INTERVIEW 信末碩才(日本フィルハーモニー交響楽団 首席ホルン奏者)

一番好きなホルンの作品を、いつかオケと一緒に演奏したいと夢見てきました

取材・文:八木宏之

 2021年に24歳の若さで日本フィルハーモニー交響楽団の首席ホルン奏者に就任した信末碩才(のぶすえ・せきとし)。アンサンブルの要、サウンドの核となりながら、多くのソロを担う首席ホルン奏者は常に注目され続ける難しいポジションだが、信末はその高度なテクニックと多彩な音色、豊かな歌心ですっかりオーケストラの顔となり、音楽ファンの厚い信頼を勝ち得ている。カーチュン・ウォンの日本フィル首席客演指揮者就任披露演奏会(2021年12月)における、マーラーの交響曲第5番での目覚ましい活躍を記憶している人も多いのではないだろうか。信末にとってもこの演奏会は転機となった。

「日本フィルに入団してから自分なりに試行錯誤していたのですが、壁にぶつかり、気分が落ち込んでしまうこともありました。首席奏者としての責任と、自分の表現したいこととのバランスがうまく掴めなかったんです。そんななか迎えたマーラーの交響曲第5番でしたが、カーチュンさんの指揮で演奏して、こんなに楽しくやってよいのか! とそれまでの迷いが消えました。カーチュンさんのリハーサルはときに厳しいものですが、彼が来てからオーケストラがうねり、音楽が動くようになってきました」

©山口敦

 そんな信末が、6月の東京定期演奏会にソリストとして満を持して登場する。演奏するのは、リヒャルト・シュトラウスが最晩年に作曲したホルン協奏曲第2番。まるでオペラのレチタティーヴォのような饒舌な語り口が求められるこの協奏曲は、屈指の難曲として知られる。

「シュトラウスの協奏曲第2番は、ホルンという楽器の魅力を最大限引き出しながらも、作曲家の書きたかった音楽がまずそこにあって、その表現手段としてこの楽器が選ばれていると思わせる、とても味わい深い作品です。私がもっとも好きなホルン作品のひとつであり、いつの日かオーケストラと一緒に演奏したいと夢見てきました。とりわけ第2楽章は魅力的で、人生や愛について問いかけるようなその音楽は、今どきの言い方をするととても“エモい”。第1楽章と第3楽章のテクニカルなフレーズも、一つひとつ丁寧に噛み締めるように演奏したいと思っています」

 この演奏会の指揮台に立つのは巨匠、秋山和慶。オーケストラ演奏の奥義を極めた秋山のタクトのもと、信末と日々音楽をともにする仲間たちが親密なアンサンブルを聴かせてくれるだろう。

「秋山さんはしっかりとした様式感に基づいた、丁寧な音楽づくりをされるマエストロで、演奏に良い意味での重みを与えてくださります。ホルンも勉強された方なので、この作品に対してこだわりをお持ちかと思います。私と秋山さんの作品イメージがどのように交錯するのか楽しみですね。楽員がソリストを務めるとき、オーケストラはその演奏を全力でサポートして盛り上げようとしてくれます。そうしたあたたかい雰囲気のなかで最愛の作品を演奏できるのが今から待ち遠しいです」

 「日本フィルに信末あり」と言われるようになりたい。若きホルニストはすでに自らの目標に到達しつつあるが、今回のシュトラウスはさらにその先にある新たな伝説への出発点となるかもしれない。音楽家、信末碩才を隅々まで味わい尽くすまたとない機会をぜひ逃さないでほしい。

【出演者変更】
当公演に出演を予定していた秋山和慶(指揮)は、鎖骨骨折による入院加療のため降板することとなりました。
代わりまして、大植英次が出演いたします。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。(5/20主催者発表)


【Information】

第761回 東京定期演奏会
2024.6/7(金)19:00、6/8(土)14:00 サントリーホール

出演/
指揮:大植英次(秋山和慶より変更になりました)
ホルン:信末碩才[首席奏者]

曲目/
ベルク:管弦楽のための3つの小品 op.6(リーア編曲による室内アンサンブル版/日本初演)
R.シュトラウス:ホルン協奏曲第2番 変ホ長調 AV132
ドヴォルジャーク:交響曲第7番 ニ短調 op.70 B.141

問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp