日生劇場 開場60周年の主催公演ラインナップを発表〜栗山民也、宮本亞門らが登壇

 日生劇場(ニッセイ文化振興財団)が6月22日、開場60周年となる2023年の主催公演ラインナップを発表した。記者会見では主催公演を手掛ける栗山民也、宮本亞門、粟國淳、一色隆司、山田うん、髙部尚子と、日本を代表するクリエイターが一堂に会して、それぞれが作品について語った。

前列左より:松山保臣理事長、宮本亞門、栗山民也、粟國淳
後列左より:髙部尚子、一色隆司、山田うん

 日生劇場は、日本生命保険相互会社が創業70周年を迎えたのを記念して建設された日本生命日比谷ビル内にあり、著名な建築家・村野藤吾の設計により、建築物としても名高く、非常に美しい客席空間でも一目置かれる劇場である。1963年10月のこけら落とし公演「ベルリン・ドイツ・オペラ《フィデリオ》」にて開場。その後もオペラ、子どものための舞台作品、この二つを自主制作公演の柱として、さまざまな作品を上演してきた。
 開場翌年から児童・青少年を無料で招待する「ニッセイ名作劇場」、オペラでは1979年から「青少年のための『日生劇場オペラ教室』」(2014年からはこの二つの取組を発展させ「ニッセイ名作シリーズ」として展開)、96年よりオーディションによるキャスト選抜を開始した。ニッセイ文化振興財団の松山保臣理事長からは、今年度で招待人数が累計800万人を超えることも説明された。

 続いて、芸術参与の粟國淳よりラインナップを発表。2014年《アイナダマール》で同劇場演出デビュー後、数々の作品を演出してきた粟國にとって、「大好きな劇場で60周年という歴史的な瞬間を芸術参与として迎えられることは非常に光栄。60周年にふさわしいラインナップ」と語る。演目はオペラ3公演、「日生劇場ファミリーフェスティヴァル」3公演が予定されている。

《60周年記念 主催公演ラインナップ》
NISSAY OPERA 2023
●《メデア》
 2023.5/27(土)、5/28(日)
 指揮:園田隆一郎/演出:栗山民也/管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
●《マクベス》
 2023.11/11(土)、11/12(日)
 指揮:沼尻竜典/演出:粟國淳/管弦楽:読売日本交響楽団
●《午後の曳航》(東京二期会オペラ劇場 NISSAY OPERA 2023提携)
 2023.11/23(木・祝)〜11/26(日)予定
 指揮:アレホ・ペレス/演出:宮本亞門/管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2023
●音楽劇『精霊の守り人』
 2023.7/29(土)〜8/6(日)
 原作:上橋菜穂子作「精霊の守り人」(偕成社)/脚本:井上テテ/演出:一色隆司(NHKエンタープライズ)
●舞台版『せかいいちのねこ』
 2023.8/19(土)、8/20(日)
 原作:ヒグチユウコ作「せかいいちのねこ」(白泉社)/脚本・演出・振付:山田うん/出演:人形劇団ひとみ座、Co.  山田うん
●谷桃子バレエ団『くるみ割り人形』〜日生劇場版〜
 2023.8/25(金)〜8/27(日)
 演出・振付:谷桃子/芸術監督 改訂演出・振付:髙部尚子/出演:谷桃子バレエ団

左より:粟國淳、宮本亞門、栗山民也、一色隆司、山田うん、髙部尚子

 日本初演となるケルビーニ《メデア》は、ギリシア悲劇に基づくオペラ。粟國曰く「ブラームス、ベートーヴェン、シューマン、ワーグナーが絶賛したと記録がのこる革命的な作品。1952年にマリア・カラスがタイトルロールを演じ、オペラ史に返り咲いた」と語る。メデア役は岡田昌子、中村真紀が演じる。演出には、オペラ《リア》以来10年ぶりの登場となる栗山民也。冒頭ウクライナで爆撃の被害に遭った劇場のことに触れ、作品について語った。

「劇場は人々が集い、人間について世界について考え学び、夢を見る場所だと思っていましたが、ウクライナの劇場にミサイルが撃ち込まれた時からずっと、劇場はどういう場所なのかを考えています。
 《メデア》は紀元前に書かれた物語ですが、今もしっかり息をしている作品です。いつも頭に浮かぶイメージは、ピカソの『ゲルニカ』です。死んだ我が子を抱えて呆然と空を見上げている母、その目は縦に描かれています。私はそれを人間の怒りと悲しみ、その究極をピカソが描いたのだと思っています。いまの日本はわかりやすいことを受け入れる時代になってしまいましたが、不条理である、矛盾に満ちている、それが人間の姿です。表と裏、悲劇と喜劇、愛と憎み、正気と狂気、これが《メデア》の中心です。永遠のテーマを秘めた《メデア》、オペラ界の皆様の才能をお借りして心を込めた作品にしたい」

