7月29日開幕! 第4回 Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール展望

世界各国の若き俊英たちが真夏の東京で繰り広げる渾身のパフォーマンス

文:高坂はる香

 2017年、河合楽器製作所の創立90周年を記念してスタートした、Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール(略称 SKIPC)。パンデミックや様々な国際情勢の影響による中止と延期を経て、この夏、4年ぶりとなる第4回が開催されます。

 振り返れば、第1回の優勝者は、その後ロン=ティボー国際音楽コンクールに優勝して活動の場を世界に広げた三浦謙司。以後、第2回はベラルーシのアンドレイ・シチコ、第3回はロシアのイリヤ・シュムクレルと、個性的かつ将来有望な若手が優勝者として名を連ねています。

第4回 Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール日程
1次予選 カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
7/29(土) 1日目 11:00~20:20 
7/30(日) 2日目 11:00~20:20
7/31(月) 3日目 11:00~16:20(結果発表 17:20)
セミファイナル カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
8/1(火)   1日目 11:00~19:40
8/2(水)   2日目 11:00~18:00(結果発表 18:40)
ファイナル 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール 
8/5(土) 13:00~17:40(結果発表・表彰式 18:30~19:00)
入賞者演奏会
8/6(日)15:00 カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」

第3回(2019)の覇者イリヤ・シュムクレル
2022年のヴァン・クライバーン国際コンクールではファイナリストに

 Shigeru Kawai といえば、河合楽器製作所のグランドピアノ最高峰のシリーズ。ミハイル・プレトニョフが愛用していることが知られるほか、国際コンクールの舞台でも才能あふれるピアニストがパートナーに選び、その評価は今や揺るぎないものとなりました。

 改めて考えると、特定のピアノの製品名が冠についた珍しいコンクールといえますが、実際その特徴の一つは、完璧な状態に整えられた Shigeru Kawai のコンサートグランド SK-EX が全ラウンドで使用されるところ。特に1次予選とセミファイナルでは、ピアニストたちが1台のピアノから引き出す多彩な音色を、カワイ表参道パウゼという親密な空間で聴き比べることができます。

 そしてもう一つこのコンクールの特徴かつ聴きどころとして挙げられるのが、会場を渋谷区文化総合センター大和田さくらホールに移して行われるファイナルの課題曲です。

 ファイナリストとなった6名は、モスクワ音楽院のピアノ科を牽引する教授たちであり、ロシアン・ピアニズムを継承する名手としても知られる、アンドレイ・ピサレフとパーヴェル・ネルセシヤンの共演のもと、2台ピアノで協奏曲を演奏します。

 各コンテスタント、指定曲よりモーツァルトからラフマニノフまで幅広い協奏曲を選択(なかでも近年の流行なのか、プロコフィエフの多さが目立ちます)。誰がファイナルに進むかはもちろん予測不能ですが、多彩なコンチェルトを名手の共演のもと聴くことができるかもしれません。…もしくはその逆で、同じコンチェルトを聴き比べることになるのかも。

 一方、ソロの課題曲を見ると、1次予選(20分以内)は、シューベルト、ショパン、メンデルスゾーン、ブラームスの指定の小品から1曲を入れ、残りは自由。指定曲は、いずれも自然で豊かな歌心が求められる作品で、審査員が何を見たがっているのかがよくわかります。

 続くセミファイナル(30~40分)は、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのソナタから1曲と、自由選択。古典派のソナタの構成力は、ここでしっかりとチェックされる形です。2ステージ、各人の演奏時間は長くないながら、選曲センスも含め、バランスよく実力が確認できる課題となっています。

 審査委員長は、東京藝術大学名誉教授の植田克己。そのほか、海外からアレクサンダー・コブリン(アメリカ)、ローナン・オホラ(イギリス)、ウー・イン(中国)、そして日本から石井克典、三木香代、中井恒仁という、計7名が審査委員を務めます。

 今回の出場者は、もともと2022年夏に開催予定だった回にエントリーしていた面々。昨年3月には予備審査通過者が発表されていましたが、国際情勢を鑑みて開催延期となったことによりそのまま持ち越しとなって、ようやく会場に集います。

