山下裕賀(ソプラノ)&井出壮志朗(バリトン)

活力みなぎる区民合唱団とともに作り上げるオペレッタの最高傑作

左:山下裕賀
右:井出壮志朗

 今の日本でオペラの客層の幅が一番広いのは「市民参加型公演」。合唱団の熱意が家族も周囲も楽しく巻きこむ。今回、大田区民ホール・アプリコが取り組むのは、ヨハン・シュトラウスII世作曲のオペレッタ《こうもり》。2019年度から始まった大田区文化振興協会のオペラプロジェクトであり、今回はコロナ禍を経て6年越しの全幕上演をついに実施する。区民合唱団では、歌えない時期もオンラインなどを駆使して歌う喜びを忘れず保ち、本番を迎えることに(日本語訳詞上演)。ちなみに、今年度、子どもたちには《こうもり》の広報宣伝を担ってもらい、みな、各種のワークショップを楽しみつつ、合唱団の大人たちと一緒に公演を盛り上げてゆく。

 《こうもり》のドラマは、ウィーン郊外を舞台に、倦怠期にある中年夫婦が浮気心を互いに募らせるというもの。最後は笑って幕となるが、今回は我がままオルロフスキー公爵を男女で演じ分けるという異色のダブルキャスト。バリトン井出壮志朗とメゾソプラノ山下裕賀に抱負を訊ねてみた。

井出「《こうもり》は以前、小澤征爾音楽塾『子どものためのオペラ』でファルケ博士を演じましたが、まさかオルロフスキーに起用されるとは! 今回、日本語訳詞で歌いセリフも喋りますから、皆様にストレートに伝わるでしょう」

山下「声の出し方としては、ヨーロッパの曲も日本語で歌うのも変わらないですが、言葉をよりクリアに出せるよう、悩みつつも楽しんでゆきたいです」

 思うに、オルロフスキーとはどんな人?

井出「邸宅を社交場にする大貴族ですが、真の友だちはそこまで多くないのかな。暇を持て余し、『異国の地で面白いことを常に探す人』でしょうか。ただ、お客には『自分を楽しませるなら酒でも飲めよ』と迫るパワハラ気質の人ではありますね(笑)」

山下「青年貴族でお金も才能も余裕もあり、何も不足していない。だから逆に退屈なんでしょうか。持ち前の才能があるのにそれを出せる場所もないようです… でも、このドラマで起こることは、オルロフスキー的には『面白く、キラッと光る事件』なんでしょうね」

 ちなみに、今回の出演者たちと指揮者、演出家の顔ぶれは、まさに「綺羅星の如く」といった華やかなもの。国内中の大物が勢ぞろいといっても良いだろう。

井出「指揮の柴田真郁さんは、歌い手のペースをよく見ながら振ってくださる有難いマエストロです。音楽表現の面でも、こちらが考えてもいないようなアイディアをたくさん出してくださいます」

山下「演出の髙岸未朝さんは、歌手一人ひとりの個性を踏まえて役柄を作ってくださる方です。前にもご一緒しましたが、何よりエネルギーが凄く、市民合唱団の皆さんを盛り上げるのもとても上手い方で、今回の現場も楽しみです」

 久しぶりの区民オペラ。皆で賑やかに華やかに。乗りに乗って演じたい。

井出「合唱の皆さんには作品を一緒に楽しんでいただきたいです。特にオルロフスキーは合唱と一緒のシーンがほとんどですから、萎縮せずガンガン自分を出してくださればと思います」

山下「2月にプレコンサートで、合唱団の方たちと一緒に舞台に立ちました。まあ、皆さん、前のめり(笑)。歌いたいエネルギーの塊で目力ぎんぎんの方々ですから、本番でも乗ってくださるでしょう。ご期待ください!」

取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2024年7月号より)

Future for OPERA in Ota,Tokyo 2024
ヨハン・シュトラウスII世 オペレッタ《こうもり》全幕(日本語上演)

2024.8/31(土)、9/1(日)各日14:00 大田区民ホール・アプリコ
問 大田区民ホール・アプリコ03-5744-1600
https://www.ota-bunka.or.jp
※配役などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。