トップオーケストラの音楽家たちはいったいどんな話をしているのだろう? 「ぶらあぼONLINE」特別企画としてスタートした「オーケストラの楽屋から」、今回は東京交響楽団の登場です。ゲストとしてお集まりいただいたのは、コンサートマスターの水谷晃さん、小林壱成さん、ヴィオラの青木篤子さん、クラリネットの近藤千花子さん、ホルンの大野雄太さんの豪華5名。奏者も、指揮者も、そしてオーケストラも、音楽もみんな生き物!そんな印象的な言葉が生まれた第3回。コンサートが一期一会だということを改めて感じるきっかけになるかも?
オーケストラの楽屋から
普段なかなか見ることのできないアーティストの素顔や生の声、意外な一面などを紹介していきます。音楽家としてだけでなく、“人”としての魅力をクローズアップし、クラシック音楽をより身近に、そして深く楽しんでもらいたい、そんな思いを込めたコーナーです。
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vol.3 奏者も音楽もみんな生き物!
水谷 ホールオペラってのがあったんですよ、ダ・ポンテ3部作をやった。
大野 もうすごい企画で、今でもやっぱり鮮烈に記憶してるね、あれは。
水谷 もう1回目のコジが衝撃的だった。コジ・ファン・トゥッテ、ドン・ジョヴァンニ、フィガロの結婚の順番だったかな。弦楽器は編成が小さいから皆参加したくて争奪戦になったもん。
近藤 そうなんだ。
水谷 まずコジは様子見って感じでみんな入ってて、それが良かったから、爆発的になって。じゃ次も! みたいな感じで。
青木 (笑)
小林 ノット監督のキャリアは歌劇場からスタートしてますもんね。
大野 彼のチェンバロがすごく面白い。
水谷・青木・近藤 そうなんだよ!
青木 よかったよねー。またニヤニヤしながら弾くんだよねー。
小林 (笑)
近藤 ドン・ジョヴァンニだったかな、1回歌手が落ちて(暗譜が一時的に飛んでしまうこと)。チェンバロ弾きながら楽譜指して、ここ、ここ!みたいな。
水谷 歌手も最高だから、落ちたとかじゃなくてその瞬間もドラマにしちゃう。
近藤 そうそうそうそう。
水谷 反則だよね(笑)笑いを取っちゃう。
近藤 こっちも笑っちゃうし、なんかすごく舞台に”参加してる” って感じ。。
水谷 そうそう、巻き込んで参加してる。
近藤 参加してるっていう意識だけど、でも今回はそれがサロメで、ハッピーじゃないからさ(笑)
水谷 どうなんだろうね。サロメで我々が参加する。
小林 まあでも、それはそれなりの違うスタンスでってことで。
大野 確かに。モーツァルトと違って遊びの部分がないでしょう。
青木 でもさ、英雄の生涯もやった、ドン・キホーテもやった。
水谷 この前はドン・ファンもやって。
青木 そう、なんか楽器を弾いてる感じじゃないよね。ノット監督とやってると。
水谷 そうね。
青木 歌わされてる、喋らされてる感じ。
近藤 喋ってる感じ。
青木 だから、その延長線上でいくのかなと思ってるんだけど。
水谷 わかる。僕も、この前ドン・ファン弾いてて、「あ、この延長線上にサロメがくるんだろうな」っていうのは思った。ほんとに響きが折り重なる感じで、ミューザも素晴らしい音響で重層的にミックスされてきて。
青木 マーラーのリハーサルでも、本当に色んなところから情報が聞こえてきて、それを全部崩壊するギリギリのところまで攻めさせて、でもちゃんとまとめるじゃないですか。あれがね…どうなってるんだろうなって。千手観音みたい。
水谷 でも最初はうまくいかなかったよね。
近藤 最初のシーズンですか?
水谷 僕すっごいヘコんで、人生間違えたと思ったもん。就任披露のマーラーの9番。あんな怖い指揮者いないと思った。
一同 あぁ…。うーん…。
水谷 第九もそうだったけど、ノット監督は同じ事はやらない。前にやったときはこうだったんだけど、今回は違うんだってこととかも言ってたもんね。アーティキュレーションとか本当はこうしたかったとか、バンベルクの素晴らしい録音があるのにも関わらず。
青木 「俺の過去の録音は聴くな」とか言ったこともあったね。
水谷 事前にノットの録音で勉強してきた感じが見られると怒るよね。自分だってアップデートされてるんだから、それでやってくれって。
青木 今の俺と向き合ってくれ、じゃないけど(笑)
一同 (笑)
水谷 就任披露マーラーの9番の前のダフクロ(ダフニスとクロエ)は乗ってたの?
近藤 うん、いたいた。
水谷 それがとんでもなかったんでしょう?
近藤 とんでもなかった!全員目がハートでしたよ。
青木 でも難しかった。こういうタイプの指揮者が私は初めてだったので。どうしていいかわかんなくって。だけどこの人と一緒にずっとやりたいなって。
一同 うんうん。
青木 私はダフクロでものすごく凹んだ。
小林 あぁ、やっぱり1回目はショックがあるんだ。
青木 もうこんなに弾けないのか自分って思って。
近藤 なんかこう、不甲斐ないっていう気持ちがあったけど…
青木 そう、不甲斐ない…!!
