クリスチャン・ツィメルマンが「高松宮殿下記念世界文化賞」受賞

クリスチャン・ツィメルマン

 第33回「高松宮殿下記念世界文化賞」(主催:公益財団法人日本美術協会)の受賞者が9月15日の記者会見で発表され、音楽部門にピアニストのクリスチャン・ツィメルマンが選ばれた。
 高松宮殿下記念世界文化賞は、日本美術協会の創立100周年を記念し1988年に設立。前総裁高松宮殿下の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」との遺志にもとづき、絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の各分野で世界的に顕著な業績をあげた芸術家に毎年授与される。

 各部門の受賞者は次の通り。

第33回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者
◎絵画部門:ジュリオ・パオリーニ(イタリア)
◎彫刻部門:アイ・ウェイウェイ(中国)
◎建築部門:妹島和世+西沢立衛/SANAA(日本)

◎音楽部門:クリスチャン・ツィメルマン(ポーランド/スイス)
◎演劇・映像部門:ヴィム・ヴェンダース(ドイツ)

 ツィメルマンは1956年ポーランド生まれで、スイス在住。1975年、18歳でショパン国際ピアノコンクールに優勝し、翌年ドイツ・グラモフォンアーティストの専属としてレコード・デビュー。以降、カラヤン、小澤征爾らと共演するほか、バーンスタインとは15年以上にわたり交流を深めた。
 1978年以来たびたび来日し、東京にも自宅を構えるほどの親日家としても知られる。昨年12月のサントリーホール公演は、日本での275回目の公演となった。「ピアニストは楽器に興味をもつべきだ」という考えのもと、調律や組み立てを自ら手がけるなどピアノのメカニズムや音響学にも精通している。

井上道義

 音楽部門選考委員の井上道義は、ツィメルマンについて「彼は平和を愛する人で、彼の音楽にもそういった願いが感じられます。クラシック音楽は書いた段階で完成ではなく、演奏されることによってできあがる。そうやって、過去が現在へと続いていく芸術。ツィメルマンは現在65歳、今後もたくさん日本で演奏してくれることを大変有り難いと思っています」と述べた。

左より:ジュリオ・パオリーニ (c)archivio Paola Ghirotti/アイ・ウェイウェイ Photo: Shu Tomioka/ヴィム・ヴェンダース Photo: Beata Siewicz

 また、他部門で、これまでにオペラの演出(アイ・ウェイウェイ)や舞台装置(ジュリオ・パオリーニ)を手がけた芸術家が受賞したことをうけ、「SANAAのお二人による金沢21世紀美術館では、10年以上音楽監督を務めたオーケストラ・アンサンブル金沢とたくさん演奏しましたし、閉館日には美術館を楽しむ音楽会を企画したことも。いつかお二人が手がけるコンサートホールができることを期待しています。美術家のパオリーニが《ワルキューレ》や《パルジファル》でオペラの舞台装置を作ったり、映画監督のヴェンダースが舞踏家・振付家のピナ・バウシュのドキュメンタリー映像を撮ったりしたように、分野を超えて一緒に作っていくチャンスが、日本でも今後多く生まれると思いますし、そうであってほしい」と期待を語った。

中央:西沢立衛 右:妹島和世

 併せて発表された第25回「若手芸術家奨励制度」の対象団体は、クロンベルク・アカデミー財団(ドイツ)が選ばれた。

ギドン・クレーメルとリハーサルを行う岡本誠司ら学生 クロンベルク市民会館のリハーサル室にて 2022年
Kronberg Academy (c)Patricia Truchsess von Wetzhausen

 「クロンベルク・アカデミー」は、チェロの巨匠パブロ・カザルスの遺志を継ぎ、カザルスの未亡人マルタ・カザルス・イストミンと、チェリストのロストロポーヴィチとともに1993年に設立された。この文化機関では、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノの新進気鋭奏者を育成するため、3〜4年間、世界文化賞受賞者のギドン・クレーメルやダニエル・バレンボイムのほか、今井信子、アンドラーシュ・シフといった最高峰の音楽家による指導のもとで学ぶ。2021年のARDミュンヘン国際音楽コンクールで優勝を果たしたヴァイオリンの岡本誠司が2019年から在籍し、これまでの卒業生64名にはチェロの宮田大など第一線のアーティストが名を連ねる。来年6月には、初の日本公演がサントリーホールで行われる予定。

 この2年、コロナの影響で見送られていた受賞式典および関連行事は、3年ぶりに開催される。5部門の受賞者には、それぞれ顕彰メダルと感謝状、賞金1500万円、若手芸術家奨励制度では奨励金500万円が贈られる。

高松宮殿下記念世界文化賞
https://www.praemiumimperiale.org