高坂はる香のワルシャワ現地レポート♪15♪
ヤクブ・クーシュリック インタビュー

(c) W. Grzędziński / The Fryderyk Chopin Institute

取材・文:高坂はる香

 小林愛実さんと第4位を分けた、ポーランドのヤクブ・クーシュリックさん。審査委員長のポポヴァ=ズィドロンさんのお弟子さんであり、1次予選から、ポーランド勢の中の有力候補の一人だよ、などと耳にしておりました。
 ガラコンサート最終日、楽屋から花束はじめ大荷物を抱えて出てきたクーシュリックさんをキャッチ。お話を伺ってみると、あの、ショパンそのものに静かに重なっていくような演奏の理由が少しだけわかりました。

Jakub Kuszlik (c) Haruka Kosaka

── クーシュリックさんの演奏を聴きながら、私はなぜか、ショパンその人のことを考えている自分に気づいて、ショパンそのものに近づいていく演奏というのはこういうものなのかなぁと思ったりしました。今回は他の方に明るいショパンが多かったので。

 そうですね(笑)。

── あなたの中では、ショパンらしい演奏というと、どういうものなのでしょう?

 僕が思うのは、とにかく心の底からのものというか……この質問に答えるのはいつもとても難しいのですが、正直さ、誠実さが、もっとも大切なふたつのことでしょうかね。

── マズルカについてはいかがですか? やはりポーランド人ならではの共感のようなものはあるのでしょうか。

 やっぱりマズルカは好きです。ショパン自身の声による作品だと思います。
 どこの国の方でもマズルカは理解できると思いますが、もちろんポーランド人はこの国の文化の中で育っていますし、伝統音楽や文学に触れる機会も自然と多いので、アドバンテージがあるかもしれません。でも、それに興味を持って知りたいと思えば、特に今の時代は、誰でもすぐに勉強することができますからね。

── では、あなたにとってショパンはどんな存在ですか?

 存在……そうですね、とても重要な作曲家です。
 ショパンの音楽は、子どもの頃の僕が初めて聴いたピアノ曲です。それから4、5年の間は、彼の音楽しか聴いていなかったといっていいくらい。子どもの頃は本当にショパンにクレイジーだったんですよ!
 それからやっと、他の作曲家のことも知って、聴き始めた感じです。僕の子ども時代の音楽的な成長にとって、ショパンは本当に重要な存在です。

── あなたのコアの部分はショパンでできていると。

 そう思います(笑)。

── そこからスタートして、ついにショパンコンクールの舞台に立ち、入賞されました。ステージに立った気分はどうでした?

 ストレスがすごかったです(笑)。

── 審査員席にはポポヴァ=ズィドロン先生がいるし(笑)。

 そうそう、それでより一層ストレスがすごかった。彼女が聴いているとね……あ、その話じゃなくてもっと他のことを言おうとしていたんですが(笑)。とにかく、自分がファイナルまで進むことができて本当にうれしかった。
 今回はみなさんのレベルがとても高くて、1次の結果のあとからファイナリストに残ることができるなんて思えなかったから。とても光栄だと感じています。こうして4位に選ばれたことに値する活動をし続け、証明したいと思っています。

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/