第24回佐治敬三賞に山本昌史(コントラバス)のソロコンサート、田中悠美子(義太夫三味線)のリサイタル

3月24日、指揮者の山田和樹が第56回(2024年度)サントリー音楽賞を受賞した。同賞は、公益財団法人サントリー芸術財団(代表理事:堤剛、鳥井信吾)が、日本における洋楽の発展に顕著な業績をあげた個人または団体を顕彰し、贈呈している。賞金は700万円。
山田は2009年の第51回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し一躍注目を集めた。その後、BBC響を指揮してヨーロッパ・デビューを果たしたのを皮切りに、スイス・ロマンド管の首席客演指揮者(2012年~18年)、モンテカルロ・フィル芸術監督兼音楽監督(2016年~)、バーミンガム市響首席指揮者兼アーティスティックアドバイザー(23年4月~)、同音楽監督(24年5月~)を務めるなど、急速に海外での活躍の場を広げてきた。日本では、学生時代に創設した横浜シンフォニエッタの音楽監督、読響首席客演指揮者(2018年~24年)、東京混声合唱団音楽監督兼理事長等として活動、26年4月より東京芸術劇場の芸術監督(音楽部門)への就任が予定されている。
さらに、昨年はシカゴ響、ニューヨーク・フィルに初登場したほか、今年6月にはベルリン・フィルへのデビューが予定されており、相次ぐ世界的名門への客演でも注目を集めている。なお、ベルリン・フィルの後にはバーミンガム市響との日本ツアーが控えている。
【サントリー音楽賞 贈賞理由】
山田和樹がブザンソン国際指揮者コンクールで優勝したのは2009年。小澤征爾が同コンクールで優勝してからちょうど50年後だった。そして2024年2月9日。山田はサントリーホールで読売日本交響楽団の定期演奏会を振った。曲目はバルトーク《弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽》、武満徹《ノヴェンバー・ステップス》、ベートーヴェンの交響曲第2番。明らかに小澤の得意レパートリーに基づく選曲で、1曲目をヒンデミットの交響曲《画家マチス》に取り換えれば、小澤が1967年11月にニューヨーク・フィルハーモニックの定期演奏会で《ノヴェンバー・ステップス》を世界初演したときのプログラムになる。まずバルトークがヴィヴィッドかつ精緻。休憩を挟んで武満に。舞台に現れた山田は急に客席に語りかけた。小澤征爾が2月6日に亡くなったと。その情報解禁は9日19時。コンサートの開演時間だった。それからの武満での湿気漂うしなやかさ、ベートーヴェンでの大胆な畳みかけ。見事だった。
事実は小説よりも奇なり。小澤に挑むかのように用意されたコンサートがそのまま追悼演奏会に。もちろんこれは偶然だ。ここで問題とすべきは2024年までの四半世紀にわたる山田の道程である。若き頃から覇気に富んだ躍動感で聴き手を魅了させてきたものの、天稟の気質に任せて閃きに頼るところもなくはなかった。が、年輪を重ねるとともに構想力とスケール感が膨らんできた。しかもその構想力は多分に奇想を孕む。常套を打ち破る楽曲解釈。意表を突く音色作り。この手があったかという楽器の配置。創意工夫がよく嵌る。その上にいざという時のドライヴ感の凄まじさといったら!瞬発力に耳が驚く。そんな山田の魅力は、5月のモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演での、ベルリオーズ《幻想交響曲》とサン=サーンスの交響曲第3番《オルガン付き》でも炸裂した。
さらに言えば、東京混声合唱団の音楽監督としての仕事がまた重要だ。合唱指揮者としてもオーケストラ指揮者としても、決して手を抜くことなく、レパートリーに工夫を凝らして、ひとりでも多くの聴衆を獲得しようとする貪欲さは、クラシック音楽が生き抜いていくための大きな指針ともなるだろう。今後への大きな期待を込めつつ、サントリー音楽賞を贈る。
(片山杜秀委員)
日本国内で実施された音楽を主体とする公演の中から、チャレンジ精神に満ちた企画で、かつ公演成果の高い優れた公演に贈られる佐治敬三賞も同日に発表された。第24回(2024年度)は、「山本昌史コントラバス・ソロ-The Unplugged Theatre-」と「田中悠美子リサイタル2024~義太夫三味線の音響世界」が選出された。賞金は各100万円。


また、第35回(2024年度)芥川也寸志サントリー作曲賞のノミネート3作品もあわせて発表された。同賞は、戦後のわが国を代表する作曲家・芥川也寸志(1925~89年)の功績を記念し、サントリー音楽財団が創設。第35回は、2024年1月1日から同年の12月31日までの間に国内外で初演された日本人作曲家の管弦楽作品が対象で、譜面と初演録音による選考を経て、ノミネート作品が選定された。選考委員は、伊左治直、小出稚子、安良岡章夫の3名。選考演奏会は今年8月にサントリーホールで行われる。
第35回芥川也寸志サントリー作曲賞ノミネート作品
斎藤拓真:「アンティゴネーとクレオン」ソプラノ、アンサンブル、エレクトロニクスのための(2024)
初演=2024.9/27
パリ国立高等音楽院レミ・フリムランホール
パリ国立高等音楽院作曲科修了演奏会 第二部
廣庭賢里:「The silent girl(s)」ピアノと室内オーケストラのための(2024)
初演=2024.6/11
東京藝術大学音楽学部第6ホール
ジョルト・ナジ特別招聘教授「第6回作曲科ワークショップ2024」
松本淳一:「空間刺繍ソサエティ」(2024)
初演=2024.11/7
NHKホール
第93回日本音楽コンクール作曲部門本選会



文:編集部
写真提供:サントリー芸術財団
【Information】
第35回芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会
2025.8/30(土)15:00 サントリーホール
出演
指揮/杉山洋一
管弦楽/新日本フィルハーモニー交響楽団
ユーフォニアム/佐藤采香
エレキギター/藤元高輝
ほか
公開選考会
司会/長木誠司
選考委員/伊左治直、小出稚子、安良岡章夫
曲目
向井航:「クィーン」ユーフォニアム、エレキギター、女声アンサンブルと大オーケストラのための(オルガン付き)〈世界初演〉
(第33芥川也寸志サントリー作曲賞受賞記念 サントリー芸術財団委嘱作品)
第35回芥川也寸志サントリー作曲賞候補作品(3作品)
サントリー音楽賞
https://www.suntory.co.jp/sfa/music/prize/
佐治敬三賞
https://www.suntory.co.jp/sfa/music/saji/
芥川也寸志サントリー作曲賞
https://www.suntory.co.jp/sfa/music/akutagawa/