけであって、それを全部紐解いてね。ステージで、演奏者と僕らとお客さんで。
大野 1番基本になるもの。アプリケーションがいっぱいありまして、とかじゃなくて。あの第九もそうだったね。あの「シーラー」って(三楽章冒頭)そのただ二つの音なんだけど。全楽章にやっぱり出てきていて。僕らはもう10年以上第九やってるけど、それに初めて気付いて(笑)
水谷 そうね、今日も昨日も言ってたけど、その音の形とか、3度上がるとか、下がるとか、6度とか、確かに言われてみれば、その通りだって。
大野 そう。だから、それが出てくるだけ僕らリハーサルしてても驚きがあるし。
水谷 あるある、新鮮。
小林 説得力がありますよね。他のところからちゃんと持ってくるから。
水谷 ほんとそう。
小林 説得力がない要求とか、あんまり身に入ってこないから、そういう点ではすごく、この音について行こうって思えますよね。
近藤 楽屋はいつも1人でいるの?
小林 そうなんです。
水谷 そう、だから楽屋で語り合うことはあまりないよね。
小林 そうそうそう。
水谷 たまに行った時に思うけど男性楽屋面白いじゃん。
大野 あー、そうかもね。太(首席ティンパニ奏者の清水太さん)と文句ばっかり言ってる気がするけどな。
一同 (笑)
水谷 その文句ってでもあれでしょ、オケに対する文句でしょ?
大野 そうだね。
水谷 やっぱ自分のオケに文句がなくちゃさ。よくならないし、さ。
大野 そうだね。「何故やらない?」みたいな。やっぱりノットさんなんかもそうだけど、躊躇するとすごくイライラしてるのがわかるし。失敗してもいいからやってみろっていう。
水谷 やっぱりね、まずはリハーサルってむしろ失敗して、あ、じゃあこれをやるにはこれをしなくちゃいけないんだなっていう発見の時間でもあるからね。それをどんどんみんなでやって欲しい。壱成くんなんてほんと素晴らしいもん。
小林 いやいや。
水谷 ほんとに素晴らしい。めっちゃくちゃスコア分かってるし、めっちゃ音聴いてるし。で、なおかつ自分は攻めるっていうね、こんな素晴らしい奏者。
小林 でもさっき楽屋で(スコア)見てて、「あ、勉強してる」って眞紀さん(ヴィオラ首席の西村眞紀さん)に言われて、それじゃ遅いんだよな、と思いながら(笑)
水谷・青木 いやいやいやいやいや。
水谷 毎回発見だから、毎回勉強だし。
青木 あのね、本番の3分前まで見る!遅いけど(笑)
小林 (笑)
近藤 まあでも、気づかされて確認したいことがどんどん増えてくるから。
一同 そうそう。
水谷 ここのことを言われたんだけど、スコア見てると、ここから派生したここだったりするじゃん。そんな風な受け渡し方だったんだって。
(vol.3へつづく)
水谷晃 Akira Mizutani
大分市生まれ。桐朋学園大学を首席で卒業。ヴァイオリンを小林健次氏、室内楽を原田幸一郎・毛利伯郎の各氏と東京クヮルテットに師事。
在学中Verus String Quartetを結成し松尾学術振興財団より助成を受け、イェール大学夏期アカデミー・ノーフォーク室内楽フェスティバルに参加。その後、第57回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第三位入賞。
2010年4月より国内最年少のコンサートマスターとして群馬交響楽団コンサートマスターに就任。2012年、同団での活躍が評価され、第9回上毛芸術文化賞を受賞。2013年4月より東京交響楽団コンサートマスター。2018年6月よりオーケストラアンサンブル金沢客員コンサートマスターを兼任。
桐朋学園大学非常勤講師。
小林壱成 Issey Kobayashi
1994年⽣まれ。東京藝術⼤学卒業。同⼤学院を経てドイツ・ベルリン芸術⼤学 ⼤学院修⼠課程修了。Gyarfas Competition (ベルリン)最⾼位受賞、在学中、 Symphonieorchster der UDK Berlin のコンサートマスターとしてヨーロッパ各国で演奏。幼少より篠崎史紀監督の⻘少年オーケストラ TJOSで活動し藝⼤にて師事。ドイツにてProf. M. Contzen、バイエルン放送響第1コンサートマスターA. Barakhovskyに学ぶ。また室内楽をアルテミス・カルテットに学ぶ。⻘⼭⾳楽賞新⼈賞、⽇本⾳楽コンクール他受賞多数。国内外の⾳楽祭出演はじめ、ヴェンゲーロフ、レーピン等著名⾳楽家と共演を重ねる他、各楽団のゲスト・コンサートマスターとして活躍。2017 より銀座王⼦ホールレジデント「ステラ・トリオ」メンバーとしての活動を開始。2021年4月より東京交響楽団コンサートマスター。
青木篤子 Atsuko Aoki
桐朋学園大学、同大学研究科を経て、洗足学園音楽大学ソリストコースにて学ぶ。ヴァイオリンを藤井たみ子、東儀幸、原田幸一郎の各氏に、ヴィオラを岡田伸夫氏に師事。第15回宝塚ベガ音楽コンクール、第2回名古屋国際音楽コンクール、第2回東京音楽コンクールにて、それぞれ第1位を受賞。倉敷音楽祭、ヴィオラスペース、サイトウキネンフェスティバル、東京のオペラの森等に出演。これまでにソリストとして東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団と共演している他、2012年にはオペラシティ主催リサイタルシリーズ「B→C」に出演。またヴェーラ弦楽四重奏団メンバーとしてベートーヴェンの弦楽四重奏ツィクルスに取り組むなど、室内楽の分野でも幅広く活動している。
近藤千花子 Chikako Kondo
東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、2005年東京芸術大学音楽学部を首席卒業。安宅賞、アカンサス音楽賞受賞。第78回日本音楽コンクール第2位。第22回日本木管コンクール第1位、聴衆賞。これまでにクラリネットを磯部周平、山本正治、村井祐児の各氏に師事。2013年アフィニス文化財団海外研修員として英国王立音楽院修士課程修了。在学中、クラリネットをクリス・リチャーズ、エスクラリネットをチーユー・モーに師事。ロンドン交響楽団に客演。
ブリティッシュスクールinTokyo、ドルチェアカデミー、ミュージックスクールDa Capo、洗足音楽大学、昭和音楽大学非常勤講師。東京交響楽団クラリネット奏者。
大野雄太 Yuta Ohno
山形県出身。山形大学教育学部卒業後に上京。東京藝術大学大学院在学中に新日本フィルハーモニー交響楽団入団。2011年東京交響楽団へ首席奏者として移籍。国内主要コンクールにおいて1位受賞などソリストとしても活躍。
「ホルンで奏でる紅白歌合戦」で全国各地にて公演を重ね、東日本大震災での慰問演奏などチャリティー活動にも力を入れている。日本ホルン協会常任理事。洗足学園音楽大学、東海大学講師。2児の父。PROWiND023、ナチュラルホルン東京メンバー。
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