INTERVIEW 鈴木優人(バッハ・コレギウム・ジャパン首席指揮者)

聴きどころ満載! バッハのライプツィヒ時代のカンタータ3作でクリスマスと新年の到来を祝う

 「BCJ的オールスターが集まって、ジルベスターコンサートとニューイヤーコンサートをまとめてやるような賑やかな内容です(笑)」と語る鈴木優人が指揮するバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の演奏会が目前だ。

Masato Suzuki

 キリストの降誕を準備する待降節、それを祝うクリスマスと新年のカンタータが計3曲、演奏会冒頭には管弦楽組曲第2番も演奏される豪華な内容。休憩後のカンタータ第110番の第1曲は、バッハが自身の管弦楽組曲第4番序曲を転用しているので、この日のプログラムは、前・後半とも彼のフランス風序曲の音楽で始まる贅沢な工夫が施されている。

 3曲のカンタータはいずれも華やかな冒頭合唱を持っていて、音楽的にも演奏面でも魅力満載。
「欧州のクリスマスは家庭や教会で静かに祝うイメージが強いですが、この36番《嬉々として舞い上がれ、星々の高みにまで Schwingt freudig euch empor》は本当に美しい。特にソプラノが弱音器つきヴァイオリンのオブリガートで歌う第7曲のアリアは最高! 舞台上で皆失神してしまうと思うくらい(笑)」
 今回は“水晶の如く透明な声”と賞せられるハナ・ブラシコヴァの美声とコンサートミストレス若松夏美のヴァイオリンに大注目だろう。「夏美さんの、自然に心が動く霊感に満ちた即興も楽しみです」。

 カンタータ第110番《われらの口には笑いが満ち Unser Mund sei voll Lachens》については「冒頭合唱は、バッハのクリスマス曲の中でも、クリスマス・オラトリオ第1部をしのぐ力強さがあるかもしれません」と言う。「トランペットが入ったフランス風序曲にフルートも加えられていて華やかさが増しています。合唱の動きがジグザグというか跳躍するような動きで“笑い”を表現しますが、ここは彼のすべてのカンタータの中でも難度が高いと思います」。BCJの合唱の聴きどころと言うわけだ。
 続く第2曲では、2本のフルートと櫻田亮(テノール)、第4曲で三宮正満のオーボエ・ダモーレとダミアン・ギヨン(カウンターテナー)、さらに第6曲ではトランペット斎藤秀範とドミニク・ヴェルナー(バス)のオブリガート付きアリアが続き、まさにBCJオールスターの麗しき協演が堪能できる。

 そして鈴木優人が、ひときわ思い入れを持って指揮する目玉演目がカンタータ第190番《主に向かって、新しい歌を歌え Singet dem Herrn ein neues Lied》。バッハがライプツィヒのトーマス教会のカントルになって初めての新年のために書いた力作だが、冒頭合唱と第2曲は楽譜の伝承が不完全で、復元楽譜が必要となる。今回は鈴木自身による復元版で演奏する。
「この復元楽譜に着手したのは藝大2年生の頃で、その後偉大なバッハ研究者であった小林義武先生ご夫妻に全体を校訂して頂き、色々相談しながら出版したのです。その後先生は亡くなられ、残念ながら出版後にこの復元版を聴いていただくことができませんでした。だから新年用のめでたい曲ではあるけれど、僕にとっては悲しい思い出でもある忘れられない曲なんです。

 失われた楽譜を復元するにあたり、合唱とソロ声部パートが残っていたのが不幸中の幸いでした。現存する歌のラインから最適の低音を考えていったのです。自分が思う最良のものではなく、バッハが実際どのように書いたか再現せよということだから、とてもハードルが高かったのですが、苦労の末完成させました。それから23年目にして、今回初めて自分で指揮します! 今回この曲が演奏できて本当に嬉しい! 前回(2002年)は父が指揮しましたから(笑)」

 それにしても、最近は多方面で超多忙のマエストロ優人。でも、BCJの現場は格別の「本籍地」のようだ。「バッハの家は、どこまで遠くに行っても、すぐ帰って来られます」。その最高の世界は、ぜひライヴで。

取材・文:朝岡聡

Information
クリスマスと新年のカンタータ
第158回定期演奏会 教会カンタータ・シリーズ vol. 84

2023.11/25(土)15:00 東京オペラシティ コンサートホール
第263回神戸松蔭チャペルコンサート
教会カンタータ・シリーズ vol. 84

2023.11/26(日)15:00 神戸松蔭女子学院大学チャペル

J.S.バッハ:
管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV 1067
カンタータ第36番《嬉々として舞い上がれ、星々の高みにまで》BWV 36
カンタータ第110番《われらの口には笑いが満ち》BWV 110
カンタータ第190番《主に向かって、新しい歌を歌え》BWV 190(鈴木優人復元版)

指揮:鈴木優人
ソプラノ:ハナ・ブラシコヴァ
アルト:ダミアン・ギヨン
テノール:櫻田亮
バス:ドミニク・ヴェルナー
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

神戸公演は完売

問:バッハ・コレギウム・ジャパン チケットセンター 03-5301-0950
https://bachcollegiumjapan.org