仙台フィルが楽団史上初となる定期演奏会の全公演完売を達成!勢いそのままに東京へ!
王道プログラムの先に見据えるものとは?

仙台フィルハーモニー管弦楽団 2024年の東京公演 
写真提供:アイリスオーヤマ株式会社

INTERVIEW 大山健太郎(仙台フィルハーモニー管弦楽団副理事長)

「皇帝」と「巨人」の堂々たる出会いだ。仙台フィルハーモニー管弦楽団は5月21日、サントリーホールで東京公演「アイリスオーヤマ・クラシックスペシャル2025 王道か異端か」を開く。2019年から始めて6回目。今回は、広上淳一の指揮でベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番 変ホ長調「皇帝」とマーラーの交響曲第1番 ニ長調「巨人」を演奏する。ピアノは世界的に活躍する小川典子。定期演奏会の完売が続くなどの躍進ぶりについて、仙台フィル副理事長でアイリスオーヤマ代表取締役会長の大山健太郎に聞いた。

大山健太郎
写真提供:アイリスオーヤマ株式会社

—— 仙台フィルの人気と知名度が高まっています。2024-25シーズンは定期演奏会がすべて完売しました。躍進の秘訣は何ですか。

「固定客だけでなく、インターネットやSNSを通じて新しいお客様にアプローチし、客層に広がりが出てきたのが大きいと思います。定期演奏会は完売といっても、仙台フィルが本拠地にしている日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)は客席数が804席の比較的小さなホールです。とはいえ定期演奏会は各回とも土日開催で計1600人の来場者があったことになり、全9回が完売したのは嬉しいことです。

 創設50周年の23年は、ヴァイオリニストの五嶋みどりさんとの共演などを通じて『仙台フィルはなかなかいいではないか』と評判が高まりました。そうした高評価からインターネット販売で客層が広がり、好循環に入っています。今後はさらに若年層を含む幅広いファンを増やしていきたいと考えています」

東京公演は“王道”プログラム

 仙台フィルは定期演奏会に加え、2019年から年1回、アイリスオーヤマ主催で東京公演も開いている。同楽団の常務理事で事業部長の我妻雅崇は「24年の東京公演は満席になった。25年は昨年実績から落とせないので逆にプレッシャーがかかる」と言って笑う。完売の秘訣は聴衆のニーズにも耳を傾け、プログラミングに工夫を凝らしていることだ。東京公演は23年のベルリオーズ「幻想交響曲」、24年のガーシュウィン「パリのアメリカ人」などに続き、25年も人気の高い「皇帝」と「巨人」。大のクラシック音楽ファンである大山は王道のプログラムでさらに客層が広がることを期待する。

写真提供:アイリスオーヤマ株式会社

—— 東京公演でのマーラーの交響曲第1番 ニ長調「巨人」には何を期待しますか。

「サントリーホールは客席数が2006席と日立システムズホール仙台の2倍以上もある大きなホールです。このためマーラーの『巨人』のような大編成の交響曲に向いています。そこで広上さんに『巨人』を思い切り指揮してもらいたいと考えました。私はマーラーが好きで、中でも『巨人』は特に分かりやすい交響曲です。24年7月の日立システムズホール仙台での定期演奏会でも仙台フィルは広上さんの指揮で『巨人』を演奏していて、とても感動しました。サントリーホールではさらにダイナミックさと広がりが出ると期待しています」

定番曲を“ヒロカミ節”で

—— 広上さんの指揮する「巨人」はどういうところが魅力ですか。

「広上さんの音楽づくりはドラマ性を持っています。指揮者によっては、スコア(楽譜)に書いてある通り正しく弾かせることを大切にする方もいると思います。しかし、それだけでは音楽に潜むドラマは表現できません。いかにスコアの奥から音楽を引き出すかが大事です。『巨人』はだんだん盛り上がり、最後に大きなドラマを作ります。ピアニッシモから始まり、ダイナミックに展開していく音の広がりが魅力です。同じ曲でも、広上さんなら自身が持つイメージで『巨人』を指揮してくれます。その“ヒロカミ流”を聴ける楽しみがあります」

