
70歳でベートーヴェンの協奏曲を、77歳でブラームスの協奏曲を披露したヴァイオリンの和波たかよし。80歳を迎える今年は「オール・モーツァルト・プログラム」で、再びその美しい音の世界を見せてくれる。
「ベートーヴェンなどの大作に較べてモーツァルトはやさしいと思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、モーツァルトこそ、ヴァイオリニストの個性が最も試される作品だと思います」
と和波。これまでの豊富な演奏経験を踏まえて、今こそ、モーツァルトを弾きたいと考えたそうだ。
「ヴァイオリン協奏曲は比較的若い時期の作品なので、晩年に近い傑作よりちょっと軽めに考えられているようですが、モーツァルトの音楽のなかにある無邪気さ、同時に、洗練されたユーモアやちょっとしたいたずら心、それらをたくさん発見できる魅力的な協奏曲なのです」
今回は5曲あるヴァイオリン協奏曲から第4番と第5番を、そして 「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」の全3曲を演奏する。
「この協奏交響曲というのが実はとても難しくてね。変ホ長調というのはヴァイオリニストにとっては弾きにくいのですが、そこにもモーツァルトらしいアイディアを感じます。そしてヴィオラの演奏は若手の笠井大暉さんにお願いしました。今井信子さんの推薦で、とても素晴らしい演奏家だと伺ったので、今回が初めての共演となりますが、今から一緒に演奏するのが楽しみです」
この公演のための80歳記念 室内オーケストラには、和波の友人、弟子たちが参加して、気心の通ったアンサンブルを届けてくれる。
「僕がこれまでの演奏家人生で感謝しているのは小澤征爾さん。サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)にずっと呼んでくれて、難しいオペラの演奏にも加わることが出来ました。そのつながりで、今はSKOアドバイザリー委員会に所属していますが、最近では沖澤のどかさん指揮の《フィガロの結婚》の上演にも参加しました。モーツァルトのオペラは想像以上に長く、レチタティーヴォもあって、点字の譜面がすごい厚みになるのですが、そうした苦労を乗り越えて音楽作りに参加すると、モーツァルトの真の音楽性が身体の中に入ってくるような気がします。その経験を今回のオール・モーツァルトの演奏会にも活かしたいです」
東京文化会館の小ホールという空間も、モーツァルトにふさわしい音響だ。年齢を感じさせない感性と情熱で音楽に向かう、和波の姿を目に焼き付けたい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2025年4月号より)
80歳記念コンサート 和波たかよし モーツァルト協奏曲の夕べ
2025.4/11(金)19:00 東京文化会館(小)
問:AMATI 03-3560-3010
https://www.amati-tokyo.com