カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

邦人作品の熱演を重ねるマエストロが紡ぐ「坂本龍一ワールド」

左:カーチュン・ウォン ©Ayane Sato
右:遠藤千晶

 邦人作曲家に積極的に取り組む日本フィル首席指揮者のカーチュン・ウォン。これまでもっぱら日本人指揮者の取り上げてきた作品を、インターナショナルな視点から解釈し話題を呼んでいるが、6月の芸劇シリーズでは昨年71歳で亡くなった坂本龍一にフォーカスしたプログラムで登場する。

 「箏とオーケストラのための協奏曲」は、箏の新作を積極的に委嘱しレパートリーを開拓してきた沢井一恵と佐渡裕&兵庫芸術文化センター管によって2010年に初演された。春夏秋冬のシーンを美しく描き出す管弦楽に、箏のつまびく音が木の葉のように舞う。今回独奏を務めるのは日本フィルともたびたび共演のある遠藤千晶。「地中海のテーマ」は1992年のバルセロナオリンピックの開会式のために書かれた20分ほどの作品。躍動感のあるビートに乗ったワールド・ミュージック風に始まり、アンビエント風のメロディーが心地よく耳をくすぐったかと思えば、現代音楽風にはじけるところもあり、最後は祝祭的に高調して締めくくられる。そして彼の名を世界に広めた映画音楽からは、『ラスト・エンペラー』のメインテーマ。坂本ワールドを満喫できるラインナップだ。

 プログラムにはドビュッシーの「夜想曲」、武満徹の「波の盆」組曲より〈フィナーレ〉も織り込まれている。武満はドビュッシーから影響を受けたことで知られるが、そのラインに坂本を置いたらどんな音楽史的な景色が見えてくるかという問いかけが含まれているのではないか(監修:小沼純一)。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年5月号より)

第255回 芸劇シリーズ 
2024.6/2(日)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
https://japanphil.or.jp