先達らへの万感の思いを込めた日本×ロシアプロ
9月より日本フィル首席指揮者としてのスタートを切ったカーチュン・ウォン。12月には長らく来日を控えている桂冠指揮者ラザレフに代わり東京定期のタクトを取る。プログラムもカーチュン色全開となった。
前半は邦人作品。日本フィルともゆかりが深かった指揮者、作曲家の外山雄三が7月に亡くなった。交響詩「まつら」で外山を追悼する。佐賀県唐津市の市制50年を記念し、盆踊り、鯨唄、童歌、お囃子など同地に伝わる旋律を用いて作曲され、日本フィルの九州ツアーで初演された。外山イズムあふれる佳作だ。
続いて好評を得ているカーチュンの伊福部昭シリーズからは、オーケストラとマリンバのための「ラウダ・コンチェルタータ」。伊福部のルーツには少年時代を過ごした北海道でのアイヌ民族との出会いがあるが、この作品もそうした影響を感じさせ、頌歌風の息の長い旋律を朗々と歌うオーケストラに、マリンバが力強く絡んでいく。後半は無窮動風の急速なパッセージになり、マリンバが極寒の世界を生きぬくかのような生命のパルスを豪快に打ち鳴らす。打楽器の可能性を意欲的に開拓している池上英樹のソロに注目。
後半はラザレフに敬意を表してショスタコーヴィチの交響曲第5番。この作品はそれまでの急進的な作風がソ連共産党の批判を浴び、国是である社会主義リアリズムに沿った形で作曲されたと言われている。暗鬱に始まり輝かしい勝利のコラールへと達するドラマは、聴き手に強烈なカタルシスをもたらす。歴史の教訓に思いを馳せつつ、耳を傾けたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年12月号より)
第756回 東京定期演奏会
2023.12/8(金)19:00、12/9(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp