大阪を本拠地とする4つのオーケストラ、大阪交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、日本センチュリー交響楽団による2025-2026シーズンプログラム共同発表会が11月28日、豊中市立文化芸術センターで行われ、各団体の事務局から代表者が出席した。
上記4団体による共同発表会は2018年にはじまり今年で7回目の開催。冒頭、今回のホスト楽団である日本センチュリー響のメンバーがモーツァルトのクラリネット五重奏曲 K.581の第1楽章を披露。華やかな雰囲気につつまれ発表会はスタートした。
大阪交響楽団
まず、2022年に就任した3人の指揮者、山下一史(常任指揮者)、柴田真郁(ミュージックパートナー)、髙橋直史(首席客演指揮者)の任期をそれぞれ3年間、28年3月末まで延長することが発表された。
1980年に「大阪シンフォニカ—」として創立された同楽団。新シーズンの主催公演・定期演奏会と名曲コンサートを「創立45周年記念シリーズ」と銘打ち、定期演奏会は全8公演、名曲コンサートは全3公演(今季までの1日2公演から1日1公演に変更)を開催する。
会見では指揮者3人からのビデオメッセージが上映された。
山下は定期演奏会に3回登場する。
「シーズン最初の定期演奏会(4/25)では、今季ソロコンサートマスターに就任した林七奈さんのお披露目として、モーツァルトのディベルティメント第17番とセレナード第7番 ニ長調『ハフナー』(ヴァイオリン独奏:林)を演奏します。林さんの統率力と、我々が練り上げるアンサンブルをぜひ聴いていただきたいです。9月にはヴェルディ『レクイエム』を取り上げます(9/28)。柴田真郁さんは演奏会形式のオペラ、僕は合唱と共演する作品を指揮しますが、“歌心”をテーマに始まったこの指揮者体制がさらに充実していくと思います」
山下は、音楽監督を務める千葉響と合同でマーラーの交響曲第5番を演奏する第285回(26.1/30)でもタクトをとる。
柴田は今季のヴェルディ《運命の力》に続き、新シーズンでは池辺晋一郎の《耳なし芳一》を演奏会形式で上演する(26.2/22)。
「今回は少し演技を付けてお届けしたいと考えています。渡辺康さんが歌う芳一は、日本語を捌きつつ音域が乱高下する大変な役ですが、聴きどころの一つです」
ドイツ・エルツゲビルゲ歌劇場の音楽総監督を務めるなどヨーロッパで長く活躍してきた髙橋。来季の定期演奏会は『モーツァルティアーナ』(6/17)、名曲コンサートでは『音楽と美術』(26.1/18)をテーマに選曲したという。『モーツァルティアーナ』ではフルート協奏曲の独奏にウィーン・フィルの首席奏者ワルター・アウアーを迎える。
その他、ハノーファー州立歌劇場第2カペルマイスターを務める熊倉優とミュンヘン・フィルのコンマス青木尚佳の共演(7/10)、大阪府出身で、現在はハレ管弦楽団のアシスタント指揮者を務めるユアン・シールズ(11/27)、千葉響との合同演奏会でモーツァルトのピアノ協奏曲第20番を披露する髙木竜馬(26.1/30)と若手の登場も見逃せない。
大阪フィルハーモニー交響楽団
2018年から音楽監督を務める尾高忠明の任期を3年間延長し、28年3月末まで現在のポストを担うことが発表された。27年の楽団創立80周年に向けてさらなる楽団のさらなる進化を目指す。
新シーズンの目玉は就任初年度にも取り組んだベートーヴェン・チクルス。25年9月から26年2月まで、尾高の指揮で5公演を行う。創立名誉指揮者の朝比奈隆と何度も演奏し、現桂冠指揮者・大植英次が音楽監督の時代にも披露してきた、同楽団が“近代オーケストラのバイブル”と位置付ける特別な作品群だ。大阪フィルはダイナミックなサウンドが持ち味だが、尾高とはこれに加え繊細な表現も磨いてきたという。7年間の成果を披露し、さらに音楽的な足腰を鍛えたいという思いがこのチクルスに込められている。
尾高は他にも、フェスティバルホールで行われる定期演奏会に3回登場。エルガーのオラトリオ「ゲロンティアスの夢」一本勝負の第587回(25.4/11, 4/12)、同じく交響曲第3番をメインに据える第595回(2026.2/13, 2/14)などエルガーを集中的に紹介する。
一方、新シーズンからは指揮者のポストに松本宗利音(しゅうりひと)が就任する。大阪府豊中市出身の松本は東京シティ・フィルの指揮研究員、札響の指揮者を務めるなど着実にキャリアを重ねている俊英。発表会には動画でコメントを寄せた。
「東京藝大在学時、尾高さんのもとで指揮を学びました。師と同じオーケストラで仕事ができることを大変感慨深く感じています。演奏する際、作品を書いた作曲家、そして一緒に演奏する仲間に対して真摯であることを最も大切にしています。いろんな角度から大阪フィルの魅力をお伝えしていきたいです」
松本は、ビゼーの交響曲第1番、ロドリーゴ「アランフェス協奏曲」(ギター独奏:ティボー・ガルシア)ほかを振るザ・シンフォニーホールでの平日午後の「名曲シリーズ」(10/1)などで登場予定。
今季からアーティスト・イン・レジデンスを務めているウィーン・フィルの首席クラリネット奏者 ダニエル・オッテンザマー。来季は住友生命いずみホール特別演奏会で、ベルリン・フィルのメンバーでもあるシュテファン・コンツ(チェロ)、ウィーン国立音大で教鞭をとるクリストフ・トラクスラー(ピアノ)とともにベートーヴェンの三重協奏曲でソロを担う(7/3)ほか、モーツァルトの協奏交響曲のヴィオラ・パートも務める(ヴァイオリン独奏:ソロ・コンサートマスター崔文洙(チェ・ムンス))。その他トーマス・ダウスゴーが登壇する定期演奏会ではニールセンの協奏曲を吹く(9/26,9/27)。
客演では、今季体調不良により共演が叶わなかったシャルル・デュトワに加え、ウラディーミル・フェドセーエフといった巨匠や、都響、群響などとの共演でも高い評価を得るデイヴィッド・レイランド、パリ管、バイエルン放送響など名門への客演経験を持つダンカン・ウォードなど注目の若手も登場する。
関西フィルハーモニー管弦楽団
先日、新シーズンからの指揮者体制変更を発表した関西フィル。新たに総監督・首席指揮者に就く藤岡幸夫からコメント動画が寄せられた。藤岡には、同楽団の音楽性の向上のほか、会員数の増加、スポンサーの獲得など経営面でも大きな期待が寄せられている。
「関西フィルとはこれまで25年間、毎年約40公演で共演しながらともに成長してきました。新たなポストへの就任については、オーケストラと関西の皆様に恩返しをする立場になったと理解しています。音楽面では、昨年から積極的に取り組んできたマーラーをこれからも毎年取り上げ、編成の大きな作品での合奏能力を高めたい。
関西フィルはこれまでデュメイ監督のもと2回の海外公演を実施しましたが、今後は国内の演奏旅行を定期的に行いたいと思っています。また、若い音楽家にチャンスを与える企画、新しい作品の紹介にもこれまで以上に力を注いでいきます」
藤岡は定期演奏会に3回登壇。マーラー6番(第357回 7/11)、ヴェルディ「レクイエム」(第359回 10/4)と王道の名曲を振るほか、シーズン最初の第354回(4/29)では、神尾真由子をヴァイオリン独奏に迎えるヴォーン・ウィリアムズ「揚げひばり」、プロコフィエフの協奏曲第1番に加え、吹奏楽のレパートリーとしても知られる伊藤康英の交響詩「ぐるりよざ」の管弦楽版などを披露する。
会見では、新設されたアーティスティック・パートナーに就くマカオ出身の新鋭リオ・クオクマンからのメッセージも紹介された。関西フィルとの初共演は2017年。急な代役を引き受けての来日だったという。
「初共演では、このオーケストラのポジティブなエネルギーと音楽に向きあう真摯な姿勢を感じ、私にとって忘れがたいコンサートの一つになりました。これから関西フィルと親密に関われることを大変光栄に思います」
クオクマンは定期演奏会でオール・ロシア・プログラムを披露。コンサートマスター木村悦子が独奏を務めるリムスキー=コルサコフ「シェエラザード」のほか、ラフマニノフ「パガニーニ狂詩曲」では2022年のジュネーヴ国際音楽コンクールで第3位に入賞した五十嵐薫子をピアノ独奏に迎える(第356回 6/22)。
2011年から音楽監督を務めるオーギュスタン・デュメイは名誉指揮者に就く。第360回(11/7)では、21年のエリザベート王妃国際コンクールで優勝したジョナタン・フルネルがソリストを務めるベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番、モーツァルトの交響曲第29番、ブラームス「ハイドンの主題による変奏曲」を指揮する。
