佐藤俊介(指揮/ヴァイオリン) 東京交響楽団

ロマン派黎明期を彩る名協奏曲を弾き振りで

佐藤俊介 (c)Marco Borggreve

 作曲家の生きた時代の奏法を深く追究し、それを活かした演奏を聴かせてくれるヴァイオリニストの佐藤俊介が、再び東京交響楽団の定期演奏会に登場する(3/18 サントリーホール)。コンチェルト・ケルンのコンサートマスター、オランダバッハ協会の音楽監督など、ヨーロッパでも高い評価を得ている佐藤が、今回は古典派からロマン派初期にかけての名作を取り上げる。

 まず注目されるのが、ベートーヴェンと同時代に生きたヴァイオリニスト&作曲家であるルイ・シュポアのヴァイオリン協奏曲第8番だろう。「劇唱の形式で」というサブタイトルは、この協奏曲の第1楽章がレチタティーヴォと指定されているからで、その後に続く2つの楽章もまるでオペラ・アリアのような華麗さを持つ。佐藤の弾き振りによる演奏は、19世紀はじめのオペラについても私たちの想像をかき立ててくれるはず。

 続くベートーヴェンの交響曲第1番とメンデルスゾーンの弦楽のための交響曲第8番はそれぞれの初期の名作と言える作品だが、並べて演奏されることは少ない。神童ともてはやされた時代のメンデルスゾーンの作品には、本当に才能の開花が感じられるし、ベートーヴェンが20代の終わりに到達した交響的世界は、それまでの常識を打ち破る覇気に満ちている。前回はバロック音楽プロで共演した東響とともに、佐藤のリードによって、私たちは一歩先に進んだ世界を体験することが出来るだろう。
文:片桐卓也
(ぶらあぼ2023年2月号より)

第708回 定期演奏会 
2023.3/18(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
https://tokyosymphony.jp