
日本を代表するピアニストとして精力的な演奏活動を行うとともに、東京藝術大学教授、東京音楽大学特任教授を務め、多くの優秀な生徒を送り出してきた東誠三。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏をはじめ、多様なリサイタルシリーズを行ってきた彼が今年挑むのは、2日間にわたるモーリス・ラヴェルのピアノ曲連続演奏会だ。
「ラヴェルのピアノのためのオリジナル作品を網羅しました。若い頃から本当に大好きな作曲家のひとりで、いつか全曲をやりたいという夢を持っていたのですが、なかなか実現することができずにいました。しかし今年は彼の生誕150年ということもあり、せっかくの機会なのでぜひ取り組みたいと思いました」
パリ国立高等音楽院で学んだ東にとって、ラヴェルはもちろん重要なレパートリーである。しかし意外にもまだ演奏会で取り上げていない作品もあるという。
「いくつかの小品に加え、自分でも驚いたのですが『夜のガスパール』をステージで演奏したことがなかったのです。もちろん何度かリサイタルのプログラム候補に挙がったのですが、機を逸してきてしまいました。今回ようやく演奏できることがとてもうれしいですね」
全曲に取り組む、ということからも東のラヴェルに対する情熱が窺えるが、どのようなところに魅力を感じているのだろう。
「音の組み合わせ方が本当に緻密で美しいですよね。どんなに小さな作品でも隅々まで考え抜かれた仕上がりになっています。またクリスタルのような美しさだけでなく、“とても表情豊かに”といった指示を綿密に書き込むほどに情熱的な部分もあり、そのコントラストに惹かれますね。さらに、今回初めて演奏する『グロテスクなセレナード』のように、 “素っ頓狂”を2段階ほど洗練させたような楽曲を書くこともあります。そんな多面性にも心奪われてしまいます」
独奏作品だけでなく、ピアニストの青柳晋を招き、連弾や2台ピアノのための楽曲も演奏する。
「『ラ・ヴァルス』をはじめ、アンサンブル作品にもラヴェルの魅力は詰まっています。今回は東京藝術大学の同僚でもある青柳さんに“ぜひ”とお願いしました。演奏者としてはもちろん、指導者としても尊敬する面がたくさんありますが、数年前に学内の演奏会で共演させていただき、そのときの素晴らしさが忘れられなかったのも理由の一つです」
ラヴェルという作曲家の様々な魅力を味わうことのできる2日間となりそうだ。ぜひ両日足を運んでほしい。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2025年4月号より)
東 誠三 ピアノ・リサイタル
ラヴェル生誕150周年記念 ラヴェル・ピアノ曲連続演奏会
【Day1 Solo】2025.5/10(土)14:00
【Day2 Duo】5/18(日)15:00
東京文化会館(小)
問:ムジカキアラ03-6431-8186
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