高坂はる香のヴァン・クライバーン・コンクール 現地レポ2 from TEXAS

予選の結果発表

取材・文:高坂はる香

 ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール、6/2~4の3日間にわたって30名のコンテスタントが演奏した予選の結果が発表され、翌日6/5の朝からすでに18名のコンテスタントによるクオーターファイナルが始まっています。

Quaterfinalists Photo by Ralph Lauer

クオーターファイナル進出者

Albert Cano Smit, Spain/Netherlands, 25
Dmytro Choni, Ukraine, 28
Federico Gad Crema, Italy, 23
Anna Geniushene, Russia, 31
Masaya Kamei, Japan, 20
Uladzislau Khandohi, Belarus, 20
Honggi Kim, South Korea, 30
Andrew Li, United States, 22
Yunchan Lim, South Korea, 18
Denis Linnik, Belarus, 26
Kate Liu, United States, 28
Jinhyung Park, South Korea, 26
Changyong Shin, South Korea, 28
Ilya Shmukler, Russia, 27
Clayton Stephenson, United States, 23
Yutong Sun, China, 26
Marcel Tadokoro, France/Japan, 28
Yuki Yoshimi, Japan, 22

Kate Liu Photo by Richard Rodriguez

 すでに名の知れたケイト・リウさん、クライバーン再挑戦組のイリヤ・シュムクレルさんやソン・ユトンさん、最後に登場して才能を見せつけた最年少18歳のユンチャン・イムさんなどの名前もあります。
 日本のコンテスタント、吉見友貴さん、マルセル田所さん、亀井聖矢さんも揃って次のステージに進出。3人ともとても安心した様子で、テンション高めでした!

左より:マルセル田所、亀井聖矢、吉見友貴
©Haruka Kosaka

 一方で、個性ある自分の音楽を聴かせながらも次に進めなかった面々も。コンクールとはわからないものです。

 実際、審査は大変だろうと思います。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ op.110、ストラヴィンスキーの「ペトリューシュカ」、バッハの「フーガの技法」、リゲティの「悪魔の階段」というまったく違うものが求められる作品を聴き比べて、どちらが次に進むべきピアニストか決めなくてはならないのですから。

 ショパン・コンクールのような、こういうピアニストを求めていますという暗黙の了解(それだって、実際は曖昧なものですが)のようなものもありませんので、余計難しいと思います。とはいえ、華やかでパワフルな音を鳴らすピアニストがわりと多く通過しているのは、クライバーン・コンクールらしいといえるかもしれません。

Marcel Tadokoro Photo by Ralph Lauer

クオーターファイナル

 さて、6月5日から始まったクオーターファイナルは、再び40分間のリサイタル。今回は選曲は完全に自由、各人ピアノと会場にも少し慣れてきたところでしょうから、ますますそれぞれの個性が出てくるでしょう。

 これだけの異なるレパートリーを聴きながら、かつて1969年にこのコンクールで第2位に入賞し、以後何度もここで審査員をつとめられた、野島稔先生がふとおっしゃった言葉を思い出しました。とあるコンクールのあとに、審査の難しさについて伺ったときのことです。

「ピアニストの審査員は、自分が散々弾いた曲は評価が厳しくなりがちで、苦手な曲っていうのは結構甘くなる(笑)。人によって違うかもしれないけど、えてして僕はそうなりがち。つとめて厳しくつけないようにしているんです」

Marin Alsop, jury chairman

 そうなると、あまり知られていないような曲、多くのピアニストがレパートリーにしていないような曲を弾く方が有利なのか?と思えるかもしれませんが、物事はそう単純ではありません。しっかりとした演奏ができなければ、作品自体の良さが伝わりにくいリスクもあるでしょう。
 一方でそれでは、ピアニスト誰もが憧れるようなメジャー曲を弾くほど、審査の目がシビアになってマイナスなのか?とも思えますが、逆にそれで説得力のある演奏をし、審査員を納得させられたら、ずばぬけて良い評価を得ることができるともいえます。再びショパンコンクールを引き合いに出すと、審査員が基本的に優れたショパン弾きである前提のショパン・コンクールとは、状況が違うともいえます。

 こうなってくると、いかに自分のいいところを出せる曲を選ぶか―苦手な分野は徹底的に排除して組むか、逆にさまざまな時代の作品を広く得意とするなら、それが伝わるよう満遍なく曲を組み合わせるか―という、選曲が重要なポイントの一つとなりそうです。

Backstage Photo by Ralph Lauer

 結果がついてくればもちろんいいですが、まずはそれぞれが自分の届けたい音楽をのびのびと演奏し、世界中にファンを増やす(予選まででネット配信は100万回の視聴があったそうです!)。そんな機会になることを願いつつ、この後もコンクールを見守りましょう。

高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/