首席客演指揮者の鈴木優人とは27年のベートーヴェン没後200年へ向けた新企画を始動。「ベートーヴェン・ヒストリー」と題し、1年に3公演ずつ、3年間で計9回の演奏会を行い楽聖の生涯を辿る。来季の各演奏会では交響曲とピアノ協奏曲がカップリングされ、上原彩子、川口成彦、阪田知樹がソリストとして登場しフォルテピアノを奏でる。
客演陣では、小林研一郎、高関健ら日本の名匠のほか、かつてエベーヌ弦楽四重奏団でヴィオラ奏者を務めたマテュー・ヘルツォーク、ロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席オーボエ奏者でもあるアレクセイ・オグリンチュクという最高峰の器楽奏者が振るタクトにも注目したい。
日本センチュリー交響楽団
今季限りで首席指揮者の飯森範親が退任することに伴い、来季からは現首席客演指揮者の久石譲が音楽監督に就任。共同発表会では、10月に行われた記者会見での久石のコメントが紹介された。
「日本センチュリー響は小編成のいわゆる室内オーケストラ。演奏する作品が偏ってしまわないように編成を拡大することも考えましたが、今の編成を維持することに決めました。日本ではドイツの重厚な音楽が“オーケストラ”と言われることもありますが、小編成での演奏は世界的にも主流になってきていると思いますし、古楽器、ピリオド奏法などを用いた解釈もどんどん広がってきています。大編成のオーケストラは車に例えるとダンプカー。室内オケはスピード感、切れ味が持ち味のスポーツカーなんです。日本センチュリー響はそんな演奏が実践できる。この道を究めると世界への道が見えてくると感じています。
新シーズンのプログラムはすべて、1950年以降に作曲された作品とベートーヴェンの交響曲がカップリングされるように各指揮者にオーダーしました。定期演奏会以外も含めて、1年でベートーヴェンの交響曲全曲を演奏します」
全8回の定期演奏会のうち、久石は3回登壇。そのすべてでベートーヴェンと自作曲を組み合わせるが、注目は第295回(26.1/17)で披露するハープ協奏曲。11月にロサンゼルス・フィルで自らの指揮で初演したばかりの新作だ。ソリストは初演時と同じくロサンゼルス・フィルのハープ奏者 エマニュエル・セイソンが務める。
豊中市立文化芸術センターで年に4回行われる「センチュリー豊中名曲シリーズ」。新シーズンはテーマを「花鳥風月」とし、自然をモチーフとしたプログラムが組まれた。指揮者・ソリストには注目の若手が多数登場する。11月に行われた浜松国際ピアノコンクールで日本人初となる優勝に輝いた鈴木愛美(大阪府箕面市出身)、Youtuberとしても活動する俊英ギタリスト猪居亜美、ハチャトゥリアン国際コンクールでの優勝以降躍進を続ける出口大地(豊中市出身)、第39回日本管打楽器コンクール トランペット部門で最年少優勝を果たした児玉隼人、カルテット・アマービレのメンバーとしてミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第3位に入賞した経験を持つ同楽団の客員コンサートマスター篠原悠那ら豪華な顔触れだ。
記者発表会では、大阪の春の風物詩となっている合同演奏会「大阪4オケ」の概要も公開された。2025年は、関西万博の開催にちなみ、各オーケストラが万博をテーマに選曲した2作品を披露する。
取材・文:編集部
第63回大阪国際フェスティバル2025
大阪4オケ 2025
2025.5/10(土)14:00 大阪/フェスティバルホール
尾高忠明(指揮) 大阪フィルハーモニー交響楽団
武満徹:「波の盆」組曲
ブリテン:歌劇《ピーター・グライムズ》より〈4つの海の間奏曲〉
鈴木優人(指揮) 関西フィルハーモニー管弦楽団
萩森英明:東京夜想曲
バーンスタイン:『ウェスト・サイド・ストーリー』より「シンフォニック・ダンス」
山下一史(指揮) 大阪交響楽団
外山雄三:管弦楽のためのラプソディ
R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
久石譲(指揮) 日本センチュリー交響楽団
久石譲:Adagio for 2 Harps and Strings
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1945年版)
問:フェスティバルホール チケットセンター06-6231-2221
https://www.festivalhall.jp