團伊玖磨&プッチーニ、ふたりのアニバーサリーを組み合わせた100年プログラム

神奈川フィルハーモニー管弦楽団(c)藤本史昭

日本を代表する名手たちが誘うオペラ・ガラ・コンサート

 2005年にスタートし、今や夏の風物詩として毎年3万人が訪れるクラシック界きっての人気イベントであるフェスタサマーミューザ KAWASAKI。今年は主会場となるミューザ川崎シンフォニーホールが開館20周年を迎え、またフェスタサマーミューザも20回目というアニバーサリーの年となっている。毎回、首都圏をはじめとする日本の著名なオーケストラが登場。趣向を凝らしたコンサートを開催しており、各楽団の演奏を聴き比べるというのも、フェスタサマーミューザの楽しみのひとつだ。常連オーケストラのひとつである神奈川フィルハーモニー管弦楽団は、今年アニバーサリーを迎えているふたりの作曲家、生誕100年の團伊玖磨と没後100年のジャコモ・プッチーニの作品を演奏するという興味深いプログラムを発表している。題して「100周年オペラ・ガラ」。

 指揮を務めるのは、今や日本のオペラ界にとってなくてはならない存在の園田隆一郎だ。園田はイタリアでの指揮者デビューが《トスカ》、その後の日本デビューは《ラ・ボエーム》という、そのキャリアをプッチーニで始めた、いわばこの作曲家のスペシャリスト。また團伊玖磨作品も、今回プログラムされている《夕鶴》、「新・祝典行進曲」は何回も演奏してきているという。そんな園田は、團伊玖磨とプッチーニの共通点について、「二人とも人間の内面(今回のプログラムでいうと愛の喜び、不安、絶望、後悔など)の細かなグラデーションを描く手法が素晴らしくて、それだけに、勢いや情熱だけではない緻密なアプローチが必要な手強い作曲家だといつも思っています」と分析している。どちらも「歌」と「メロディ」を堪能できるふたりの作品に、存分に浸れる演奏会となりそうだ。

園田隆一郎(c)Fabio Parenzan

 さて、プログラムと出演者を紹介しよう。團伊玖磨は、代表作である歌劇《夕鶴》から、主人公「つう」のアリア〈与ひょう、あたしの大事な与ひょう〉をソプラノの木下美穂子が歌う。つうを歌うのはこれが初めてという木下は「日本オペラの代表作品の《夕鶴》を、日本人の感性でつうの世界を表現できたらと思っています」と意欲満々だ。管弦楽作品は「新・祝典行進曲」の他に、組曲「シルクロード」がプログラムされており、團伊玖磨という作曲家の音楽世界を知ることのできる貴重な機会といえるだろう。

木下美穂子(c)FUKAYA/auraY2

 プッチーニ作品にはテノールの笛田博昭も出演。《ラ・ボエーム》からアリア〈冷たい手を〉、《トスカ》から〈星は光りぬ〉、《トゥーランドット》から〈誰も寝てはならぬ〉ほかを歌う。幅広いレパートリーを誇る笛田だが、今年はプッチーニの作品を歌う機会が多いそうで、「この作曲家の良さを改めて感じています。その甘美なメロディを存分に味わっていただけるよう、頑張って歌いたいと思います」と意気込みを話してくれた。

笛田博昭(c)Takafumi Ueno

 ヴェルディと並んでプッチーニを大切にしており、これまでいちばん多く歌ってきたのがプッチーニ作品だという木下は、「どの作品も言葉と一体になった音楽が素晴らしく、プッチーニを歌う時はいつも幸せな気持ちになります」と語っている。今回も《ラ・ボエーム》から〈私の名はミミ〉、《トスカ》から〈歌に生き、愛に生き〉、《トゥーランドット》から〈氷に包まれたあなたも〉などのアリアを歌う。木下、笛田ともに日本を代表する優れたオペラ歌手であり、その美声と表現力の豊かさは抜群。舞台における存在感もピカイチのふたりによる《ラ・ボエーム》の二重唱〈おお、優しい少女よ〉が聴けるのもとても楽しみだ。

 神奈川フィルは近年、特にオペラに力を入れてきている。昨年は《サロメ》、そして今年は《夕鶴》をセミステージ形式で上演し、オペラの舞台にひけをとらない非常に満足度の高い演奏を披露してくれた。そんな神奈川フィルだからこそ、團伊玖磨とプッチーニの作品を同時に演奏するという企画が生まれたのだろうし、またおそらくそれはとても豊かな音楽体験となるに違いない。

 では最後に、三人からのメッセージを紹介しよう。
「ますますオペラに力を入れている神奈川フィルの皆さんとまた共演できることを本当に嬉しく思っています。イタリアと日本のオペラ作曲家による、ここでしか聴けない100周年プログラム。木下さん、笛田さんと一体どんな化学変化が起きるのかも、どうぞお楽しみに!」(園田)

「アリアから重唱まで盛りだくさんなので、全部が聴きどころです」(笛田)

「一つの公演で日本を代表する作曲家の團伊玖磨さんの音楽と、イタリアオペラの代表的な作曲家であるプッチーニを味わえる大変珍しいプログラムだと思います。イタリアオペラのスペシャリストのマエストロ園田さんと、イタリアンテナーの笛田さんと、3人+神奈川フィルでどのような音楽が生まれるかとても楽しみです。きっとここでしか味わえない音楽になると確信しています」(木下)

文・室田尚子

フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2024
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
團伊玖磨&プッチーニ 100周年オペラ・ガラ

2024.8/8(木)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
14:20~14:40 プレトーク

指揮:園田隆一郎
ソプラノ:木下美穂子
テノール: 笛田博昭

プログラム
〈團伊玖磨生誕100年〉

新・祝典行進曲(管弦楽版)
歌劇《夕鶴》から〈与ひょう、あたしの大事な与ひょう〉
管弦楽組曲「シルクロード」
〈プッチーニ没後100年〉
歌劇《ラ・ボエーム》から〈冷たい手を〉 〈私の名はミミ〉〈おお、優しい少女よ〉♠♡
歌劇《トスカ》から〈歌に生き、愛に生き〉 〈星は光りぬ〉
歌劇《蝶々夫人》から〈ある晴れた日に〉 〈さらば愛しの家〉
歌劇《トゥーランドット》から〈氷に包まれたあなたも〉 〈誰も寝てはならぬ〉

問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/calendar/detail.php?id=3850

特集:フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2024
今年で20回目の開催となる日本最大級のオーケストラの祭典「フェスタサマーミューザ KAWASAKI」。ホスト・オーケストラの東京交響楽団をはじめとする首都圏の9団体に、初登場の佐渡裕&兵庫芸術文化センター管弦楽団、9年ぶりの吹奏楽企画となる「浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァル ワールドドリーム・ウインドオーケストラ」を加えた全11団体が日替わりで登場。「夏音(サマーミューザ)!ブラボー20周年」を合言葉に熱き競演を繰り広げる。その他、小曽根真が次世代のミュージシャンたちと一夜限りのセッションを披露する「サマーナイト・ジャズ」、ライプツィヒ聖トーマス教会のオルガニスト、ヨハネス・ラングによる「真夏のバッハ」、ホールアドバイザー小川典子のライフワーク「イッツ・ア・ピアノワールド」と恒例企画も充実の内容。アニバーサリーにふさわしい珠玉の19公演。ぜひ会場で聴き比べたい。