INTERVIEW 藤岡幸夫(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 首席客演指揮者)

真夏の川崎をさらに熱くする、熱狂の午後になりそう。「フェスタサマーミューザKAWASAKI 2026」で東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団を率いるのは、首席客演指揮者の藤岡幸夫だ。「情熱のスパニッシュ・プログラム!」と銘打ち、メインにはファリャのバレエ音楽《三角帽子》の全曲を藤岡による解説付きで贈る。新星ディーヴァ、野々村彩乃もフィーチャーするエキサイティングなステージの聴きどころを、藤岡に聞いた。
今回のプログラムについて、藤岡は「大きなテーマが二つある」と切り出した。
「まず一つはね、野々村彩乃さんというすごいソプラノにチャンスを作りたいということ。彼女、高校生だった2010年に春の甲子園の開会式で《君が代》を歌った動画が400万回以上再生されていて、僕も最初それで知ったんです。『この子、素晴らしい声だな!』と思っていたんですが、いろんな事情があってクラシックとは少し離れた方向に行っていた。
もったいないなと思っていたら、一昨年《第九》で初めてご一緒する機会があって、やっぱりもうすごい声なんですよ。『クラシックに戻っておいでよ! 僕が仕事を作るから』って約束したんです」

その言葉どおり、藤岡は昨年2月の都民芸術フェスティバルの東京シティ・フィルの公演に彼女を抜擢した。
「プッチーニのアリアを3曲歌ってもらったら、もう拍手が鳴りやまないんです。ブラボーの嵐。カーテンコールが延々と続くので、『アンコール歌ったら?』と声をかけて、ア・カペラで《からたちの花》を歌ったらすごかった。『題名のない音楽会』のプロデューサーも後で録音を聴いてびっくりしちゃって、3ヶ月後にはもう番組に出演したくらい。もっと認められていいし、これから人気が出てくると思いますよ。
僕は若い才能を引き出すのは使命だと思っているから、今回もサマーミューザで大きなチャンスを作りたい。ぜひ聴いてほしいディーヴァです」
今回スペイン・プログラムを選んだのも、彼女が歌うからだ。
「彼女の声はソプラノとしては比較的低めの音域も充実しているので、スペインものにもすごく合うんです。それにスペイン音楽には夏っぽい熱い作品がたくさんあるので、夏のサマーミューザにぴったりじゃないですか!」
スタッフによれば、「野々村さんに出演してもらえるなら」というのが、このスペイン・プログラムを構想する出発点だったという。藤岡がそれほど大きく期待を寄せる彼女は、コンサート前半で、ビゼー《カルメン》から〈ハバネラ〉、ドリーブの歌曲《カディスの娘たち》、ルペルト・チャピの代表作であるサルスエラ《セベデオの娘たち》のアリア〈囚われ人の歌〉を披露。また後半の《三角帽子》でも、2箇所だけ登場する短い歌唱部分を、省略せずにオリジナルどおり、彼女が歌う。
そしてその《三角帽子》こそ、藤岡が挙げるもう一つのテーマだ。
「《三角帽子》全曲、めちゃくちゃいい曲なんですよ。ところが《ロメオとジュリエット》や《白鳥の湖》とちがって、ストーリーを知っている人が少ないですよね。何も説明しないで演奏しても、面白さがいまいち伝わらない。だから全曲を始める前に、オーケストラに実際に演奏してもらいながら、場面ごとの聴きどころを紹介するんです。それだけで聴き映えが全然違うんですよ」
《三角帽子》の魅力を尋ねると、「単純なアホらしさ!」と笑う。
「粉屋のきれいな奥さんを誘惑しようとする悪い代官をみんなでやっつけるという話なんだけど、とにかくコミカルなんです。極めつきは、奥さんを誘惑された粉屋が復讐しに行く場面。復讐だから、普通なら激しい音楽になりそうでしょう? でも笑い出したくなるような音楽なんです。復讐とか恨みとか、そういうものも全部笑いにしてしまう。そこがこの作品の本質だと思うんです。
ファリャのオーケストレーションはわりとシンプルなんですけど、スペインのリズムを際立たせています。今の日本のオーケストラはキレが良くてリズミックだから、その面白さを存分に味わえるはずです。物語を知ったうえで聴くと、本当に楽しいし、エキサイティング。ベテラン・ファンの人にも、あらためて《三角帽子》を知ってもらうチャンスだと思っています」
プログラム全体は、スペインのファリャと、ビゼー、シャブリエ、ドリーブらフランスの作曲家による“スペイン音楽”が対置されたような構成にも見える。
「あくまでコアはファリャ。スペイン人とかフランス人とかはそれほど意識せずに、スペインっぽい曲を集めました。でも確かに、スペイン人作曲家によるスペイン風の管弦楽曲って、じつは案外多くないですよね。むしろフランスの作曲家たちのほうがスペイン風の作品を書いている。だから自然とこういう構成になりました」
では、そのスペイン音楽の魅力とは何なのか。
「フランスもラテン系の民族だけど、すごくおしゃれで洗練されている。でもスペインはもっと土臭いんです。それが魅力ですね。音楽も、とてもリズミックだし、情熱的。夏っぽくて、サマーミューザにすごく合ってると思います。
ただ、『藤岡は情熱的な指揮者だ』と言われることが多いかもしれませんが、実際に演奏を聴いてくれた方はわかると思うけど、ピアニッシモで勝負するタイプなんです。静かなところをしっかり作る。そのうえで熱いところは誰にも負けないつもりで熱くやる。両方のバランスが大事ですよね。
今回は旋律とリズムが魅力的な曲ばかりですし、オーケストラって楽しいんだよ、ということを理屈抜きに味わってもらえると思います。そこに解説が入るから、絵本を読むみたいに音楽を楽しめる。夏休みの子供たちにも絶対面白いと思いますよ」

