INTERVIEW 才人・鈴木優人(指揮)が語る二つの「四季」と「春の祭典」

関西フィルとの「春の祭典」と、自らの編曲によるヴィヴァルディ+ピアソラ「四季」に挑む

鈴木優人 ©池上直哉

 首席客演指揮者を務める鈴木優人が、当の関西フィルハーモニー管弦楽団を指揮して、ヴィヴァルディ(1678~1741)とピアソラ(1921~92)二つの「四季」と、ストラヴィンスキー(1882~1971)の「春の祭典」を演奏する。舞台は、「第62回大阪国際フェスティバル2024」。1958年にフェスティバルホール(初代)を会場とし、ヨーロッパのザルツブルク・フェスティバルを意識してスタートした伝統の音楽祭だ。

 鈴木が「大阪国際フェスティバル」のステージに立つのはこれが二度目。2022年にジャズピアニストの小曽根真、大阪フィルハーモニー交響楽団と共に、モーツァルトの「2台のピアノのための協奏曲」やムソルグスキー(ラヴェル編)の組曲「展覧会の絵」などで、ピアノの弾き振りと指揮をしている。

「フェスティバルホールはお客さんの反応が伝わりやすいショウビズの為の祝祭ホール。あの時は小曽根さんとのコラボもあって楽しかったです。フェスティバルは日常から解き放たれて楽しむもの。これぐらい派手で豪快なプログラムの方が引き立つと思って、今回は曲を選びました。何しろストラヴィンスキー本人が1959年に指揮をしている伝統のステージですから、二度も立たせていただくのは大変光栄です」

大阪国際フェスティバルの招きで初来日したストラヴィンスキー。NHK交響楽団を指揮して自作の「ペトルーシュカ」「火の鳥」ほかを演奏した。1959年5月1日、フェスティバルホール

若き実力者たちと挑むヴィヴァルディ&ピアソラ

 鈴木はここで季節に関連したヴィヴァルディの「四季」とピアソラの「ブエノスアイレスの四季」全8曲をミックスして、一つの曲として演奏することを思い付いたという。2曲は共に「四季」と銘打ってはいるが、ピアソラは当初「ブエノスアイレスの夏」を書いた時点で4部作を考えていたわけではなく、結果的に4曲が揃った時点で「四季」として括られただけで、曲としての関連性は無い。それなら曲順や春―春―夏―夏といった規則性を無視して編曲すれば面白い曲が出来上がるのでは、という大胆な発想が鈴木らしい。

 この2曲の組み合わせというと、「エイト・シーズンズ」として演奏しているヴァイオリニストのギドン・クレーメルの録音などが有名だが、それには囚われずに、この日のためだけのスペシャルな編曲を楽しみにしてほしいと鈴木は話す。

 さらに具体的な聴きどころについて迫ったところ、「ヴィヴァルディはイタリア人で、ピアソラはスペイン語圏のアルゼンチン人。時代も生まれた国も違い、しかし同じラテンの血が流れている二人を、出会わせてみたかったのです。ヴァイオリンの成田達輝さんとバンドネオンの三浦一馬さんという、良い意味でぶっ飛び、才気走った若手二人の起用が決まったので、これはヴィヴァルディでも三浦さんのバンドネオンを使わないと勿体ないじゃないですか(笑)。

 もともとバンドネオンは、讃美歌の伴奏をするために宣教師がアルゼンチンに持ち込んだという説もある楽器なので、通奏低音として使おうと思っています。もちろん、ヴァイオリンもタンゴに欠かせないなので、成田さんにも大活躍をしてもらいますよ」。 

左より:成田達輝、鈴木優人、三浦一馬 ©池上直哉

関西フィル30年ぶりの「ハルサイ」はスリリングに!

 後半に演奏するのは、ストラヴィンスキー「春の祭典」。不協和音と変拍子で複雑な作品だが、現代音楽としては古典とも言える人気の曲。五管編成の大掛かりなこの曲を指揮するのは2度目と鈴木は話す。
 関西フィルも1994年に小林研一郎の指揮で演奏して以来30年ぶり2度目の演奏だそう。ちなみに、その時に前半で取り上げた曲は、ベートーヴェンの「運命」だったとか。「炎のハルサイ」と「運命」の組み合わせも気になるところではある(笑)。

「この曲を頻繁に演奏しているオーケストラではなく、関西フィルのような編成のさほど大きくないオーケストラが特別な思いで取り上げてこそ、この曲のスリリングな持ち味が出ると思います。曲の冒頭からストラヴィンスキーは、『このフレーズ、ファゴット奏者はどう吹く?』という挑戦的な姿勢で書いているように思います。音域的にはコールアングレやオーボエ・ダモーレでも良いように思うのですが、彼のやる気が最初から伝わってきます。奏者の皆さんはストラヴィンスキーと格闘するくらいの気持ちで臨んでほしいですね」

鈴木優人(指揮) 関西フィルハーモニー管弦楽団 ©s.yamamoto

 バッハをはじめとするバロックのイメージが強い鈴木だが、ストラヴィンスキーは大好きだと話す。そういえば、2023年の関西フィル首席客演指揮者就任の記念演奏会でも、「プルチネルラ」(全曲版)をプログラムに取り上げていた。ストラヴィンスキーのどこに惹かれるのかを聞いたところ、「バロック的な魅力がありますし、舞踊のための音楽というだけでバッハを連想させます。人間の根源的な、体の中のパルスに音楽を寄せてくる所が僕は好きです。正確にソルフェージュを行いながら、本能の波長と合わせていく作業が求められます。
 オーケストラのメンバーとしっかり作り込んでいきたいです。彼らはとんでもない名演を皆様に届けてくれると思いますよ。ここ一番に強く、絶対やってくれるのが関西フィルの頼もしいところ!」と熱く語ってくれた。一期一会。このステージだけの奇跡のような贅沢な「四季」とチャレンジングな「春の祭典」を、しっかり目と耳に焼き付けたい。

文:磯島浩彰

【Information】
第62回 大阪国際フェスティバル2024
鈴木優人×関西フィル 二つの「四季」と「春の祭典」

6/12(水)19:00 大阪/フェスティバルホール


出演
鈴木優人(指揮) 関西フィルハーモニー管弦楽団
三浦一馬(バンドネオン)
成田達輝(ヴァイオリン)

曲目
ヴィヴァルディ「四季」+ピアソラ「ブエノスアイレスの四季」〈 編曲:鈴木優人・萩森英明 〉
(指揮・チェンバロ・ピアノ:鈴木優人、バンドネオン:三浦一馬、ヴァイオリン:成田達輝)
ストラヴィンスキー「春の祭典」

問:フェスティバルホール06-6231-2221
https://www.festivalhall.jp/events/2541/