INTERVIEW|第1位 イム・ユンチャン

高坂はる香のヴァン・クライバーン・コンクール 現地レポ7 from TEXAS

Yunchan Lim Photo by Ralph Lauer

取材・文:高坂はる香

 ハードな日程のもと3回のリサイタルと3曲の協奏曲を演奏し、見事、金メダルに輝いた、イム・ユンチャンさん。
 ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでは入賞者には3年間のマネジメント契約が用意されており、すぐにコンサート活動を行える状態であることが求められます。ユンチャンさんは、現在、韓国芸術総合学校で学ぶ18歳。ここまで韓国国内のみで学び、まだ英語は勉強中。彼がこの先どんなふうに優勝者として世界に羽ばたき、どんな音楽を聴かせてくれるのか、あたたかく見守りたいところです。

 そんなユンチャンさんの受賞後の言葉を、レセプション・パーティーでのショート・インタビュー(英語で一生懸命答えてくださいました!)、そして、通訳付きの記者会見でのコメントから、ご紹介します。

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Photo by Richard Rodriguez

── コンクールの全てが終わり、結果が出て、今どんな気分ですか?

 とても緊張しましたけれど、今はとてもエキサイティングな気持ちです。日本の聴衆のみなさんの前で演奏することを、すごく楽しみにしているんです。

── 韓国のみで学んでこのようなピアニストになったということは、あなた自身がすばらしいのはもちろん、先生もすばらしいのではないかと思いました。選曲からも優れたアドバイスがあったことが感じられましたが、例えばセミファイナルで18歳のあなたにリストの「超絶技巧練習曲」全曲を演奏することを提案するなんて、勇気がいるのではないかと思います。

 私の韓国の先生(ソン・ミンス氏 Minsoo Sohn)は、ラッセル・シャーマン氏のもと(ボストンのニューイングランド音楽院で)学んだピアニストです。シャーマン氏はリストとベートーヴェンの流れを汲むピアニストでもあります。ソン先生は、去年ベートーヴェンのピアノ・ソナタの全曲演奏もしています。彼はピアノマスターなのです。本当に尊敬しています。

Photo by Ralph Lauer

── 韓国からは世界で活躍するピアニストが次々出ていますが、影響を受けた人や目標とする人はいますか?

 韓国のピアニストはみんな尊敬していますけれど……でもどちらかというと、私が最もインスピレーションを受けているのは、古いロシアン・スクールのピアニストたちです。例えばウラディーミル・ソフロニツキーや、マリヤ・ユーディナ。現代のピアニストだと、エフゲニー・キーシンからも影響を受けています。

── 将来こんなピアニストになりたいという考えはありますか。

 そうですね、バロックから現代作品まで広く演奏するピアニストでいられたらと思っています。そして、常に作曲家に感謝していたい。演奏するときは、その気持ちを忘れないでいようと思います。

── ところでピアノ以外の趣味は?

 うーん、なにもないです(笑)。

Photo by Ralph Lauer

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《記者会見より》

Q. 受賞して感じていること

 私はまだ学生ですし、学ばなくてはならないこともたくさんありますから、このような素晴らしいコンクールで名誉ある賞をいただき、重荷に感じているところもあります。でもこの名誉に自分がふさわしくあるよう、このあとも自分を鼓舞していきたいと思います。
 音楽が生み出されるのは、人とコミュニケーションをするためです。このコンクールを通してそれが実現できるようになったことが嬉しいです。

Q. 賞を得ることになった秘訣、何がそこに導いてくれたか

 音楽を愛する気持ちと、音楽のために自分を捧げようとする気持ち。この2つだと思います。

審査員のひとりジャン=エフラム・バヴゼから祝福を受ける
Photo by Richard Rodriguez

Q. マネジメントやサポートがつくことで、今後やってみたい活動

 もしどこかのオーケストラが私に声をかけてくださったら、喜んで共演したいです。またリサイタルの活動としては、「ゴルトベルク変奏曲」を演奏したいです。

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 ピンポイントでゴルトベルクを弾きたいという18歳の宣言に、ざわつく記者たち。続けて同じ質問への回答を求められたチョニさん(28歳)は、「この若者は、すごいなぁ…(笑)」と思わず感嘆の声を漏らしていました。
 静かな口調ながら、強い意志と深い音楽への愛情が感じられる言葉が聞かれ、その圧倒的な技巧がただそれだけでなく、なにかその先につながっていることを感じさせた理由が垣間見られた気がしました。

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/