山形交響楽団 常任指揮者 阪 哲朗

得意のオペラで山形をますます熱くする!

(c)Kazuhiko Suzuki

 2019年、阪哲朗が山形交響楽団の常任指揮者に就任した。途中、コロナ禍の困難な時期を経て、5シーズン目の阪&山響のコンビはますます進化を続けている。阪は、ベルリン・コーミッシェ・オーパー専属指揮者やアイゼナハ歌劇場音楽総監督を歴任するなど、ドイツ語圏のオペラ界で顕著な活躍を示してきた。現在はびわ湖ホール芸術監督も兼務。そんな阪に、山形でもオペラへの期待は高い。

「山響とのオペラ初共演は、2017年の久慈市での《椿姫》でした。初めてのリハーサルのとき、楽団員がみんなスコア(総譜)を持ってきていて、びっくりしました。ヨーロッパではありえないことです(笑)。みなさん、音源を聴いたり、スコアを見たり、研究されていました。その準備がすごいと思いました。山響は、オペラへの順応がよく、オペラへの芽があったと思います。そして久慈公演が終わったあとのバスの中で、楽団員の『椿姫ロスになっている』という声を聞いて、それはいいなと思いました」

 その《椿姫》の手応えが良く、阪と山響は、2020年10月の《トゥーランドット》(グランドオペラ共同制作)、21年10月の《魔笛》(二期会)、23年1月の《フィガロの結婚》(二期会)と、続けてオペラを手掛けていく。

 今年2月には、「オペラ指揮者 阪哲朗が誘う“演奏会オペラシリーズ”」がスタートし、その第1弾として《ラ・ボエーム》を演奏した。そして2024年1月にはVol.2として、再び《椿姫》を取り上げる。

「《フィガロの結婚》も《魔笛》も一緒に手掛けた山響と、原点である《椿姫》に戻ったときに、どのような絵が見られるのかなというのがすごく楽しみです。今回は、きっと前回の応用編になると思います。あの頃は、全部きっちり振らないと難しかったですが、今回は、ひょっとしたらカラヤンやクライバーのように休みの拍を振らなくてもいけるかもしれません。大丈夫かなと試したり、難しそうなら助けたり、今日と昨日では違うことをしてみたり、いろいろ実験もしてみたいと思います。オペラではいろいろなことが起こりますから、非常事態での即興的な対応が大切なのです」

 キャストも森谷真理(ヴィオレッタ)、宮里直樹(アルフレード)、大西宇宙(ジェルモン)という、人気実力を兼ね備えた今が旬の歌手たちが出演する。

「森谷さんはソプラノの王道をゆく方。宮里さんは、今後も《カルメン》(ハイライト・ガラ)や《トスカ》にも出ていただくなど、山響にとっても重要なテノールです。大西さんには、私の就任披露演奏会で《リゴレット》を歌っていただきました」

2017年久慈市での《椿姫》 市民も参加してのリハーサル

 3月には、庄内定期演奏会第28回酒田公演で《カルメン》(ハイライト・ガラ)を取り上げる。こちらは、林美智子(カルメン)と宮里直樹(ホセ)。

「《カルメン》は大好きな作品です。ウィーン・フォルクスオーパーでは、(オリジナルのフランス語ではなく)ドイツ語でやりました。林美智子さんにはファリャの『恋は魔術師』でも歌っていただきます」

 阪は、ウィーン国立音楽大学で学び、ウィーン・フォルクスオーパーで同劇場の十八番である《こうもり》を指揮したこともある。1月8日のヨハン・シュトラウスⅡ世の作品を集めた「ユアタウンコンサート」米沢公演も楽しみだ。

「山響は根っこが真面目なので、オペレッタのような、はじけるものをやりたいと思っていました。ワルツなどへの反応が良いんですよ。それでヨハン・シュトラウスを取り上げます。彼は、ワルツなどの枠の中で職人的な仕事をした天才。そしてその枠の中でおしゃれができる人。ベートーヴェンやワーグナーは枠を取り払う仕事をした天才ですが、おしゃれ度は低いと思うんですよ(笑)。私はウィーン時代、ヨハン・シュトラウスにゆかりがあるものに街中で出会いました。昔から好きなんですよ、この3拍子が。彼の音楽は、楽譜通り弾いてもダメで、軽さが身上なのです」

 即興性や遊び心などオペラ劇場の感覚を大切にする阪哲朗と山形交響楽団との今後の展開が大いに注目される。
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ2023年12月号より)

ユアタウンコンサート 米沢公演
2024.1/8(月・祝)15:00 伝国の杜 置賜文化ホール
ヴァイオリン:外村理紗
曲目/
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35 
J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇《ジプシー男爵》序曲、ワルツ「皇帝円舞曲」作品437 他

オペラ指揮者 阪哲朗が誘う 演奏会形式オペラシリーズ Vol.2 《椿姫》
1/28(日)15:00 やまぎん県民ホール


庄内定期演奏会 第28回酒田公演
3/17(日)15:00 酒田市民会館 希望ホール
曲目/
ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」(1925年版) 
ビゼー:歌劇《カルメン》(ハイライト・ガラ) 他

問:山響チケットサービス023-616-6607 
https://www.yamakyo.or.jp