彩の国さいたま芸術劇場が2025年度ラインナップを発表〜次なる30年を目指して

近藤良平 photo:宮川舞子 

 彩の国さいたま芸術劇場が2025年度のラインナップを発表した。3月25日に行われた会見には、近藤良平芸術監督、同劇場と埼玉会館を運営する埼玉県芸術文化振興財団の加藤容一理事長が登壇した。

 近藤は芸術監督2期目に入るが、1期目(22年4月〜25年3月)では、昨年、劇場の30周年とリニューアルオープンを経験した。
「コロナや改修工事、リニューアルオープンで、1期目という感覚が持ちづらいところがあります。KAAT神奈川芸術劇場やまつもと市民芸術館など、ほかの劇場でも芸術監督の形が少しづつ変わる時期でもあり、芸術監督と劇場の関わり方、見え方が昔の形と少しづつ変わってきているのかなと思いながら過ごしました。そういう意味では『模索』の時期でした。
 2期目は浮き足だっている場合ではなく腰を据えて、ここで発信できること、ここで広げられること、さらに『クロッシング』を実践する場であり、自分もきちんと機能するようにやっていきたい」

 シーズンのライナップについて「ここから次なる30年を目指してスタートする気持ちで、みなさんとワクワクしながらやっていこうと思っています。また新たなことがいっぱい始まります」とにこやかに話す。
 「森の中を歩くように、新しい表現との出会いを楽しんでほしい」。その言葉が示すように、ラインナップを掲載したシーズンのチラシは、森の中に近藤が入っていくかのようなビジュアルだ。
「いっけん不気味な森のようにみえますが、絵の真ん中の方は明るくしているんです。森は中に入ると暗いですが、あえて入って喜びの中に迷い込むという、新しいものにいっぱい出会えるかなとイメージして描きました」

photo:宮川舞子 

 2022年の芸術監督就任当初より、近藤は「クロッシング」をテーマにジャンルや地域、人々が交差する場を提供してきたが、次なるステージもその柱は変わらない。
 昨年始動した「カンパニー・グランデ」は「大きな船のようなシアター・グループ」。公募により募集選考した16歳から83歳までのさまざまなバックグラウンドを持つ120人のメンバーからなる。2年目からさらにものを考え、ワークを重ねて26年2月の新作上演を目指していく。また埼玉県内のさまざまな文化や人々を訪ねる「埼玉回遊」も「一見劇場と関係ないと思われるかもしれませんが、ものを創りだしていく瞬間に出会い、劇場とどういうつながりを持てるか」を考えているという。
 
 アコースティックな音響が高く評価された音楽ホールでの公演も充実のラインナップだ。
 新シーズンは、バッハ・コレギウム・ジャパンのJ.S.バッハ「マタイ受難曲」(4月)で幕開け。ソリストにはハナ・ブラシコヴァ(ソプラノ)や、マリアンネ・ベアーテ・キーラント(アルト)とBCJ公演に欠かせない歌手が並ぶ。
 2010年のショパン国際ピアノ・コンクール優勝で一躍注目を集めたユリアンナ・アヴデーエワが、没後50年となるショスタコーヴィチの傑作「24の前奏曲とフーガ」全曲を、この彩の国公演のみで披露するのも注目だ。10月には、カウンターテナーの貴公子、フィリップ・ジャルスキーがギター界の新星、ティボー・ガルシアとのデュオ公演も実現する。
 また気鋭のアーティストがリサイタルと室内楽に取り組む「エトワール・シリーズ・プラス」に、務川慧悟(ピアノ、6月・11月)と金川真弓(ヴァイオリン、9月・26年3月)の二人が登場。務川は6月に、黒川侑(ヴァイオリン)、アレッサンドロ・ベヴェラリ(クラリネット)という珍しい編成のトリオで、ラヴェルのヴァイオリン・ソナタ、昨年亡くなったアメリカの作曲家シェーンフィールドの三重奏などを披露する。金川は、9月にヴィオラの杉田恵理とチェロの辻本玲との三重奏、26年3月には2日間かけてJ.S.バッハの無伴奏のリサイタルを行う。
 作曲家・音楽家の坂東祐大とのプロジェクトでは、今年2月の新作 ワーク・イン・プログレスを経て、さらにブラッシュアップした新作《キメラ》が上演される(26年3月下旬)。

 そのほか、演劇では吉田鋼太郎シェイクスピア・シリーズ芸術監督が自ら演出を手がける『マクベス』(5月)を、舞踊では、6月にアクラム・カーン『ジャングル・ブック』を上演する。同作はキプリングの名作を気候変動をテーマに再解釈し、ダンスとアニメーションが一体となった迫力の舞台で、近藤は「入り込んでしまう作品。ダンスと言葉と、アニメの融合が絶妙で、一つの芸術としてぜひ観てほしい」と語る。そして、数々の名作を遺した巨匠ピナ・バウシュのヴッパタール舞踊団が8年ぶりに来日。最晩年の作品『Sweet Mambo』を、ピナと長年活動を共にした初演時のオリジナルメンバーが踊るなども見どころだ。

photo:宮川舞子 

 昨年の彩の国さいたま芸術劇場の開館30周に続き、2026年には埼玉会館100周年と節目が続く。周年記念として「寿ぎ狂言 万作・萬斎の世界」が上演されるほか、ソリストにヴァイオリンの中野りなをむかえて、角田鋼亮指揮NHK交響楽団の公演も予定されている。

 なお会見冒頭、加藤理事長より、両館の2025年度以降の指定管理者についての説明が行われた。県の方針により劇場ごとの公募となり、民間企業も含めた参入の機会を設けるという。会見時は、埼玉会館の運営については12月の県議会にて承認を得ているが、彩の国さいたま芸術劇場に関しては現在開会中の議会で決まる。埼玉県芸術文化振興財団は、最終的な審査の結果、一つの指定管理者の候補として審議が進んでいるとのことだった。
 「公共劇場のあり方、県民のみなさんが何を望んでいるのかを改めて考えるなかで、我々のいく道をもう一度確認する、逆にいい機会にしようと考えました。
 これまでの実績、お客様のご評価をふまえ、自信を持って進んでいこうと思っています。2つの劇場6つのホールを最大限に活用し、地域や日本全体の芸術文化をさらに発展させるために取り組んでいきたい」と意向を述べた。

彩の国さいたま芸術劇場
https://www.saf.or.jp/arthall/
埼玉県芸術文化振興財団
https://www.saf.or.jp

*2025年度ラインナップの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。