栗山民也
粟國淳

 1970年のベルリン・ドイツ・オペラ《ファルスタッフ》以来、同劇場53年ぶりのヴェルディ作品上演となる《マクベス》は、ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇の一つをもとにした作品。粟國は「演出家として一度は手がけてみたかった」という。
「音楽とテキスト、2つの力を合わせることによって、芝居とは違うシェイクスピアの舞台表現がされている作品。オペラは劇であり、歌い手はドラマを作る役者であるべき、というヴェルディの主張が込められています。美しい声だけで表現する作品ではありません。演出家としては、歌い手にどれだけ芝居をさせるのかがチャレンジです」

 三島由紀夫原作、20世紀を代表するドイツ人作曲家ヘンツェの《午後の曳航》は、2005年改訂ドイツ語版で日本初演となる。宮本亞門が三島原作のオペラを手掛けるのは、《金閣寺》(2019年)に続き2作目。本作は2010年にイタリア・スポレートまで観に行ったそうで、「いつかやりたかった《午後の曳航》がようやくできる」と喜びを語る。
「コロナや戦争を含めて、舞台は意味があるのかないのか、考えている時期で正直重いです。コロナ禍で舞台から離れてしまった人も多くいますが、それでも舞台を続ける意味、ますます思いをのせ最高のものを創りたい。
 三島由紀夫さんの壮絶な生き方、露骨にすべて出していく姿にいつも勇気をもらっています。内容はとても痛く、恐ろしく、そして美しいです。人間の本質を露骨に表に出している作品で、現代人の悩みそのものと言えるかもしれません。三島さんの持っている精神性は大切に、いろんな形で新たな日本の世界観を取り入れたい」

宮本亞門
一色隆司

 「日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2023」は3作品が上演。大人気ファンタジー小説の初の舞台化となる上橋菜穂子原作の音楽劇『精霊の守り人』は、同作のテレビドラマ版も手がけた一色隆司が演出する。
「上橋先生とはいまの時代に『何を届けたいのか、届ける意味があるのか』と議論を重ねてきました。この作品は、何者でもない人が運命と向き合い、周りを巻き込み、それが大きな力となって世界を変えていく。人間のエネルギーの素晴らしさをうたう讃歌だと思って、皆さんに作品をお届けしたい。世界であらゆることが起こり、人間としてどうあるべきかを問われている時代。そのなかで未来の世代、育む大人たち、すべての世代に劇場から何か持って帰ってもらえるような作品を目指したい」

 ヒグチユウコの絵本の舞台版『せかいいちのねこ』は脚本・演出・振付を山田うんが務める。原作は“絵物語”という「宙に生命をふわっと投げたような独特な絵本」で、こちらも初の舞台化となる。
「舞台は自分でページをめくらなくても、どんどんページが生まれていく場所です。動きやセリフ、歌、音楽、色彩、美術といった舞台全体の躍動と静寂が、大きな生き物となるような独特な舞台を創りあげたいです。日生劇場は入った瞬間から場所の不思議さがあります。幕が閉じるまでドキドキが止まらない、そして家に帰った後も親子で語り合えるような、子どもたちにとって新しい劇場体験となる作品にしたいです」

山田うん
髙部尚子

 同劇場では、2007年より『白鳥の湖』などを上演してきた谷桃子バレエ団。今回は髙部尚子・バレエ団芸術監督の改訂演出・振付で日生劇場版の『くるみ割り人形』(解説付)を上演する。同劇場の主催バレエ公演では初めての試みとなる子役オーディションも実施する。
「谷桃子先生がお亡くなりになる前に『私が一番振付をしっかりと作った作品なの、だから大事に踊っていってちょうだいね』と言われたことを今でも思い出します。日生劇場さんのお力を頂戴して、団員たちとともに、子どもたちと創る新たな『くるみ割り人形』に期待していただきたい」

 会見で披露された60周年記念ロゴには、同劇場が積み重ねてきた歴史を、劇場象徴の一つである螺旋階段と右上がりの「60」の数字で表現されている。開場以来変わらずオペラと児童文化の普及に注力する同劇場の、「この先の未来」に今後も期待したい。  

日生劇場
https://www.nissaytheatre.or.jp
https://www.nissaytheatre.or.jp/news/60thanniversarylineup/