近藤 それも込みで、完璧にはできないけど…。それまで固めてない…
大野 わかるわかる。固めないって。
青木 関節がいつも柔軟な感じね。
近藤 あとはもう自由だから、みたいな。
青木 だから練習をそのまま持ってくる指揮者とは全然違う。
近藤 入ってくる時からなんか違う時とかあるよね。
青木 日によって違ったりするね。でも人間は日によって違うのは当たり前で、なんかそういう意味ですごく人間的だし、自分も生き物だし、オーケストラの一人ひとりも生き物だし、オーケストラも生き物だし、音楽も生き物っていうすごくそれを大切にしている人だから、楽!本当に楽!しんどいけど楽!何だろうこれ(笑)
大野 わかるなぁ、それは。例えばリハーサルの初日と2日目で言うこと違うと、何だよ言うこと違うじゃないかって楽員が結構カチンときたりするんだけど、ノット監督の場合は、まぁそれはそうだろうって(笑)
一同 (爆笑)
水谷 僕もものすごく監督を信頼してるんだけど、同時に信頼してないもんね(笑)あぁ、もうそう振る?絶対違うだろうなって思ってるもん。
大野 今日はそういうことねってね(笑)
水谷 でも、そうなるまでやっぱり時間かかったよね。それが多数派にならないとオケって動かないじゃん。
大野 確かに。
水谷 動いてる監督からなるべく遠ざかるって時期もあったし…。
近藤 あったね…
水谷 だけどそれを一人、一人、また一人って参加しだして、ようやくリヒャルト・シュトラウスのオペラまでできるかなっていうところまでなってるんだと思うんだよなぁ。
一同 (笑)
(vol.4へつづく)
水谷晃 Akira Mizutani
大分市生まれ。桐朋学園大学を首席で卒業。ヴァイオリンを小林健次氏、室内楽を原田幸一郎・毛利伯郎の各氏と東京クヮルテットに師事。
在学中Verus String Quartetを結成し松尾学術振興財団より助成を受け、イェール大学夏期アカデミー・ノーフォーク室内楽フェスティバルに参加。その後、第57回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第三位入賞。
2010年4月より国内最年少のコンサートマスターとして群馬交響楽団コンサートマスターに就任。2012年、同団での活躍が評価され、第9回上毛芸術文化賞を受賞。2013年4月より東京交響楽団コンサートマスター。2018年6月よりオーケストラアンサンブル金沢客員コンサートマスターを兼任。
桐朋学園大学非常勤講師。
小林壱成 Issey Kobayashi
1994年⽣まれ。東京藝術⼤学卒業。同⼤学院を経てドイツ・ベルリン芸術⼤学 ⼤学院修⼠課程修了。Gyarfas Competition (ベルリン)最⾼位受賞、在学中、 Symphonieorchster der UDK Berlin のコンサートマスターとしてヨーロッパ各国で演奏。幼少より篠崎史紀監督の⻘少年オーケストラ TJOSで活動し藝⼤にて師事。ドイツにてProf. M. Contzen、バイエルン放送響第1コンサートマスターA. Barakhovskyに学ぶ。また室内楽をアルテミス・カルテットに学ぶ。⻘⼭⾳楽賞新⼈賞、⽇本⾳楽コンクール他受賞多数。国内外の⾳楽祭出演はじめ、ヴェンゲーロフ、レーピン等著名⾳楽家と共演を重ねる他、各楽団のゲスト・コンサートマスターとして活躍。2017 より銀座王⼦ホールレジデント「ステラ・トリオ」メンバーとしての活動を開始。2021年4月より東京交響楽団コンサートマスター。
青木篤子 Atsuko Aoki
桐朋学園大学、同大学研究科を経て、洗足学園音楽大学ソリストコースにて学ぶ。ヴァイオリンを藤井たみ子、東儀幸、原田幸一郎の各氏に、ヴィオラを岡田伸夫氏に師事。第15回宝塚ベガ音楽コンクール、第2回名古屋国際音楽コンクール、第2回東京音楽コンクールにて、それぞれ第1位を受賞。倉敷音楽祭、ヴィオラスペース、サイトウキネンフェスティバル、東京のオペラの森等に出演。これまでにソリストとして東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団と共演している他、2012年にはオペラシティ主催リサイタルシリーズ「B→C」に出演。またヴェーラ弦楽四重奏団メンバーとしてベートーヴェンの弦楽四重奏ツィクルスに取り組むなど、室内楽の分野でも幅広く活動している。
近藤千花子 Chikako Kondo
東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、2005年東京芸術大学音楽学部を首席卒業。安宅賞、アカンサス音楽賞受賞。第78回日本音楽コンクール第2位。第22回日本木管コンクール第1位、聴衆賞。これまでにクラリネットを磯部周平、山本正治、村井祐児の各氏に師事。2013年アフィニス文化財団海外研修員として英国王立音楽院修士課程修了。在学中、クラリネットをクリス・リチャーズ、エスクラリネットをチーユー・モーに師事。ロンドン交響楽団に客演。
ブリティッシュスクールinTokyo、ドルチェアカデミー、ミュージックスクールDa Capo、洗足音楽大学、昭和音楽大学非常勤講師。東京交響楽団クラリネット奏者。
大野雄太 Yuta Ohno
山形県出身。山形大学教育学部卒業後に上京。東京藝術大学大学院在学中に新日本フィルハーモニー交響楽団入団。2011年東京交響楽団へ首席奏者として移籍。国内主要コンクールにおいて1位受賞などソリストとしても活躍。
「ホルンで奏でる紅白歌合戦」で全国各地にて公演を重ね、東日本大震災での慰問演奏などチャリティー活動にも力を入れている。日本ホルン協会常任理事。洗足学園音楽大学、東海大学講師。2児の父。PROWiND023、ナチュラルホルン東京メンバー。
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