広上淳一 ©Masaaki Tomitori

—— マーラーの「巨人」には従来の交響曲の枠を超える異端性があるので、単に正確な演奏ならばいいというわけではないですね。一方のベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」には何を期待しますか。

「ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中でも第5番は非常に華やかで力強さも持ち合わせた楽曲です。しかも誰もが知っている定番のピアノ協奏曲です。だからこそ演奏が難しい。ソリストは小川典子さん。彼女はこうした雄大な曲をしっかり弾いてくれるはずですし、これまでも仙台フィルと共演していますので、小川さんにぜひお願いしたいと考えました」

小川典子 ©Patrick Allen operaomnia.co.uk

大編成が合うサントリーホール

——「王道か異端か」という定番2曲を東京公演で取り上げる意義は。

「同じような定番曲はほかのオーケストラも東京で頻繁に演奏しているので、その中でどのような違いを出すのかが重要です。そういう意味で仙台フィルにとって、定番曲の演奏はよりプレッシャーがかかるところ。だからこそ楽団員は一層頑張ってくれるのではないかと期待しますし、できるだけ多くの皆さんに聴いてもらえる選曲をしています。クラシック音楽をあまり聴いたことがない方々にも、東京公演を通じて仙台フィルのファンになってもらえるよう今後も曲目を考えていきたいです」

—— 東京公演は仙台フィルにどのような効果をもたらしていますか。

「そもそも東京公演を始めたきっかけの一つは、マーラーの交響曲のような大編成の作品を演奏するには、現在の日立システムズホール仙台では音の広がりが得られないという認識を持ったからでした。そこでアイリスオーヤマが主催者となってサントリーホールで年1回、大ホールに合った音楽を演奏しようということになりました。おかげさまで東京でも仙台フィルのファンが増え、24年は当日券販売でも長い行列ができたほどです。サントリーホールの方々からも『2000席を完売するのはなかなか難しいのに、すごいですね』とお褒めの言葉をいただきました」

クラシック音楽ファンを増やしたい

—— アイリスオーヤマの経営にとってはどのようなメリットがありますか。

「仙台フィルのファンが増えている中でも、新入社員をはじめ若い社員が公演を聴く機会を作っています。クラシック音楽ファンの高齢化が言われていますが、弊社の若手社員もあまりオーケストラになじみがないのです。そこで特に新入社員の皆さんに優先して東京公演を聴いてもらうようにしています。サントリーホールに初めて来たという新入社員が約9割、しかも初めてオーケストラの生演奏を聴いたという人がほとんどです。オーケストラの生演奏を大音響で聴くことは感動を呼びますし、大ホールが満席になり、拍手喝采が巻き起こることは本当に素晴らしく思います。社内からもクラシック音楽の新たなファンを増やすことに貢献していきます」

—— 今後の課題と展望を聞かせてください。

「日本のオーケストラは全体的に演奏技術のレベルが上がっています。今後のポイントは指揮者です。オーケストラと共感し合える優れた指揮者の人選は重要です。広上さんは“ヒロカミ節”を持った真に創造的な素晴らしい指揮者です。ちょうど仙台市内で収容人数2000人の新ホールの設計が終わり、施工業者を決める段階にあります。新しい大ホールは2031年にオープンする予定で、仙台でも大編成の楽曲の演奏が可能になります。あとは仙台フィルとしてどのような指揮者と曲目を選んで公演を組み立てていくかです」

取材・文:池上輝彦



仙台フィルハーモニー管弦楽団
アイリスオーヤマ・クラシックスペシャル2025
王道か異端か

2025.5/21(水)19:00 サントリーホール

出演

広上淳一(指揮)
小川典子(ピアノ)
仙台フィルハーモニー管弦楽団

曲目
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 op.73「皇帝」
マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」

問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
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