 最も多いのは日本からで35名。そのほか、韓国、ロシア、中国、アメリカ、アルメニア、台湾、ルーマニア、イタリアからの参加があります。日本勢には国内の主要コンクール上位入賞者も多く、また海外勢には、ショパンコンクールやチャイコフスキーコンクールなどに出場して注目を集めたピアニストも散見されます。ネット配信で聴いて興味を持っていたピアニストの生音を間近で聴ける、良い機会となるでしょう。サロン空間で鑑賞できるハイレベルな国際コンクールは、なかなかありません。

出場者とおもな入賞歴(2023.7/10現在)
1. 秋山 紗穂 Saho AKIYAMA(日本) 第17回東京音楽コンクール ピアノ部門 第1位
2. 浅野 美月 Mizuki ASANO(日本) 第31回日本クラシック音楽コンクール 大学女子の部 第5位
3. 東 祐輔 Yusuke AZUMA(日本) 第18回ルーマニア国際音楽コンクール 第3位
4. チェ ギリム Girim CHOI(韓国) アルトゥル・シュナーベル・ピアノコンクール 第1位
5. 土肥 慶 Kei DOI(日本) 第25回フッペル鳥栖ピアノコンクール 第1位
6. ティモフェイ ドーリャ Timofey DOLYA(ロシア) 第4回ビーゴ国際ピアノコンクール第2位
7. ファン ジュンヤン Zhengyang FAN(中国) 河北省音楽ゴールデンベルアワード 専門学校グループ 2位
8. ガオ ミャオ Miao GAO(中国) 第15回ハチャトゥリアン国際コンクール 第3位
9. マイケル グローナー Michael GRONER(アメリカ) 2022 ロサンゼルス国際リストピアノコンクール ブダペストコンサートの部 第4位 
10. グォ ヨンヨン Yungyung GUO(中国) WPTA 国際ピアノコンクール 第1位
11. 原田 莉奈 Rina HARADA(日本) 第45回ピティナ・ピアノコンペティション 特級 セミファイナリスト
12. 橋本 瞳里 Meri HASHIMOTO(日本)
13. 飯島 聡史 Satoshi IIJIMA(日本) 第43回ピティナ・ピアノコンペティション 特級 奨励賞
14. 飯野 愛純 Azumi IINO(日本) 第45回全国町田ピアノコンクール 第1位
15. 今井 理子 Riko IMAI(日本) 第18回ショパン国際ピアノコンクール 本大会出場
16. 今飯田 百那 Momona IMAIIDA(日本) 第2回ラフマニノフ国際ピアノコンクール JAPAN 第2位
17. 石坂 奏 So ISHIZAKA(日本) 第7回野島稔・よこすかピアノコンクール ファイナリスト
18. 加古 彩子 Ayako KAKO(日本) 第15回神戸新人音楽賞コンクール 最優秀賞
19. 鴨川 孟平 Takehira KAMOGAWA(日本)
20. 金﨑 瑞希 Mizuki KANEZAKI(日本) 第27回フッペル鳥栖ピアノコンクール フッペル部門 第3位
21. 川上 真璃 Mari KAWAKAMI(日本) アルトゥール・シュナーベル コンクール 第3位
22. キム ジヨン Jiyoung KIM(韓国) ジェイコブ・フライヤー国際ピアノコンクール 第1位
25. 松口 理子Riko MATSUGUCHI(日本) 第15回 九州国際バッハ音楽コンクール 第1位
26. 松橋 凌大 Ryota  MATSUHASHI(日本) 第4回クライネフ国際ピアノコンクール セミファイナリスト
27. メイ ユーパンYupeng MEI(中国) コネロ国際ピアノコンクール 第1位
28. アルセニー ムン Arsenii MUN(ロシア) アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ国際ピアノコンクール 第1位
29. 中谷 彩花 Sayaka NAKAYA(日本) メトネル国際コンクール 第3位
30. 中澤 真唯 Mai NAKAZAWA(日本) ベートーヴェン国際ピアノコンクール ASIA 第4位
31. 西本 裕矢 Yuya NISHIMOTO(日本) 第5回高松国際ピアノコンクール 第4位
32. オ サデジャ Sadaeja OH(韓国)
33. 奥田 有紀美 Yukimi OKUDA(日本) 第4回フランス音楽コンクール 第2位(最高位)
