
近衞という名に、オールドファンなら「グラーフ(伯爵)近衞秀麿」を思い出さぬわけにいくまい。ましてやその曾孫で、今上天皇ゆかりの楽器たるヴィオラの若き名手となれば、「日本期待の」と言いたくもなろう。
だが、20世紀も終わろうとするオランダに生まれ、日本を知らずに育った音楽一家・近衞の四代目・剛大は、名家の重圧など微塵も感じていまい。第1次大戦後のベルリンを出発点に激動の欧州を駆けた曾祖父は、遙か神話の存在。4歳からヴァイオリンを学び、双子の姉(麻由)と自宅で二重奏。やがて積極的に室内楽を志望し持ち替えたヴィオラも、独奏コンクールで確かな才能を示す。その一方で、小澤征爾が設立したスイスの室内楽アカデミーに参加。世界からの室内楽仲間と知り合っていく。伝統的弦楽四重奏に真剣に取り組み、やがて新たな可能性を探る開拓者の道を選択。コロナ禍明けの大阪国際室内楽コンクールでは、ピアノ付き室内楽部門初のピアノ四重奏で優勝に輝く。オーケストラ奏者としても、曾祖父が日本人として初めて指揮したベルリン・フィルは、アカデミー学生として指導を受ける自分本来の居場所のひとつだ。
そんな若き近衞が、己の楽器ひとつを肩にTOPPANホールのステージに立つ。大バッハは音楽の普遍性の証、そしてヒンデミットはホームベースたるベルリンの大先輩。4代目にして、“Konoe”にとって欧州は遙かな異国ではなく、故郷となった。
文:渡辺 和
(ぶらあぼ2026年6月号より)
ランチタイムコンサート Vol.140 近衞剛大(ヴィオラ)
2026.7/27(月)12:15 TOPPANホール(完売)
問:TOPPANホールチケットセンター 03-5840-2222
https://www.toppanhall.com