2019年から首席客演指揮者を務める東京シティ・フィルとの関係も、今まさに最高の状態にあるという。
「めちゃくちゃ素晴らしい。常任指揮者の高関健さんのおかげで、本当にいいオーケストラになっています。僕のやりたいことにも120%で応えてくれる。パワフルだしアンサンブルもしっかりしているから、一緒にやっていて本当に楽しいです。
じつはこの実演解説付き《三角帽子》は、以前にティアラこうとうの定期演奏会でも一度やっていて、大好評だったんです。だから『もう一回やろう!』ということになった。その時もオーケストラの盛り上がりがすごかったですけど、ミューザ川崎は音響が抜群に素晴らしいですからね。オーケストラの魅力をさらに堪能できる、これ以上ない舞台になります。
もう文句なしで楽しめるはず。ぜひ会場に来て、体中が熱くなる情熱のスペインを思いきり味わってください!」
取材・文:宮本明
フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2026
2026.7/25(土)~8/11(火・祝)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
情熱のスパニッシュ・プログラム!
8/5(水)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
(14:00開場/14:20~プレトーク)
出演/
指揮:藤岡幸夫
ソプラノ:野々村彩乃
曲目/
ビゼー:歌劇『カルメン』から 第1幕への前奏曲 ― ハバネラ
シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
ドリーブ:カディスの娘たち
ファリャ:バレエ音楽『恋は魔術師』から「火祭りの踊り」
チャピ:サルスエラ『セベデオの娘たち』から「囚われ人の歌」
ファリャ:バレエ音楽『三角帽子』(全曲・解説付き)
問:ミューザ川崎シンフォニーホール 044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/
特集:フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2026
22回目となる真夏のオーケストラの祭典、フェスタサマーミューザKAWASAKI 2026の季節がやってくる。合言葉は「百花“響”乱!」。18日間にわたり、首都圏9つのオーケストラに、仙台フィルが加わった10団体が、豪華指揮者陣のもと、様々なプログラムで競演を繰り広げる。
オープニングを飾るのは、創立80周年を迎える東京交響楽団の第4代音楽監督に就任したロレンツォ・ヴィオッティ。そして、大野和士、佐渡裕、高関健、セバスティアン・ヴァイグレといった楽団を代表するベテラン指揮者。さらに大巨匠・小林研一郎に、フィナーレといえばこの人、原田慶太楼など、豪華な顔ぶれが続々登場する。他にも恒例の「サマーナイト・ジャズ」や「真夏のバッハ」、小川典子の「イッツ・ア・ピアノワールド」など人気企画も充実。満足度96%の音楽祭を満喫しよう!