34. イリヤ パポヤン Ilia PAPOIAN(ロシア) 第17回チャイコフスキー国際ピアノコンクール 第3位
35. イレン ピリキャン Iren PILIKIAN(アルメニア) ビヤエルモサピアノコンクール グランプリ
36. 佐伯 涼真 Ryoma SAEKI(日本) 桐朋ピアノ・コンチェルト・コンペティション 第1位
37. 佐川 和冴 Kazusa SAGAWA(日本) 第90回日本音楽コンクール 第2位
38. 芝野 速大 Hayata SHIBANO(日本) モーツァルト国際コンクール 第1位
39. 重松 良卓 Yoshitaka SHIGEMATSU(日本) 第26回フッペル鳥栖ピアノコンクール 第2位
40. 塩﨑 基央 Motochika SHIOZAKI(日本) 第44回ピティナ・ピアノコンペティション G級 全国決勝大会ベスト5賞
41. ウラジーミル スコモローホフ Vladimir SKOMOROKHOV(ロシア) エヴェア・ピアノ賞 (APP)  第3位
42. 高倉 圭吾 Keigo TAKAKURA(日本) 第90回日本音楽コンクール 第3位
43. 竹田 理琴乃 Rikono TAKEDA(日本) 第25回松方ホール音楽賞コンクール 松方ホール音楽賞
44. タン シーユー Shih-yu TANG(台湾) ヴェローナ国際ピアノコンクール 2021 第3位
45. ジョージ トディカGeorge TODICA(ルーマニア) イスタンブール国際ピアノコンクール 第3位
46. 徳永 雄紀 Yuki TOKUNAGA(日本) アンドレア・バルディ国際ピアノコンクール 第1位
47. 津野 絢音 Ayane TSUNO(日本) 第21回ショパン国際ピアノコンクール ㏌ ASIA ソロアーティスト部門 金賞
48. ワン シーシャン Xishan WANG(中国) 北京市中等職業学院音楽キーボード演奏全国技能大会 第1位
49. 渡辺 彩乃 Ayano WATANABE(日本) 第1回藝大ピアノコンクール 入選
50. 渡邊 伽音 Kanon WATANABE(日本) 全日本学生音楽コンクール 東京大会 第1位
51. 山﨑 夢叶 Yuto YAMAZAKI(日本) スーパージュニアピアノコンクール グランプリ
52. ヤン ミン Ming YANG(台湾) 台湾師範大学ピアノ協奏曲コンクール 第1位
53. ヤン シンユエ Xinyue YANG(中国) 全米音楽教師協会 2021年 ニューヨーク州大会 第1位
54. 吉田 茜 Akane YOSHIDA(日本) アルトゥール・シュナーベル・ピアノコンクール 第3位
55. 吉田 夢佳 Yumeka YOSHIDA(日本) 第10回桐朋ピアノ・コンペティション 第3位
57. ジャン ボウェン Bowen ZHANG(中国)
58. ジュー ズホ Zihe ZHU(中国) ヤマハアジア音楽奨学金 上海音楽院ピアノ部門 第1位
59. ニコラス ジャコメリ Nicolas GIACOMELLI(イタリア) Shigeru Kawai ピアノコンクール イタリア-スペイン 第1位
(23, 24, 56は出場辞退)
編集部作成

 そしてもちろん、ネットでライブ配信もあり。海外のコンクールと違って時差がないので、全部追っても寝不足の心配は無用! 予選、セミファイナルをネットで聴き、気になるファイナリストがいたら、ファイナルとガラコンサートだけ会場に足を運ぶという方法もあります。お気に入りのピアニストとの出会いを楽しみに、それぞれの方法で鑑賞してみてください。

第4回 Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール
2023.7/29(土)~8/6(日)

カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」、渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール

SKIPC official(公式YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/@SKIPCofficial

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/