元日の風物詩といえばウィーン・フィルのニューイヤーコンサートだ。1939年に始まった同コンサートは、音楽の都ウィーンを象徴するシュトラウス一家のワルツやポルカを中心にしたプログラムを、世界最高峰オーケストラの一つ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が、当地が誇る黄金の間=ムジークフェラインザールで演奏する、新年恒例のイベント。1959年から始まったテレビ中継によって一躍世界に広まり、今や世界90ヵ国以上で約5000万人が視聴するワールドワイドなコンサートとなっている。日本での人気も抜群に高く、多数のファンが現地や放送で公演を楽しんでいる。また同様のコンサートが多数開かれ、超速リリースされるライブCDでその雰囲気を味わう人も少なくない。
当コンサートは、創設者クレメンス・クラウス、ヴァイオリンの弾き振りで印象を決定付けたヴィリー・ボスコフスキー、さらにはロリン・マゼール等が長く指揮を受け持ってきたが、1987年の帝王カラヤンからは大指揮者の交代制となり、アバド、カルロス・クライバー、メータや、2002年に社会現象を巻き起こした小澤征爾等のビッグネームが次々に出演。当公演を受け持つことが大指揮者の証にさえなっている。
そして2025年の指揮はリッカルド・ムーティ。言わずと知れた現役最大級の巨匠だ。1941年ナポリ生まれの彼は、フィラデルフィア管、ミラノ・スカラ座、シカゴ響等、世界トップ級の団体のポストを歴任し、ベルリン・フィル等にも再三客演。ウィーン・フィルとは1971年の初共演以来、定期演奏会やオペラ、ザルツブルク音楽祭の公演、世界各地へのツアー等で500回以上共演を重ね、50年以上にわたって特別な関係を築いている。
ニューイヤーコンサートにも1993、1997、2000、2004、2018、2021年に出演し、今回は4年ぶり7回目の登場。これは、形態が変わったカラヤン以降および現役指揮者では最多の回数となり、ウィーン・フィルの信頼度の高さを実証している。しかも2025年は当コンサートの中軸をなす“ワルツ王”ヨハン・シュトラウスII世の生誕200年。すなわち“記念イヤーに満を持して真打ち登場”と言って間違いない。
プログラムは当然ヨハン・シュトラウスII世の作品が中心。このほか、父のヨハン・シュトラウスI世、弟のヨーゼフ、エドゥアルトの作品も演奏されるなど、改めてシュトラウス一家を見直す内容となっている。
その中で注目されるのが、女性作曲家の作品が初めて取り上げられること。それはコンスタンツェ・ガイガー(1835~1890)の「フェルディナントのワルツ」だ。ウィーン生まれのガイガーは、6歳でコンサートに出演するなど天才少女ピアニストとして話題を呼び、作曲家(9歳で作品が初演奏されたという)のほか、女優やソプラノ歌手としても活躍した才人。世の流れやウィーン・フィルに女性団員が増えた現況に相応しいセレクトだが、現在その作品を耳にする機会はまずないので、今回の演奏は極めて興味深い。
また、ヨハン・シュトラウスII世のオペレッタ《ジプシー男爵》序曲や「加速度ワルツ」といったかつてクライバーやカラヤンが伝説的名演を残した作品が、ムーティのタクトでどう表現されるのか? 興味津々だし、ガイガー作品以外で当コンサート初演奏となるヘルメスベルガーII世のオペレッタ《すみれ娘》序曲への期待も大。もちろん「美しく青きドナウ」「ラデツキー行進曲」が続く締めくくりもお約束の楽しみとなる。
2025年に84歳を迎えるムーティだが、2024年に二度来日し、ヴェルディのオペラ《アイーダ》《アッティラ》で超絶的名演を残している。なかでも後者では、長期間のアカデミーを精力的にこなし、実演でも生気と熱気に満ちた音楽を生み出すなど元気一杯。今回も持ち前の情熱とカンタービレに溢れた音楽、リズムが軽妙に弾んだ溌剌たる演奏を聴かせてくれるであろうし、前回2021年がコロナ禍で無観客だったがゆえに、聴衆を前により一層力のこもったパフォーマンスが展開されるに違いない。
文:柴田克彦
【Information】
ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート
ウィーンから生中継!!新年の喜びをウィンナ・ワルツとポルカで!
Eテレ 2025.1/1(水)19:00~
NHK FM 2025.1/1(水)19:15~
(再)Eテレ 2025.1/11(土)14:00~
指揮:リッカルド・ムーティ 管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ゲスト:夏木マリ、ダニエル・フロシャウアー(ウィーン・フィル楽団長)
司会:林田理沙アナウンサー
[演奏予定曲目]
ヨハン・シュトラウスI世:自由行進曲 op.226
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「オーストリアの村つばめ」 op.164
ヨハン・シュトラウスII世:ポルカ・フランセーズ「取り壊しポルカ」 op.269
ヨハン・シュトラウスII世:入り江のワルツ op.411
エドゥアルト・シュトラウス:ポルカ・シュネル「軽やかに、かぐわしく」op.206
ヨハン・シュトラウスII世:喜歌劇《ジプシー男爵》序曲
ヨハン・シュトラウスII世:ワルツ「加速度ワルツ」op.234
ヨーゼフ・ヘルメスベルガーII世:オペレッタ《すみれ娘》から「愉快な兄弟」
コンスタンツェ・ガイガー(W.デルナー編):フェルディナントのワルツ op.10
ヨハン・シュトラウスII世:ポルカ・シュネル「あれかこれか!」op.403
ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「トランスアクツィオン」op.184
ヨハン・シュトラウスII世:アンネン・ポルカ op.117
ヨハン・シュトラウスII世:「トリッチ・トラッチ・ポルカ」op.214
ヨハン・シュトラウスII世:ワルツ「酒・女・歌」op.333
他、アンコール曲を予定
(表記は日本ヨハン・シュトラウス協会に準拠)