Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール セミファイナルを振り返って

個性豊かな6人のファイナリストたち

取材・文:高坂はる香

 Shigeru Kawai 国際ピアノコンクールは、18名のセミファイナリストの中から、6名のファイナリストが発表されました。8月5日(土)に行われるファイナルを前に、最後のステージへの進出者をご紹介しつつ、セミファイナルの様子をざっくりと振り返りたいと思います。

 セミファイナルの課題(30〜40分)は、古典派の作曲家であるハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのソナタまたは変奏曲から1曲と、残りは自由な選曲というものでした。
 一言に古典派の作品といっても、例えばハイドンのソナタを選ぶか、ベートーヴェンの後期ソナタを選ぶか、もしくは変奏曲作品を選ぶかで、アピールできるポイントは大きく変わります。その意味で、選曲の時点でどんなことを得意としているピアニストなのか、個性が見えて興味深いステージでした。

 ガオ・ミャオさんは、中国生まれ、アメリカのイーストマン音楽学校で学ぶ24歳。彼が演奏したのは、ベートーヴェンの「エロイカ変奏曲」と、バッハ=ブゾーニの「シャコンヌ」。ヘビーめの変奏曲の傑作攻めプログラムを堂々と演奏したことが、強い印象を残したといえるかもしれません。
 ファイナルの選曲はプロコフィエフの3番なので、また一味違った表情を見ることができそうです。

Miao GAO

 今井理子さんは、東京藝大ののち現在ウィーン国立音楽大学で学ぶ22歳。変奏曲攻めのミャオさんとは打って変わって、ベートーヴェンの後期ソナタから第31番とラフマニノフの2番のソナタという、濃いソナタづくしプログラムでした。二つのソナタで繊細さとダイナミックさの両方を披露した形です。
 ファイナルでもラフマニノフから2番の協奏曲を演奏。おおらかな音楽性が生かされた演奏に期待できそう。

Riko IMAI

 韓国生まれの27歳、キム・ジヨンさんは、ハイドンのピアノ・ソナタ ニ長調 Hob.XVI:42 と、スクリャービンの12の練習曲を演奏。特にスクリャービンはドラマティックでパワフル。対照的な作品でまったく違う音色を聴かせてくれました。
 ファイナルではベートーヴェンの4番を演奏します。

Jiyoung KIM

 佐川和冴さんは、東京音楽大学在学中、日本音楽コンクール第2位などの入賞歴のある24歳。ハイドンのソナタHob.XVI:32、ドビュッシーの「花火」、シューマンの「謝肉祭」というバラエティに富んだプログラムを披露しました。振り返ると1次予選もブラームスのOp.116とグリュンフェルト「ウィーンの夜会」を選んでいて、「これが弾きたいんだ」感が選曲からすでに伝わってきますが、実際、演奏もそんな強い意志を感じるもの。
 おそらくファイナルのベートーヴェン4番も「すごく弾きたくて選びました」という感じの演奏をされるのだろうという予感が、聴く前からしています。

Kazusa SAGAWA

 イタリアに生まれ、パリ・コンセルヴァトワールで学ぶ24歳のニコラス・ジャコメリさんは、ハイドンのソナタ ホ長調 Hob.XVI:13 とシューマンの「クライスレリアーナ」を選択。特にシューマンはご自身のキャラクターに合っているようで、時々変わった音を鳴らしながら、のびのびとした個性的な演奏を聴かせてくれました。
 ファイナルはチャイコフスキーの1番。今回のファイナルはこうしたコンクールの王道コンチェルトの選曲があまり被っていなくて、チャイコフスキーもジャコメリさんお一人のみです。

Nicolas GIACOMELLI

 竹田理琴乃さんは、ポーランドのショパン音楽大学、京都市立芸術大学大学院で学んだ29歳。モーツァルトの「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」とシューマンの「フモレスケ」という、ご自身のしなやかな歌い方によく合った作品を選んで、表情豊かな音楽を聴かせていました。
 ファイナルでは、ショパンの1番を選択。ポーランドに留学していたピアニスト、得意のレパートリーを披露します。

Rikono TAKEDA

 カワイ表参道パウゼという空間で、パワーがあり、あたたかい音のするフルコンサートグランドピアノ Shigeru Kawai を弾くというシチュエーション。大きな会場によくある“ピアニシモが遠くまで届くか”という懸案事項は気にすることなく、自分の音楽を表現することに集中できたのではないかと思います。
 ただ一方、会場で聴いていると、そのよく響く空間だからこその音のコントロール力、しっかりと自分の音を聴けているか、細部まで聴かせるための制御がかけられているかというところにも差が出たように思います。審査員の先生方は、あの空間で一日中フルコンサートグランドの音を聴き続けるわけですから、特にそのあたりには敏感になっているのではないかという印象です。

 とはいえ、このあとは会場を渋谷の大和田さくらホールに移し、アンドレイ・ピサレフさんとパーヴェル・ネルセシヤンさんの伴奏で、ピアノ協奏曲の2台ピアノ版を演奏することになります。ここからは、広い会場、ロシアの名ピアニストたちにのまれない堂々たる音が必要(もちろんお二人の先生方は合わせてコントロールしてくれると思いますが!)。
 各ピアニストがまたソロのステージとは違った一面を見せてくれることに期待しましょう。

第4回 Shigeru Kawai 国際ピアノコンクール
ファイナル
2023.8/5(土)開場12:30 / 開演13:00 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
一般3,000円 学生2,000円
入賞者演奏会
2023.8/6(日)開場14:30 / 開演15:00 カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
全席自由3,000円
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https://www.youtube.com/@SKIPCofficial

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/